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2013.03.04

「妖怪と薬売り」 妖怪と人間と薬と

 薬売りを藩の産業とする富山藩で薬師を目指す青年・正助。藩の反魂丹役所の試験の課題で、河童の妙薬を作れという課題を与えられた正助は、正体不明の妖怪おたく・慶太と、その乳母のお八とともに旅に出る。とある山里を訪れた三人がそこで見たものとは…

 小説と漫画を問わず、まだ現代と過去とを問わず、相変わらず妖怪ものは人気を博しておりますが、大量に発表される妖怪ものの中でも、相当にユニークな部類の作品が、この「妖怪と薬売り」であります。

 主な舞台となるのは19世紀の前半の富山藩。加賀藩から分家して生まれ、相次ぐ水害等で苦しい状況にあったこの藩は、産業として反魂丹(死者を甦らせるものではなく、腹痛の薬)をはじめとする薬作りを奨励し、藩財政建て直しを行ったことで知られております。
(その際の手段となったのが、現代まで残った、あの富山の薬売り――先に薬のセットを置いておいて、使った分だけ代金をもらうというシステムであります)

 本作の主人公の一人は、その富山藩の薬師を目指す青年・正助。幼い頃に水害で一人だけ生き残った彼は、貧しい中で必死に勉強し、藩の反魂丹役所(反魂丹をはじめとする調剤・薬売りの管理・薬種の管理等、製薬全般を担当する機関)の薬師となることを夢見てきたのですが――いざ試験を受けてみれば、そこで幅を利かせるのはコネとカネ。河童の妙薬を作れ、という無理難題を与えられた正助は、同じく試験を受けていたどこぞボンボンらしい青年・慶太と、彼の異様に若く見える乳母・お八とともに、この難題に挑むこととなる…というのが、第1話「河童の妙薬」の粗筋であります。

 ――この辺り、出版社のサイトでも紹介されているので書いてしまいますが、実は慶太の正体は、次の(第2話以降は当代の)富山藩主・前田利保。以前は日陰の身分だった彼は、諸般の事情で急に家を継ぐこととなり、藩の主要産業とも言える製薬に目を付けて…
 というのが半分、残り半分は単なる妖怪オタクだからという理由で、強引に正助を連れて、諸国に伝わる妖怪・伝説絡みの秘薬伝承に首を突っ込む、という展開となります。


 先に言ってしまえば、部屋住み時代はともかく、さすがに藩主になってから水戸黄門的に旅に出る慶太のキャラクターは突っ込みどころではあります(さらに拘れば、「オタク」「親族会議」という単語が普通に会話に出てくるのもひっかかります)。
 漫画的に見ても、展開やキャラ造形に書き込み不足の点は皆無ではないというのが、正直な印象です。

 それでもなお、本作の魅力、本作が妖怪時代漫画として唯一無二の作品であるのは、言うまでもなく、その物語展開が、妖怪と人間の関わりを、薬という側面から描く――というよりも、むしろ逆に、妖怪と人間の関係から、薬とそれを裏打ちする技術を描き出した点でありましょう。

 聞けば作者は薬剤師の経験を持つとのこと。なるほど、それであれば薬にまつわる物語はお手の物…などと短絡的に述べるつもりはありません。
 しかし、何故妖怪など人智を超えた存在からの授かり物として薬が受け止められる(ことがある)のか、本作ならではの視点から描いているのは、評価できます。

 特に、人外の存在が生み出した一種の毒が、人の技術の積み重ねの末に薬として成立する様を描いた第3話は――シリーズ全体の一つの句読点的な意味も含めて――なかなかに示唆に富んだ内容に感じられるのです。

 先に述べたように、少々残念な部分もあるのですが、それもこの先の積み重ねで昇華されていくのではないか――そんな期待も含めて、まだもう少し、この先を見ていたい物語であります。


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