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2013.02.22

「青葉耀く 敬恩館風雲録」下巻 武士の義と人間の情の対決

 僻村から城下の藩校に入学した大月寅之助と矢島小太郎。二人のうちどちらかが、藩主の御落胤と睨んだ京とお鈴は、寅之助の父・慎兵衛から意外な真実を告げられる。真実の重みに藩校を飛び出した寅之助。しかしその間も魔の手は彼らに迫る。彼らを守る謎の人物の正体は、そして御落胤の行方は?

 米村圭伍が描く青春時代小説の下巻であります。
 出雲国千歳藩の僻村に育った二人の少年、大月寅之助と矢島小太郎。かたや力自慢だが勉強はからっきし、かたや頭脳明晰だが虚弱体質と、全く正反対ながら親友同士の二人が、城下の藩校・敬恩館に入学したことから、思わぬ波瀾が巻き起こることとなります。

 その波瀾とは、いわゆる御落胤騒動。寅之助と小太郎、どちらかが藩主の御落胤だというのですが、もちろん(?)二人はその事実を知りません。
 知っているのは陰謀により毒殺された双葉姫の学友だった京とお鈴の美少女コンビ「河童組」。姫の末期の言葉から彼女の弟に当たる御落胤の存在を知った二人は、御落胤を守るため、独自に行動を開始するのですが…

 そしてついに寅之助の父・慎兵衛が、京とお鈴、そして寅之助を前に、重い口を開いたところで幕となった上巻に続く下巻では、冒頭から意外な真実が語られることとなります。
 確かに存在した藩主の御落胤を隠し、守り通すために、寅之助の両親と小太郎の両親が立てたある策。それは、慎兵衛の話を聞いた三人、なかんずく寅之助にはあまりにも重すぎる意味を持つものでした。

 その重みに耐えかねた寅之助は藩校を飛び出して行方をくらまし、河童組の二人もまた、己の為すべきことに悩むこととなります。そしてその秘密を知った筆頭家老の息子・淳市郎と、お鈴の弟・正助もまた…


 江戸時代の武士にとって、最も大事なものは何かと言えば、それは突き詰めれば「家」「血筋」でありましょう。
 そして特に主持ちの身にとっては、主君のそれは、何よりも――自分自身の子を犠牲にしても――守るべきもの、と言えるかもしれません。
 本作で寅之助や京・お鈴ら少年少女が直面するものは、まさにその武士の世界の大義。(商人の子のお鈴はともかく)武士の血を引くものにとって、その大義は絶対のもののはずなのですが…

 本作で、特にこの下巻において描かれるのは、武士としての「義」と人間としての「情」の対決――そういうことができるでしょう。
 大人の世界、武士の世界であれば当然の理屈であっても、それを受け入れるには彼らはまだ若く――そして何よりも、人として無垢でありすぎる。そんな青く危なっかしい、しかし人としてみれば誠に正しい心を持つ少年少女たちが、友達のために奮闘する姿には、心を熱くせずにはいられません。

 もちろん彼らとて一枚岩ではありません。目指すところは同じでも、その目的は異なる――どころか正反対、やはり大人の論理で動く者もいるところが(そしてまた、彼もそれに戸惑いを感じているのですが)またややこしく、そしてリアルに感じられるのであります。

 人の生き死にという選択肢を背負わされることはまずないとはいえ、現代においても青春時代は大人の論理と若者の論理の間で揺れ動くことばかり。
 確かに極端なシチュエーションではありますが、本作で奔走する少年少女の姿からは、いつの時代にも通じる青春時代の爽やかさと、それと背中合わせのほろ苦さが感じられるのです。

 そして青春時代は、単に若者たちの側のものだけではありません。この下巻で若者たちを守って活躍する謎の助っ人もまた、ある意味青春時代のまっただ中にあるのですが――個人的には、この人物とほとんど同年代だけに、彼の想いが痛いほど伝わって参りました。
 なるほど、武士としての「義」と人間としての「情」、言い換えれば大人としての「理屈」と子供としての「感情」がぶつかりあう時代を青春と言うのであれば、なるほど、それに肉体的な年齢は関係ないのかもしれません。


 そんな、爽やかでほろ苦い青春を描いた本作ですが、しかし物語自体はこれで完結、というわけではありません。まだまだ「敵」の陰謀の全てが粉砕されたわけではなく、少年少女たちもまた、自分たちが背負ったものの正体にいまだ気付かないままなのですから…(特に一人、全く蚊帳の外に置かれている人物がいるのが残念)。
 本作の続編が少しでも早く発表されることを祈る次第です。

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青葉耀く 敬恩館風雲録(下)


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