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2013.03.19

「戦都の陰陽師 迷宮城編」 二つのクライマックス、果心との決戦!

 松永久秀の多聞山城から霊剣・速秋津比売の剣を奪還した土御門光子と七人の伊賀忍び。しかし霊剣は果心居士の施した強力な蠱物に封印されていた。霊剣の封印を解き、この世を魔の世界に変えんとする果心居士を討つため、信貴山城に向かう光子たち。しかし城は奇怪な迷宮と化していた…

 戦国時代を舞台に、安倍晴明の血を引く陰陽師姫・土御門光子と彼女を守って戦う七人の伊賀忍びたちが、この世を蝕む奇怪な魔物たちと対決する「戦都の陰陽師」シリーズ。その第3弾にして、前作「騒乱ノ奈良編」の完結編とも言うべき内容となっています。

 松永久秀を操り、この世を魔の世界に変えようと目論む妖人・果心居士が魔界より呼び出した四人の大天狗により、土御門家から奪い取られる霊剣・速秋津比売の剣。
 唯一魔に対抗できる力である速秋津比売の剣を奪還するため、再び旅立った光子、そして疾風たち七人の伊賀忍びは、松永軍や大天狗、果心の妖術と激しい戦いを繰り広げつつも、ついに霊剣を奪還するのですが――
 しかし霊剣に仕掛けられていた強力な呪いにより光子の体は蝕まれ、霊剣も封印されたままに…

 というのが前作のあらすじ。果たして光子は自分と霊剣に仕掛けられた蠱物を祓うことができるのか、疾風と仲間たちは光子を助け、果心居士を討つことができるのか。
 前作同様、松永軍と筒井軍・三好軍が激突する戦場と化した奈良で、光子たちは強大な敵に、絶望的な戦いを挑むこととなります。 何しろ、果心が久秀の背後にいる以上、松永軍全体が光子たちの敵。それに加えて、大天狗はまだ二人が残り、奇怪な妖虫・三尸に取り憑かれ不死身の魔人たちと化した妖忍軍、戦場を蠢く魍魎たちもまた、彼女たちの前に立ち塞がるのですから…

 前作の感想で挙げましたが、前作の不満点は、クライマックスに至るまでがひたすら長く、盛り上がりに欠ける点でありました。
 本作はその点を、中盤と終盤に二つのクライマックスを設けることで解消しています。
 中盤は、霊剣とともに春日大社に身を寄せた光子たちと、松永軍、そして大天狗との激突を。そして終盤は、奇怪な迷宮城と化した信貴山城での果心との最終決戦を――この二つの山場の存在により、本作はシリーズ屈指の盛り上がりを見せることとなります。

 特に春日大社の戦いでは、これまで悩みつつも松永方についていた熱血児・柳生新次郎が、活人剣の在り方を求めて参戦。さらにさらに松永久秀、果心居士と言えばこの人(?)のあの剣聖も登場し、読んでいるこちらのテンションも否応なしに盛り上がります。
 もちろん信貴山城の戦いも負けてはいません。外では筒井・三好軍が信貴山城を攻める中、妖魔が蠢くダンジョンの中で繰り広げられる死闘の釣瓶打ちを十分に堪能させていただいたと思っていたら、最後の最後にとんでもない怪物が出現、作者の第一作たる「忍びの森」を連想させる一種のモンスターホラーとなるのですからもう…


 しかし、手を変え品を変え、陰陽術と妖術、忍術と忍術、忍術と妖術の激突を描いてきた本作はまた、同時にその背後に、人々を苦しめる――それこそ現代にまで続く――矛盾・不条理の存在と、そして何よりも、それを食い物にして肥え太るモノたちの姿をも同時に描き出します。

 たとえば、中盤の戦いの舞台となる春日大社――そこは、戦で焼け出された人々が最後に頼る無縁所、アジールであり、いわば戦国最後のセーフティーネットであります――に集う人々の姿を嬉々として戦いに巻き込み、犠牲にする魔の軍勢の姿。
 たとえば、この世を平和にするためと称して、人々から一切の意志を奪い、魔界の神の従順な供物とせんと嘯く果心居士の姿。

 それらに向けられる光子の怒りと哀しみは、言うまでもなく作者自身のそれでありましょう。それは確かに一種の青臭さではあり、厳しい言い方をすれば、シリーズを通じて鼻につく部分ではあるのですが、しかし本作ではそれを光子の成長、光子の抱く想い、そして何よりも彼女の見つけた希望を通じて、かなりの部分昇華しているやに感じられます。


 本作の結末ではっきりと述べられているように、この先の時代では、これまで以上に、人々は統治者により自由を、自らの意志を奪われ、狭い世界に押し込められていくこととなります。

 果たして本シリーズがこの先も続き、その時代を描くことになるのか――それはわかりません。しかし本作の結末を見れば、光子とと忍びたちは、そんな中でもなお、小さな、しかし消せない希望を見出してくれるように感じるのであります。


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