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2013.03.09

「魔界転生 夢の跡」 人間の想い、不死者の哀しみ

 剣と仇討ちに生きた人生を悔やむ田宮坊太郎は、天草四郎の誘いに乗り、魔界転生を遂げるが、捨て切れぬ人の心に苦しんでいた。ある日、かつて愛した女性と瓜二つの少女・お雛と出会う坊太郎。しかしお雛こそは四郎が探し求める魔界の門を開く鍵となる存在だった。四郎とお雛の間で苦しむ坊太郎は…

 以前、総まくり記事で取り上げたように、原作以外にも様々なメディアに展開され、アレンジされている「魔界転生」。本作はその中でも非常にユニークなものの一つ、少女漫画版の「魔界転生」であります。

 基本的なストーリーは、原作+深作欣二の映画版――すなわち、幕府への恨みから復活した天草四郎が、転生衆を集めて幕府転覆のために暗躍するのに立ち向かう十兵衛という展開(後半、魔界の門を開いてサタンを呼び出そうとする四郎、という展開はありますが)。
 転生するのは、天草四郎、田宮坊太郎、柳生如雲斎、宮本武蔵、柳生宗矩と、珍しく宝蔵院が抜けている(というより如雲斎が含まれているのが珍しい)のですが、まずは納得の顔ぶれです。

 …が、本作の最大の特徴は、冒頭のあらすじから察せられる通り、主人公が田宮坊太郎(!)である点であります。
 確かに、柳生十兵衛はそれなりに重要なキャラクターではありますが、登場するのは上巻の後半と遅めで(これはまあ原作通りですが)、転生衆との戦いも、実質的に如雲斎のみという展開。
 それに対して坊太郎は物語冒頭から登場し、転生衆と人間の狭間にある存在、魔界転生で再生しながらも人の心を残した存在として、様々な葛藤を抱えて「生きて」いくこととなるのであります。

 その坊太郎と他の転生衆を分かつものが何であったか――それは、復活を、再びの世を望む強い想いがあったものの、それが「己の剣を用いることと結びついていなかった」点にあります。
 他の転生衆が、己の剣の腕を証明したい、他の強者と戦いたい、己の剣術を以て立身出世したいという欲で以て転生したのに対し、坊太郎が望んだものは、剣を捨てて、愛する人と静かに暮らすこと――

 ある意味人選ミスと言ってしまえばそれまでではあります。しかし、(四郎を除いて)ある意味大往生を遂げた他の転生衆と違い、夭折した坊太郎であれば、あるいはこのように今一度の生において、これまでと全く異なる道を選ぶこともあり得たかもしれない…と、イフの世界としてそれなりに納得がいく展開であります。
(もっとも、そんな想いすら欲望にまみれたものに変えるのが忍法魔界転生であるはずと言えばそれまでですが)

 そして、その坊太郎のゆらぎは、堕天の復讐鬼と化したはずの四郎にも影響を与え始めます。坊太郎の中で人間性が芽生えれば芽生えるほど、それと共鳴するように、四郎が断ち切ったはずの人間性が、彼の中で少しずつ動き出していく…

 共に人の生を捨てて再生しながら、人の心を捨てきれぬ者と、人の心が甦ろうとする者――人としての夢の跡を魂に残した存在と化した彼らの姿を通じて、ここに「魔界転生」は、再生者、不死者の哀しみを描く物語と、転生を遂げたのであります。


 もちろん、それを「魔界転生」でやるというのは、かなりの冒険ではあります。そこでは、一種のパロディとして剣豪たちの物語を再生させるという、原作の目指したところはありません(もっともその方向性は深作版の時点でないのですが)。
 剣戟シーンの少なさ、そして何よりも転生衆の出番の少なさ、あっけなさも気になるところではあります。

 しかし、「魔界転生」という物語が持つ様々なポテンシャル――その存在は、後続する作品の数々が証明しているのですが――の一つを引き出した作品として、そして後続する幾つかの「魔界転生」において描かれた、天草四郎が抱える哀しみを描いた嚆矢として、不思議に心に残る作品なのであります。


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コメント

まあ比較するのは気の毒ですが、バトル関係は石川賢版、とみ新蔵版に遥かに劣りますね・・・最近は少女漫画系の方でも結構アクション描く方もいるのですが・・・。

天草四郎と田宮坊太郎のボーイズラブ的な関係は、やはり深作映画版での天草四郎と伊賀の霧丸の関係から来たものでしょうね。ちなみに映画版では天草四郎と伊賀の霧丸のキスシーンもありましたが、あれが真田広之さんの映画での初キスシーンだったそうで、当時ラジオで天草四郎役の沢田研二さんが「(真田広之さんは)事故に合ったと思って下さい」とインタビューに答えていました(笑)。

投稿: ジャラル | 2013.03.09 21:58

ジャラル様:
さすがに斯界のトップクラスと比べるのはちょっと酷…と言いたいところですが、もう少し頑張っていただきたかったのは事実ですね。
しかしあのキスシーンは、現場でのアドリブという話など、色々なエピソードに事欠かないお話ですね(笑)

投稿: 三田主水 | 2013.03.23 20:39

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