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2013.04.16

「鳴動の徴 お髷番承り候」 最強の敵にして師

 ついに家綱との絆を取り戻し、真の寵臣としての道を歩み始めた賢治郎。しかし次の将軍位を巡る甲府と館林との暗闘はなおも続く。さらに、最後の機会と将軍位を狙う頼宣を擁する紀州では、父の野望を危険視した嫡男・光貞が、父を取り除こうとしていた。父子の争いの渦中に巻き込まれた賢治郎は…

 「上田秀人公式ガイドブック」と同時発売となった「お髷番承り候」シリーズ最新巻であります。

 徳川四代将軍家綱の月代を剃り、髷を整えるお髷番――刃物を手にして将軍の背後に立つことを許された者、言い換えれば将軍から絶対の信頼を寄せられた者である深室賢治郎の苦闘を描くこのシリーズも、気がつけば早くも6巻目。
 相手を想う心が強すぎるばかりに、逆に家綱の不興を買ってしまった賢治郎も、家綱の信頼を取り戻し、主従の絆はさらに強固となったのですが――
 しかし、賢治郎と家綱の間の問題が解決したとしても、それは将軍位を巡る暗闘とはもちろん別の話。館林の綱吉、甲府の綱重、そして紀伊の頼宣…骨肉の争いはここでも繰り返されることとなります。

 本シリーズの場合、将軍位を狙うプレイヤーが多く(というより全勢力がそれ)、そしてそれぞれに従う者たちが居るために、それらを一通り描いているだけで一冊分の物語が終わりかねない――というのが実のところ弱点に感じられるのですが、残念ながらその傾向は本作でも同様。
 家綱の後継者(作り)を巡り、大奥を中心に各勢力の思惑が絡み合い、潰し合いを演じるというメインの筋は面白いのですが、そこに若干の食い足りなさは残ります。

 しかしその一方で展開する、頼宣サイドのドラマがなかなかに面白い。
 戦国最後の生き残りとして、自分の力を信じ、いまだに将軍位を狙う頼宣は、他のプレイヤーとは明らかに違う存在として描かれておりますが、今回は彼の存在を危ぶむ息子・光貞との衝突が一気に表面化。
 これまでも頼宣を除いて自分が紀伊のトップに立つ野心を見せていた光貞が、ついに配下を使って父の暗殺を狙うという非常手段に走ることになるのですが――

 半ば成り行きとはいえ、実に豪快な手段で頼宣の窮地を救う賢治郎の為しようも痛快ですが、それに応えた頼宣の恩返しの様も実に粋でまた痛快。
 しかしそれでいてお互いがなれ合うのではなく、賢治郎も頼宣も、将軍位を巡る争いの敵同士として、一定の緊張下でのやりとりなのも、またいいのであります。
(さらに賢治郎の場合、自分も巻き込まれて命を狙われたことを逆手にとって紀伊の切り崩しを図るしたたかさの中で、彼の成長を見せるのもまたうまい)

 実に本作の中でも、頼宣は独特の位置を占めるキャラクターであります。
 将軍位を巡る敵であると同時に、最後の戦国生き残り――特に光貞への痛烈なしっぺ返しの狂気すら感じさせる豪快さは、いくさ人ならではのものでしょう――の男である頼宣。そんな彼は、家綱に仕える松平伊豆守、阿部豊後守とはまた異なった形で、賢治郎の先輩、師としての姿を見せることになります。

 もちろん、そうであったとしてもあくまでも頼宣は敵――それも最強の敵であることは間違いありません。
 その頼宣が退場する時こそが、本シリーズの一つの締めくくりではないか…そう感じるのも、あながち間違いではありますまい。

「鳴動の徴 お髷番承り候」(上田秀人 徳間文庫) Amazon
お髷番承り候 六  鳴動の徴 (徳間書店)


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