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2013.05.05

「セキガハラ」第1巻 奇っ怪関ヶ原軍記ここに開幕

 お堅い作品が多く、伝奇に冷たい「コミック乱」系列には珍しく、弾けた作品が少なくない「戦国武将列伝」誌の中でも、ひときわ異彩を放つ長谷川哲也「セキガハラ」の単行本第1巻がついに発売されました。

 「セキガハラ」とタイトルから何となく想像できるように、関ヶ原の戦で西軍のトップであった石田三成を主人公にした物語ですが――しかし、その三成をはじめとした登場人物たちの人物造形が、普通ではありません。

 三成や秀吉、前田利家や島左近、果ては淀君に至るまで、本作の登場人物の多くは、いわゆる「能力者」。
 本作においては「思力」なる人外の力を持ち、「天魔」と呼ばれる彼らは、三成の未来予知、左近の影操りをはじめとして、一人一人がそれぞれ異なる力を操るのであります。

 漫画の世界ではすっかりお馴染みとなった「能力者」ものですが、しかしさすがに時代ものでは――その源流の一つであろう、忍者ものを除けば――これまでほとんどなかった印象があります。
 そんな中で、戦国武将たちを「能力者」と設定し、彼らの人間離れした一騎当千ぶりに「合理的な」説明を与えたのは、一種のコロンブスの卵的な工夫と言うべきでしょうか。

 もちろん、そんな面々が登場する物語が普通で終わるわけがなく、この第1巻で描かれる関ヶ原の戦の約2年前――秀吉の死の前後を巡る物語は、しかし一種時代ホラー的色彩を帯びて展開していきます。

 諸侯の眼前で誰にも気付かれることなく、奇怪な巨大蜘蛛に絞殺されるという、奇っ怪極まりない秀吉の死に始まる奇怪な事件は、文字通り伝染するように戦国の世に拡散、体力・武力バカであるほかは至って謹厳実直(?)であった家康を狂わせ、前代未聞のクライマックスになだれ込んでいくのですから凄まじい。

 しかし注目したいのは、この辺りの話運びや奇怪な巨大蜘蛛の存在、あるいは三成の能力描写(そして利家の能力の初登場シーン)などは、作者の隠れた名作である時代ホラー連作「神幻暗夜行」、あるいはダークな歴史伝奇絵巻「アラビアンナイト」を連想させる「暗さ」「怖さ」がある点でしょう。
 最近は「ナポレオン」などで豪快さがクローズアップされることが多いだけに、作者のこうした側面を久々に見ることができたのは、個人的に大いに嬉しいところであります。


 ただ残念なのは、これは連載第1回の感想にも書いたことですが、やはりキャラクターのコスチュームや描写、特に前者には不満が残ります。
 戦国大名を能力者とし、奇怪な化け物を跳梁させるのであれば、逆にそれ以外の部分で地に足のついた描写が欲しい。それがあってこそ、弾けた部分がより弾けて感じられるのではないかと思うのですが…

 などと生真面目なふりをして言うのは野暮の極みであるのは承知の上ではありますが、やはり単行本で読み返してみると、淀君と左近のコスチュームは違和感があるというのが正直な印象です。


 しかし、うるさいマニアと化しつつも、しかしそれでもやはり目が離せないのが本作。まだまだ関ヶ原の戦は先の話ではありますが、その遠く前段階でこの弾けようなのですから、果たして本戦では何が起こることやら…
 まだまだ謎の多い物語のこれからに、猛烈に期待しているところなのであります。

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コメント

武将たちのビジュアルも破天荒なこの作品。この巻での徳川家康にも驚きましたが、最新号に登場した加藤清正と黒田長政は・・・本人らの子孫怒らないか心配です(笑)。今後どんなビックリ武将が出て来るか楽しみです。

投稿: ジャラル | 2013.05.05 12:50

ジャラル様:
ビックリ武将! 言い得て妙です。
別の記事にも書きましたが、個人的には清正はアリですが長政はちょっと…な感じです。本当に自分でも境目が不明ですが(笑)

投稿: 三田主水 | 2013.05.07 23:58

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