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2013.04.06

「妻は、くノ一 蛇之巻 1 いちばん嫌な敵」 続編で前日譚で語られざる物語で

 アメリカで平和に暮らす彦馬と織江。しかしある日彼らの家を訪れた日本人が蝮を置いていったことを知った織江は、一人の男を思い出す。かつて御庭番であった頃、彦馬と出会う直前に長州に潜入していた織江。そこで長州忍者隊とことを構えた織江は、蛇を操る奇怪な男に目をつけられたのだった…

 いよいよTVドラマも開始となった「妻は、くノ一」。先日は漫画版を紹介しましたが、原作は既に完結済みで紹介済み、しかも物語の性質的に、続編は難しいだろう…と思いきや、3月の新刊予告に、「続 妻は、くノ一」の仮題で本作が掲載されたときは、少なからず驚かされました。
 しかし本当に驚いたのは、実際に本作を手に取ってから。何しろ本作は、正編の続編(正確には最終話とエピローグの間の物語)であり、前日譚であり、そして正編の語られざるエピソードでもあったのですから――

 苦難の果てに海を越え、アメリカに新天地を求めた彦馬と織江。アメリカで始めた自転車屋も軌道に乗り、子供たちも独立し始めた頃、彼らの平和な生活に小さな異変が起こります。
 彼らの留守中にやって来た、織江のことを知っていたという男。その男が残したとおぼしき蝮を見た途端、彼女の脳裏に、忌まわしい記憶が甦ったのであります。


 …なるほどこの手があったか、という導入部ですが、ここからの展開がさらに面白い。
 ここで織江が思い出すのは、彦馬と出会う前、彼女が御庭番であった頃に、腕試し――もちろん命がけの――として長州藩江戸屋敷に潜入してかろうじて成功したことと、その直後、長州藩に潜入して、長州忍者隊の秘術を探った時の出来事…つまり、前日譚であります。

 この任務の最中に彼女が目撃した、長州忍者隊隊長の息子――蛇神の力を操るという一族の血を引き、自身も蛇のような奇怪な術を操る男、鬼藤蛇文。
 かくて、仲間を織江に倒された長州忍者隊、そして織江の存在に興味を持った蛇文を向こうに回し、織江の戦いが始まる――

 と思いきや、本作はそれだけに留まりません。そして時は流れ、彦馬の前から姿を消した織江と、織江を探して江戸に出た彦馬――正編の物語の時間軸において、正編では語られざる物語、語られざる「妻は、くノ一」が、ここで描かれることになります。
 それは言い換えれば、ここで忍者ものとしての織江の物語だけでなく、時代ミステリとしての彦馬の物語が描かれることを意味します。

 なるほど、「妻は、くノ一」は、彦馬サイドと織江サイド、その両方の物語があって初めて成り立つ物語。そう考えれば、彦馬の物語も描かれることはむしろ当然ではありますが、しかし正直なところ今回は織江サイドのみか、と考えておりましたので、これは嬉しい裏切りです。

 そしてここで描かれる、彦馬が挑む怪事件――鉄砲組同心の隣家の男が射殺され、同心も鉄砲を手にしていたにもかかわらず、位置的に決して男を射殺できない――も、その謎解きはもちろんのこと、事件に至るまで、そして解決した後の展開も面白く、なかなかの出来。
 そしてそこに織江と長州忍者隊の怪忍者の戦いも絡むのですから、これはもう、一種のアクロバット的作品という印象すら受けます。

 もちろん、その試みが必ずしもうまくいっているとは言い難い部分もあり、過去の回想のそのまた中で回想シーンがあるなど、複雑な構成故の苦しさや、落ち着きのなさは、確かに目に付きます。
 それでもなお、「妻は、くノ一」という一度完結した物語を復活させるに当たって、欠くべからざるものをきちんと描いてみせたのは、作者らしい腕の冴えであり――そして、作品への愛というべきものでしょう。

 ラストにはシリーズ名物(?)の、ラストのとんでもないヒキも待ち受けており、これはファンであれば続きを期待するなという方が無理の――そんな作品であります。


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 「妻は、くノ一」(漫画版) 陰と陽、夫婦ふたりの物語

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