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2013.03.18

「忍剣花百姫伝 6 星影の結界」 悩める若者たちと見守る大人たちと

 古から地中に眠っていた天の磐船が復活、磐船が飛ぶ後からは、地獄の七口が次々と開き、死者と魔物の軍勢が溢れ出す。遂に魔王の真の復活の時が来たと知った捨て丸(花百姫)と忍剣士たちは肥前の地に向かうが、既にそこでは魔道の者たちが暗躍を始めていた。最後の五鬼の城に封印されたものとは…

 大河戦国ファンタジー「忍剣花百姫伝」の文庫化も、ついに残すところ本作を含めてあと二冊。すなわち本作はラスト一つ前――一般に最も盛り上がることが多い時期ですが、本作もそれに違わず、最初から最後まで怒濤の盛り上がりであります。

 展開の早さとキャラ・イベント・ガジェットの盛りっぷりでは、これまでもかなりのものがあった本シリーズですが、本作もこれまで同様、いや、これまで以上の充実ぶりであります。
 何しろ冒頭から、かつて天から落ちてきて幾つもの破片に分かれ、大地の底に埋もれたという超古代の空飛ぶ磐船が復活、各地から破片を集めて復活を続けつつ、一路肥前に向かって空を往くという展開。
 しかも、磐船の力は、かつて五鬼四天が封印した地獄の七口を次々と開き、そこからあふれ出た魔物たちが死体に取り憑き、巨大な軍勢となって溢れ出すという黙示録的光景が展開されるのですからたまりません。

 前の巻――50年後の未来での戦いで深傷を負った霧矢、そして緑の妖光を放つ魔王の燐光石のかけらを胸に受けた捨て丸=花百姫は、完全に癒えぬ体を押して立ち上がり、磐船を追い、魔の軍勢を滅ぼすために旅立つことになります。
 さらに、忍剣士たちを敵と嘯きながらも、魔王軍とも袂を分かった美剣士・美女丸、そして彼と複雑な因縁を持つ小太郎と鳴神もまた、決戦の地・肥前へ――

 五鬼最後の城・浮岩城で蠢く魔の者の狙い、戦国時代のテクノロジーでは作れるはずのない短銃、美女丸と因縁を持つ笛吹一族、未来からやって来た女妖忍…とにかく面白そうな、いや本当に面白いアイディアを満載して展開していく本作。
 正直な印象としては、磐船の登場にいささか唐突なものを感じないでもないのですが、そこから始まる怒濤の展開の前には、そんなことは小さい小さい。二転三転、いや四天くらいはするクライマックス、そして最終巻に直結するエピローグに至るまで、全くもって目の離せない一級のエンターテイメントであります。


 …しかし、本作の、本シリーズの優れた点は、時代ファンタジーとして面白いというだけではありません(もちろんそれは最も重要な点ではありますが)。
 その物語の中で、運命の荒波と自らの無力さに苦しみながらも懸命に未来に向かおうとする若者たちの姿と、そして彼らを時に見守り、時に支える大人たちの姿を丹念に描く点こそが、真に優れた点ではないかと、シリーズ全体のクライマックスに至り、今さらながらに感じさせられました

 呪いの燐光石により命をすり減らしながらも、愛する者――愛する霧矢のために自らの身を投げ出そうとする捨て丸。未だ忍剣士としての力に目覚めず、戦う力もない己に苦しみながらも、懸命に師の背中を追う醜草。戦いの中で己の記憶を失い、寄る辺を失いながらも剣を振るう天兵。
 そして、孤独な復讐鬼として戦い続けてきた中で、人間性と言うべきものが目覚め始めた美女丸…

 彼らの悩みは、もちろんこの物語の枠組み、物語あってのものであります。しかしその根源にあるものは、いつの時代も変わらぬ(いささかこの言葉を使うのは気恥ずかしいのですが)青春の悩みでありましょう。

 しかし彼らは孤独ではありません。霧矢が、夢候が、伊留加が、那扉鬼が、そして水魚が――若者たちを見つめ、慈しみ、扶ける姿は、時空を自在に超えることにより、時の流れで結ばれた人と人との繋がりを描く本シリーズならではの、先に往く者と後から来る者、継ぐ者たちの姿を、美しく描き出します。
 そしてそれは、本作が後から来る者たちのための物語――児童文学であることと、無縁ではありますまい。


 稀有壮大な時代ファンタジーを横糸に、時を超えた人と人との絆を縦糸に…美しく織りなされてきた「忍剣花百姫伝」も、残すところわずか一冊。
 物語が完結した時、そこに何が描き出されるのか――今はただ、その時を待ちましょう。


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