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2013.03.08

「お面屋たまよし」 妖面が映し出す人の想い

 かぶれば己がなりたい姿になれるという妖面。面屋が裏の屋号で密かに売るというそれは、絶大な力を持つ一方で、一歩間違えれば面に飲み込まれ、荒魂となってしまう。御招山の天狗に拾われ、面作師に育てられた太良と甘楽は、面作師の修行として妖面を売る旅の中で、人の様々な顔を見る。

 ユニークなタイトルが並ぶ講談社のヤングアダルト向け文学シリーズ「YA! ENTERTAINMENT」。児童文学からワンステップ上がった世代に向けたこのシリーズには、時に時代もの好きとしても見逃せない作品が含まれております。
 不思議な力を持つ妖面を売る面作師見習いの少年二人の姿を描くちょっとダークな時代ファンタジー「お面屋たまよし」も、そんな作品の一つであります。

 本作の中心となるのは優れた面作師のみが作れる「妖面」なる面。かぶれば、顔ばかりか姿も変え、己がなりたい人間になることができ、己の願いを叶えてくれるという、絶大な力を持つ面です。
 しかしその力は諸刃の剣、面の力に溺れ、呑まれた者はその魂を喰らわれて「己」を失い、人ならざる荒魂と化してしまうのであります。
 そんな副作用があったとしても、妖面の力を得たい…本作は、そう望む者たちの想いの行方を描いた連作短編集であります。

 先に述べたとおり、本作のレーベルはヤングアダルト向けではありますが、しかし本作で描かれる世界はなかなかに重い。
 例えば第一話の「御招山の使者」で描かれるのは、許嫁が土地の金持ちの元に去ってしまい、その真意を問おうとする男であり、第四話の「ある兄の決断」では、育児放棄した母の代わりに弟たちを養いながら、母の自分たちに対する想いを確かめようとする少年の姿であります。
 物語のフォーマット紹介的な第一話はさほどでもありませんが、第四話では、どうやら体を売っているらしい母の本音を聞き出すために、見知らぬ若い男に変じて近づくという展開で、その結果も含めて、何とも重い気分にさせられます。

 その一方で、一風変わった方向から妖面の力を描いたのが、第2話の「枯れない花」。大きな商家の二女として生まれながらも外見が…な少女が、誰もが振り返るような美女になることを望む、というのは一見定番の展開のように見えますが、彼女がそれを望んだ理由というのが何とも気持ち良く、作中で随一の爽やかな内容となっています。
(もっとも、急に美しくなった妹を見た姉のリアクションが実に実にリアルで…)


 寡聞にしてジャンル名は存じませんが(仮に「悪魔との取引」ものと呼びましょうか)、本作のように、不思議な力を持つアイテムを購った人間が、その力により幸福を/不幸を(圧倒的に後者の割合が多いのですが)得るというスタイルの物語は、古今東西に存在します。その最もわかりやすい例は「笑ゥせぇるすまん」かと思いますが、本作もその系譜にある作品と言えるでしょう。
 しかしながら本作がユニークな点は、そのアイテムの売り手たる主人公の少年、太良と甘楽の二人が、実に純粋な少年たちなことかと思います。

 生まれてすぐに山に捨てられ、その山の主である天狗の王に拾われた二人。それが縁あって面作師の男に預けられて――
 という彼らの過去は、一種番外編的な第3話「へそ曲がりの雨宿り」で描かれるのですが、意外にも(?)周囲の愛に包まれて育った二人は、「悪魔との取引」を司るには、相当に陽性の…というより、ほとんど暗さのないキャラクターとして描かれているように感じます。

 それがプラスに作用している点、マイナスに作用している点、本作にはその両方が感じられますが、本作が仮に彼らの成長物語としての側面を持っているとすれば、この構造も頷けるものです。

 それを確かめるためにも、本作の続編は是非語られて欲しいと感じている次第です。


「お面屋たまよし」(石川宏千花 講談社YA! ENTERTAINMENT) Amazon
お面屋たまよし (YA!ENTERTAINMENT)

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