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2013.03.13

初心者向けオススメ「水滸伝」紹介

 待ちに待ったTVドラマ「水滸伝」が4月から放映開始と、水滸伝ファンとしては意気上がるばかりの今日この頃ですが、ネット上で時折見かけられるのは、「どの「水滸伝」を読めばいいかわからない」という、初心者の方の声。というわけで今回は、初心者向けのオススメ水滸伝を紹介したいと思います。

 何しろ水滸伝は、原典からして七十回本・百回本・百二十回本と3バージョンが存在。それを完訳で読もうと思えば、一番短い七十回本であっても相当な分量があります。
 一方で「水滸伝」を冠する小説・漫画は日本でもそれなりにの点数が刊行されていますが、それ故に、初心者の方にはかえって悩ましいのではないでしょうか。

 というわけで、ここでは、まず「水滸伝」という物語の内容・登場人物を知るに過不足なく、そしてもちろん読んで面白い作品を、紹介したいと思います。

「水滸伝」(松枝茂夫訳 岩波少年文庫全3巻) Amazon
 いきなり少年文庫!? と言われそうですが、原典の抄訳としてこれがほぼベスト、と水滸伝ファンの間で言われているのがこれ。
 「紅楼夢」の完訳で知られる訳者による文章は、少年向けではありながらも決して子供だましではなく(刺激の強すぎるところはオミットしつつ)、そして原典のダイジェストとして、押さえるべき点はきっちりと押さえているのです。

 後半(七十一回以降)はかなり端折ってはいますが、それも興を削ぐほどではなく、まず納得の内容。これを読んでおけば「水滸伝」の内容はほぼ把握できると言えましょう。
 とにかくなにか一つだけ、というのであれば、こちらをおすすめしたいと思います。


「新・水滸伝」(吉川英治 講談社吉川英治歴史時代文庫全4巻」 Amazon
 言うまでもなくあの国民的作家・吉川英治先生による水滸伝リライトであります。吉川英治の中国ものといえば、まず「三国志」が挙がるのだろうとは思いますが、しかしこの水滸伝も負けてはおりません。
 胸躍る歴史ロマンと個性的なキャラクターによる活劇と、作者がデビューして以来の様々な作品のエッセンスが本作には…というのは少々大袈裟に聞こえるかもしれませんが、しかし原典の持つ野放図な面白さはそのままに、どこか品格すら感じさせる味わいにアレンジしているのは、まさに吉川英治ならでは。まず「物語」として読んで一番面白いのは、本作と言って良いのではないでしょうか。

 …最大の欠点は、本作を完結させる前に作者が亡くなったことですが、終了時点で原典のほぼ七十回、百八人が梁山泊に集った直後とキリもよく、またある意味一番幸せな時点なので、これはこれで良しとしましょう。


「絵巻水滸伝」(森下翠&正子公也 魁星出版) Amazon
 もう一つ、最新の水滸伝を。1998年以来、現在に至るまでweb上で連載が続いている、現在進行形の水滸伝であります。
 本作の最大の特長は、「絵巻」と冠するに相応しい、「絵物語」と言うべきスタイルとなっていることでしょう。原典のイメージを踏まえつつも、確実に新しい梁山泊の百八人の豪傑の姿を描き出す正子公也の美麗かつ鮮やかなイラスト。そしてやはり原典の展開を尊重しつつも、矛盾や理不尽な点をアレンジし、さらに原典以上にキャラクターを立てた本文…
 現代の読者が読んでも確実に面白い、新しい水滸伝であります。

 唯一の弱点は、既刊の第一部全十巻が少々手に入れにくいことですが、現在、iOS対応の電子書籍としても刊行中であります。


「水滸伝」(横山光輝 潮漫画文庫全6巻) Amazon
 最後に、漫画版を一つ挙げておきましょう。漫画版の水滸伝も結構な点数が刊行されていますが、その中でも原典を踏まえつつ、何よりも漫画として面白い(これ重要)といえば、やはり横山版水滸伝に尽きるでしょう。
 文庫版で全6巻と、長大な原典をかなりコンパクトにまとめていることもあり、それなりに省略やアレンジも加えられているのですが、やはり中国歴史ものを描かせれば右に出る者がいない横光先生、原典をさらに魅力的にアレンジしたキャラクター(OVA「ジャイアントロボ The Animation 地球が静止する日」たちが縦横無尽に暴れ回る様は痛快の一言であります。

 もっとも、ファンの間では有名な、本当に鞭(原典でいう鞭は鉄の棒)を使う呼延灼をはじめとして、何カ所かミスはあるのですが、それもまたご愛敬ということで…(ちなみにこの呼延灼のアクション、「闇の土鬼」チックで格好いいのです)


 さて、以上駆け足で小説三作品、漫画一作品を紹介しましたが、最後に触れておきたい水滸伝が一つ。それは、北方謙三の「水滸伝」(集英社文庫 全19巻)であります。
 おそらくは今の日本では最も有名な水滸伝だと思われるのが北方「水滸伝」。もしかすると、本作で初めて「水滸伝」と名の付いた作品を読んだ、という方も多いかもしれません。

 私ももちろん本作は読んでおりますし、好きな作品の一つでありますが、「水滸伝」初心者向けかと問われれば、(その長さは抜きにして)YESとは言い難いのが正直なところ。
 簡単に言ってしまえば本作は、原典の要素を一度完全に解体して再構築した作品であり――原典を踏まえつつも、かなりの部分で異なる作品として成立しているのです。

 それ故、本作については原典を先に読んだ方がより楽しめるかと思いますし、また本作を先に読んだ方も、改めて原典に触れてみると、様々な発見があると信じる次第です。


 …と、一番大事なことを忘れておりました。それは原典の完訳版であります。
 これまで紹介した初心者向けの作品を読まれた上で、原典の完訳に興味をお持ちの方は、百回本であれば吉川幸次郎&清水茂訳の岩波文庫全10巻を、百二十回本であれば駒田信二訳のちくま文庫全8巻を、それぞれオススして、この稿を終わりたいと思います。



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