「写楽あやかし草紙 花霞のディーバ」 写楽への執着の理由は
鎌倉の山中に帰るという上総に反発し、家出した楽真が偶然出会ったのは、巷で大人気の少女歌手・飛鳥井彩音と、彼女のパトロンの鏡未伯爵だった。何故か伯爵に気に入られた楽真は、連続する奇怪な失血死事件に、彩音が関係あるらしいと知り、伯爵邸の舞踏会に潜入することとなるのだが。
あの東洲斎写楽が妖の眷属となって生き延び、大正の帝都に現れるという奇想天外な「写楽あやかし草紙」のシリーズ第2弾が早くも発表されました。
前作は舞台の世界でしたが、今回は麗しの歌姫を巡り、楽真が再び奇怪な事件に巻き込まれることとなります。
江戸時代に芝居小屋の火事で命を失ったのを、妖の頭領・上総に妖としての新たな命を与えられ、彼の眷属となった写楽=楽真。以来、不老の身となった楽真は、人の世に仇なす妖を狩る上総とともに人知れず奇怪な戦いを繰り広げてきた…というのが、本シリーズの基本設定。
しかし前作で俳優として楽真が顔を晒したことで、密かな活動ができなくなったため、楽真は上総の本拠地である鎌倉に帰ることになって――というのが前作のラストでしたが、本作はそのほぼ直後から始まります。
自分より格上の妖たちが山といる鎌倉を嫌い、家を飛び出した楽真が、新橋界隈をさまよううちに出くわした群衆。鏡未伯爵邸を取り巻く彼らは、熱狂的な人気を博する歌姫・飛鳥井彩音を一目見んと集まったのでした。
憑かれたような群衆に巻き込まれ、大事にしてきた自分の絵を周囲にばらまく羽目となった楽真。が、偶然絵を目にした伯爵は、初対面の楽真を大いに気に入り、邸に招待します。
実は伯爵は大の浮世絵コレクター。中でも写楽の大ファンだという彼は、対象もタッチも全く異なる楽真の絵に、写楽に通じるものを感じたというのですが、これには楽真も喜んだり冷や汗をかいたり。
一方、楽真の家の近くでは、カラカラに干からびた人間の死体が見つかり、大騒動に。しかも日本中で見つかっていたその変死体は、彩音の公演が行われた地で見つかっていたことがわかって…
かくて、事件の背後に彩音と伯爵の存在を感じた上総の命により、楽真、そして楽真の兄貴分であり、彩音と何やら因縁のあるらしい天狗・戒は、伯爵邸の舞踏会に潜入することになる、という展開であります。
正直なところ、楽真が事件の真相に少しずつ近づいていく様が描かれた前作に比べると、本作はかなり駆け足かつ一本道の印象。
事件の容疑者が、どうみても怪しすぎる人物のため、ほとんど疑いようがないというのが、その印象を強めます。
もっとも、今回の中心人物の一人である鏡未伯爵が写楽マニアというのは面白い趣向。
なるほど、大正時代は写楽が再評価されつつあった時期でもありますし、伯爵がほとんど初対面の楽真に異常に執着する=楽間が事件の中心に巻き込まれる理由となっているのは、なかなかにうまい構成かと思います。
しかし、大正の世に妖として生きる写楽の想いがドラマの原動力の一つであった前作に比べると、今回の趣向はかなり弱い。その辺りのキャラクター面のドラマは、今回は戒と彩音の関係性に関する部分が担当してるように感じますが、やはり前作に比べると、そこに主人公が絡む要素があまりないだけに、物足りないものがあります。
(さらに、楽真を取り巻くキャラが一気に増えたのもその印象を強めます)
そして何よりも気になるのは、楽真の主人たる上総が、他の妖に対するものとは異なる執着を楽真に示す理由がさっぱり見えないことで――特に今回、人間側にも楽真にモノマニアックな執着を見せるキャラクターがいただけに、その辺りの対比の意味でも、上総の想いは掘り下げて欲しかったと感じた次第です。
今後もシリーズは続いていくものと思われますが、もう少し腰を据えて書いていただきたい――と、いささか厳しいですが、それが今の正直な感想であります。
「写楽あやかし草紙 花霞のディーバ」(希多美咲 集英社コバルト文庫) Amazon

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