「寝台特急あさかぜ鉄人事件」 二つの世界と我々の世界を重ねる愛
正直なところとても良い読者とは言い難い私ですが、芦辺拓作品の魅力は、本格ミステリとしてのそれに留まらず、ジャンル小説への深い愛情と、「物語ること」の強い意識からくる一種メタ構造にあるのではないか、とは常々感じているところです。 「鉄人28号」を題材としたアンソロジー「鉄人28号 THE NOVELS」に収録されている本作「寝台特急あさかぜ殺人事件」も、その意味では紛れもなく芦辺作品であります。
本作は、元々は小学館から発売された「カラー版鉄人28号限定BOX」のBOX2に収録されていた作品。BOXに収められた7巻の分冊に一話ずつ掲載され、BOX内で完結する、BOX内連載小説とも言うべき、ユニークな形式で発表された作品です。
タイトルとなっている寝台特急あさかぜは、いわゆるブルートレインの元祖とも言える列車。本作は、物語の舞台となる時代では最先端の乗り物であるあさかぜと、もう最先端の乗り物であるハンドレページ・マラソン(レシプロ機)、二つの最先端の乗り物を主な舞台として展開していきます。
事件の一つ目は、大塚署長のもとに届けられた、謎のフィルム。そのフィルムには、あろうことか大都市福岡が破壊されていく映像が…! その謎を解くべくレシプロ機「浪速」で九州に向かった正太郎は、村雨健次が乗った日航機が、PX団にハイジャックされたことを知ります。
そして事件の二つ目は、大阪市警視庁の刑事・森江春太郎が、タイトル通りに寝台特急あさかぜで遭遇した殺人です。
かつて正太郎と対決したS国のスパイ・ニコポンスキーがあさかぜの中で射殺した男。しかしその男は、あさかぜに乗った記録がない男だったのです。
そしてニコポンスキーも、ハイジャックされた飛行機に乗っていたことが確認されていたのですが――
果たして被害者の男は、走る密室であるあさかぜに、いつどこで乗り込んだのか。そして確かにアリバイがあるはずのニコポンスキーが、どうやってあさかぜでその男を射殺することができたのか…? 二つの事件は、意外な形で結びつくことになります。
BOX内連載小説といえども、全体の分量としてはあくまでも短編。しかし本作はそんな中で、正太郎少年と大塚署長、敷島博士はもちろんのこと、村雨健次やニコポンスキー、ロビーにPX団といった有名人(?)を全て登場させるという荒技に挑戦しています。
そしてそれを――キャラクター小説としてのきっちりと目配りした上で――成立させ、さらに自らのキャラクターである森江春策…の父・春太郎を、正太郎に並ぶ一方の主人公として登場させる。その上で、本格ミステリとしての事件を描いてみせる…
いやはや離れ業の連続にただただ驚かされるばかりであります。
もちろん、さすがにキャラクターを詰め込みすぎな感は皆無ではありませんし、あさかぜでの事件の真相も、偶然頼りの部分が大きすぎると言う印象があります。
しかしそれでもなお、本作が非常に魅力的なのは、本作の中心となるトリックが、非常に豪快ながらも、この世界観ならではの整合性に沿ったものであることがまずあります。
そしてそれ以上に、巧みに重ね合わされた「鉄人28号」の世界と芦辺拓の森江春策ものの世界(冒頭の世界少年探偵会議も含めると世界の数は大変なこととなるのですが)に、もう一つ、ラストで我々の世界に重なってくるその姿が、実に美しく感じられるからにほかなりません。
本格ミステリというルールを守りつつも、世界と世界、物語と物語を重ね、そこに更に現実世界を重ねることにより、「我々の物語」として成立させてみせる――まさに作者ならではの、「鉄人28号」と物語への愛に溢れた作品であります。
「寝台特急あさかぜ鉄人事件」(芦辺拓 「鉄人28号 THE NOVELS」所収) Amazon

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