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2013.04.19

「悲華水滸伝」第2巻 爽やかさの梁山泊で

 杉本苑子による正道にして異色の水滸伝「悲華水滸伝」、全5巻の2巻目であります。第1巻では清風塞での宋江受難までが描かれますが、本書では一気に物語は進み、呼延灼戦の始まりまでが収録されております。

 第1巻の紹介でも触れました通り、スピーディーな展開は本作の特徴の一つ。この第2巻に収録されているのは、原典でいえば第35回から第55回まで――清風山での戦いに続いて宋江が江州に流されたことで大波乱が起こり、そして祝家荘戦、高廉戦を経て、名将・呼延灼出陣と、原典でも新たな好漢が次々と登場し、大いに盛り上がるあたりであります。
 この中盤の佳境を、本作は非常にテンポ良く消化していきますが、それでも物足りなさがないのは、やはり作者の筆の巧みさというものでしょう。
 もちろん、基本的な粗筋は原典を尊重しつつも、必ずしも原典の全てを描いているわけではありません。たとえば楊雄と石秀のエピソード、楊雄の妻殺しは、第三者である戴宗たちが見聞きしたものとして語られるのみでありますし、ある意味原典最大の悲劇である朱仝の梁山泊入りなどは、原典の展開を丸々カットして、なにごともなく梁山泊入りしてしうまうのには驚かされます。

 その分、本書で力を入れられているのは、剽悍ながらも頼もしい江州の好漢たちの姿であり、そして何よりも、本書で最も分量を割いて語られる祝家荘戦に加わった敵味方の人間群像であります。
 特に祝家荘戦は、水滸伝随一のヒロインたる扈三娘が登場するわけで、彼女の存在を――そして彼女の結婚をどのように描くかというのは、やはり一番気になる点だったのですが、これがある意味納得、ある意味意外な展開。いささか爽やかすぎるという印象は否めないものの、これはこれで本作らしい…というより、この爽やかさこそが本作の特徴の一つであると、今さらながらに気付かされました。

 実に、本作で描かれる梁山泊の、そこに集う好漢たちの姿からは、汗臭さというものはほとんど感じられません。
 それは単純に描写的な理由もありますが、それ以上に、彼らの言動から垣間見える精神性に、どろどろとしたものが、そして煮えたぎるものが、見えにくい部分に因るものであります。
 もちろん、だからといって感情の起伏に乏しいわけでは決してなく、むしろ起伏は人一倍あるような連中なのですが、しかしそれがどこまでも明るく、カラッとしている。湿度は少なく、しかし乾きすぎてもいない。過剰に暑苦しくもなく、軽すぎもしない――本作の梁山泊は、そのような世界と感じます。
( 第1巻の紹介において、本作の基調となるのは悲劇であると述べたのをひっくり返すようでお恥ずかしい限りですが…)

 そして、そんな本作の梁山泊像からは、ある種理想化された体育会系の部活動的なものを感じます。
 全く志を一にするわけでもなく、それぞれに全く異なる想いを抱きつつも、一つの場に集まり、日常を共にしながら、一つの目的に向かって邁進する…「女の子にも人気のジャンプのスポーツ漫画」的な理想像が、本作にはあるように感じるのであります。

 さすがに極端な喩えではあると自分でも思いますが、こう考えてみると、男性の目から見るとちょっとじゃれ合いすぎの印象のある本作の好漢たちのコミュニケーション、スキンシップの在り方もそれなりに納得できるものがあります。


 だからといって、この第2巻における伝説のあのシーン、穆春たちに簀巻きにされて半死半生の薛永が流した涙を、宋江がそっと唇で拭うシーンは、どう考えてもやりすぎなのですが…

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コメント

私もこの水滸伝を読みましたが、女性作家らしく心理描写とかは丁寧に書かれていますが、反面、戦闘シーンとかは実にあっさり(というか省略)されているのが・・・・まあ女流作家の方は戦闘や戦争シーンを書くのを嫌がる方が多いので仕方ありませんが。

投稿: ジャラル | 2013.04.21 12:17

ジャラル様:
大の水滸伝好きでありながら、その辺りはあまり気にならなかった…と言いますが、気づきませんでした(汗)
ただ、本作の場合はその辺りには力点を置いていない(というより他の部分もより重視している)のは間違いないでしょうね

投稿: 三田主水 | 2013.05.05 23:45

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