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2013.03.17

「万八楼へようこそ」 大食会の表と裏、虚説と真実

 「裏宗家四代目服部半蔵花録」、そして「コミック乱ツインズ」誌では「つじうろ」シリーズを発表してきた、かねた丸の最新作が同誌に掲載されました。タイトルは「万八楼へようこそ」――大食会、お江戸の大食い大会を描いた作品であります。

 本作のタイトルにある万八楼とは、柳橋に実際に存在した同名の料理茶屋(今でいう料亭、割烹)をモデルにしたもの。主人の万屋八郎兵衛の名を略して店名とした、江戸の文人たちがしばしば使ったという名店であります。
 そしてこの万八楼が現代まで名を残す理由の一端こそが、大食会。かの滝沢馬琴の「兎園小説」をはじめとする随筆において、文化14年(1817年)に開催された大食会の模様が――信じられないような記録の数々が――詳細に語られているのです。

 本作は、この「万八楼」での大食会の模様が描居たもの。主人の「万八右衛門」が毎回趣向を凝らして開催するこの大会、今回の料理は――かけうどん。
 このかけうどんを半時の間に一番多く食べたものを勝者とし、勝者には金三両が与えられる(ただし20杯以下しか食べられなかった者は代金は自分持ち)という大会であります。

 さて、本作はこの大会を、二つの軸から描き出します。
 その一つは、この大会に隠れた趣向――というと大げさかもしれませんが、うどん大食いという一見単純な行為に隠された、一種のゲーム性。
 料理もシンプルであれば、ルールもシンプルなこの大会。しかしそれだからこそ、そこに仕掛けられた、主催者側の少々意地悪な趣向が際だつのであり――そしてそれが、下馬評通りにいかない大食会の展開に繋がっていくのが、なかなかに面白いのであります。
(そしてその趣向の解説役のキャラクターが、またありそうでなさそうなのも実に楽しい)

 そしてもう一つの軸が、大食会や食い道楽には縁も興味もなかった、一人の浪人の視点であります。
 しかし、見物している側にとっては面白くても、出場者の側はそれどころではないのが大食会。しかもそれが道楽でなく、自らの、いや一家の生活がかかっているとなればなおさらであります。
 本作では、そんな男の視点から、大食会というある意味不謹慎なイベントの存在を相対化して描くとともに――そこに人情ものとしての要素を加えることで、ドラマを盛り上げているのであります。

 大げさに言えば、この二つの軸から、大食会の表と裏を描き出す本作ですが、しかしそれが重くなりすぎず、カラッとした味わいとなっているのは、作者の作風ゆえでしょう。
 アクションものの印象の強い作者の作品ですが、しかし振り返ってみれば、作者の作品においては、アクション描写のみならず、コミカルなシーンなどで見られた、コロコロとよく変わるキャラクターの表情も魅力の一つ。
 その表情の豊かさが、本作では笑いに、そして泣かせに発揮されていると感じます。

 アクションもの好きとしては、本作はちょっと寂しくはあるのですが、作者の隠れた(?)魅力に気付かせてくれたのは喜ぶべきでしょう。


 …さて、冒頭で触れた、「兎園小説」における万八楼の大食会の記事ですが、実はこれは「虚説」、すなわちウソ、デマの類であるとみなされているとか(そもそも、件の記事では、うどんには言及されていなかったかと)。
 しかし、それを以て万八楼で大食会が開かれなかった、とは言うことができないのもまた事実。そしてもちろん、それをモデルとしたフィクションの価値が否定されることも。

 少なくとも、本作の中で描かれた万八楼の大食会と、そこに集った人々が魅力的であったことは、間違いなく「真実」であり、そしてここには、まだ語られていない「真実」もあるはず――それが今後も描かれることを、期待したいところです。

「万八楼へようこそ」(かねた丸 「コミック乱ツインズ」2013年4月号掲載)


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