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2013.03.15

「後巷説百物語」第3巻 江戸の仕掛けと明治の謎

 池袋村の旧家・塚守家の鼻つまみ・伊之助が、くちなわ塚の封印されていた祠の中の石函を暴き、中に潜んでいた毒蛇に噛まれて死んだ。これが果たして事故か何者かの仕組んだものか悩んだ四人組は、薬研堀の一白翁に相談に向かう。一白翁は、実は祠が建てられた時にその場に居合わせたというのだが…

 明治と江戸と、二つの時代を舞台に、不可思議な事件の謎を描く「後巷説百物語」漫画版の第3巻「手負蛇」であります。

 事の起こりは池袋村のくちなわ塚なる場所に建てられた祠で起きた一人の男の死。土地の名家・塚守家の先代当主の息子でありながら、どうしようもないロクデナシの男・伊之助が、塚に隠されていると言われる家の財宝を探して祠を暴き、毒蛇に噛まれて死んだのであります。

 一緒にいた者の証言によれば、毒蛇は伊之助が祠の中にあった石の函を開けたところ、中から飛び出したと言うのですが…しかし祠は数十年前に封印され、開けられた形跡もなく、重い石の函の蓋は、蛇が出入りできるようなものでもない。
 そもそもこの蛇の入った石の函は、七十年前に伊之助の祖父・伊三郎の頃からあったというのですから、もしそれが本当だとすれば、七十年間生きた蛇が伊之助を殺したのか? 
 弱り果てた巡査の剣之進をはじめとするいつもの四人組は、いつものごとく薬研堀のご隠居こと一白翁を訪ねることとなります。


 と、これまでの二編では、一白翁=山岡百介が語る過去の事件(仕掛け)が一種のヒントとなって、四人組が持ち込んだ謎が解けるという構造でしたが、今回は、現代=明治の謎が、そのまま過去=江戸の仕掛けと、直接の因果関係を結んでいる点が、最大の特徴でありましょう。

 実はも四十数年前に、伊之助同様、蛇に噛まれて死んだ伊之助の父・伊佐治とその妻。その事件を取材に訪れた百介は、伊佐治の父・伊三郎もまた、実は蛇に噛まれて死んでいたという奇怪な因縁を知ります。
 流れ者の伊三郎を助けたことで見る見る栄えた塚守家。しかし伊三郎と家族は周囲の村人から憑き物筋と差別され、その果てに彼はくちなわ塚で蛇に咬まれて最期を遂げたのです。

 件の祠は、一連の蛇の祟りを鎮めるため、百介が又市に依頼して作ったもの――ということは、当然「仕掛け」に係るものではあるのですが…それが何故明治の世に甦ったか?
 もちろんそれが本作の肝ゆえ、詳細には触れませんが、ここでキーワードとなるのは「祟り」の存在。ある文化の影響下で、それを受ける者の心持ちが発生せしめるもの、とここでは整理される「祟り」の存在が、江戸と明治を結んだのであります。

 シリーズの多くに見られるように、本作で描かれる直接のトリックはいささか力任せではあるのですが、しかし大事なのは、江戸の仕掛けを明治にまで生かした人の心、「祟り」を恐れる人の想いにあることは間違いありません。
 「祟りが生きていた」――そうつぶやく一白翁の複雑な心中に想いを馳せれば、こちらも粛然とした気持ちにならざるを得ません。

 これまで妖怪譚を通じ、様々な形で江戸と明治、過去と現在を繋いできた「後巷説百物語」。今回のエピソードもまたその一つであり――そして仕掛けを通じて直接繋がっているだけに、より二つの時代で変わらぬもの、異なるものが印象に残るのです。

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