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2013.03.07

「蝶獣戯譚Ⅱ」第4巻 彼女の素顔、彼女の情

 吉原の太夫と、はぐれ忍びを狩る狩人と…全く異なる二つの顔を持つ胡蝶太夫/於蝶の姿を描く「蝶獣戯譚Ⅱ」、先日の第3巻に続き、第4巻の登場であります。
 ハードな戦いが続いたこれまでに比べれば凪の状態にも見える今回ですが…

 はぐれ忍びを束ねる裏切り者・一眞と切支丹宣教師・金鍔次兵衛が手を組んでの吉原侵攻を辛うじて食い止めたものの、心身ともにダメージを受けた於蝶。しかし、一眞と次兵衛の側も大きな痛手を受け、一端地下に潜った今、彼女は久々に吉原の太夫としての顔を見せることとなります。

 狩人として刃を振るう時には、恐ろしいほど冷めた瞳を見せる彼女ですが、しかし今回は、作品が始まって以来、ほとんど初めてではないか、とすら感じられるほどの百面相を見せてくれます。
 あらゆる感情を殺したような狩人・於蝶の顔ではなく、一人の年頃の女性・胡蝶として――様々な顔を見せてくれる彼女の喜怒哀楽は、なかなかに魅力的に感じられます。

 もっとも、その喜怒哀楽も吉原の太夫ゆえのもの、と言う向きもあるかもしれませんが、しかしこの巻で描かれた、胡蝶と男たちの出会いの姿は、そうした手練手管とは無縁に感じられるもの。
 己の生きた証として、旅立つ前に胡蝶の背に絵を描こうとする絵師(その姓と時代背景からして、あの人物かと思いきや息子の方だったのにはやられました…)。
 狩人と太夫と、決して安逸ではない道でただ寡黙に胡蝶を、於蝶を支える磊蔵。
 そして、多くの者にかしづかれながらも、それゆえに大きな孤独を抱えるある人物…

 そんなそれぞれの形で純な男たちに触れて、彼女の素顔も、自然な顔で表れるのであります。

 もちろんそれは、忍びにとっては弱さなのかもしれません。
 庄司甚右衛門と、今回初登場の鳶沢陣内(いつか必ず登場すると思いましたが、なかなかに食わせ者で実にイイ)が評するように、彼女は「完全な強さ」を持った忍びにはほど遠い存在なのでしょう。

 しかし、この巻で彼女が接した男たちの姿を――そして彼らと接した彼女の姿を見れば、於蝶のその「弱さ」は、決して否定されるべきものではないと感じられるのです。

 これまで迷いや揺らぎといった、危うさとして表れてきた感のある於蝶の中の「情」は、このように解することもできるのか、と今さらながらに感心いたしました。


 しかし、静かな日々もそう長くは続きません。次兵衛の次なる企み――というネガティブな言葉を使って良いものか、実は少々ためらわれるのですが――に対して、於蝶に下された次なる任務はなんと…

 いやはや、今回の任務ばかりは、於蝶ならずとも驚きますし、メインの舞台から離れすぎのような気もさすがにいたしますが、しかし、それだからこそ描けるものもあるはず。(上で触れた三人目の男との出会いは、この任務でなければあり得なかったのですから…)

 その中で於蝶が、胡蝶がどのような顔を見せてくれるのか、期待しているところであります。


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