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2013.05.30

「刺客どくろ中納言 天下盗り、最後の密謀」 行政官僚が挑む戦国謀略サスペンス

 小田原城に籠もる北条を攻めるため、大軍を動かした秀吉。その家臣・富田一白は、三成の草の者が「どくろ中納言」という謎めいた言葉を残して死んだことを知る。その正体を追う一白だが、その前には秀吉、政宗、そして家康が幾重にも仕掛けた謀略が待ち受けていた。一白がたどり着いた真実とは…

 最近、再文庫化された「太閤暗殺」も好評の岡田秀文ですが、作者の魅力が最もよく出るのは、同作をはじめとする戦国謀略サスペンスとでも言うべき作品ではないかと感じます。
 かなりインパクトあるタイトルの本作も、その一つ。秀吉の小田原攻めを背景に、天下取りを狙った虚々実々の陰謀が展開していくこととなります。

 秀吉が大名同士の私闘を禁じた惣無事令。かの伊達政宗がそれに背いて隣国を攻めたのと気を同じくするように北条家が真田家の城を攻め、それが秀吉の天下取りの総仕上げとも言うべき小田原攻めに繋がったことは歴史が示すとおり。
 本作はその一連の出来事の背後に繰り広げられたら暗闘を描き出すのですが――しかし主人公が武将でも忍者でもない、いわば行政官僚というのが、本作のユニークな点であります。

 彼の名は富田一白――こう言っては何ですが、非常にマイナーな人物です。しかし、信長死後に秀吉が他の大名と行った外交交渉の多くを担当し、秀吉の側近として活躍した人物であります。
 なるほど、正面切っての合戦ではなく、そこに至るまで、そしてその背後で繰り広げられる諜報戦・謀略戦の世界を舞台とする本作にとっては、考えてみれば似合いの主人公。
 そして、そうは言っても武将ではなく、あくまでも役人――どちらかと言えば、我々に近い人物であるのも、親しみをもたせてくれます。

 しかし、そんな彼が挑む謎はなかなかの難物。そもそも、死に瀕した草の者の「どくろ中納言」という言葉以外、何が謎であるのか、それ自体が謎なのですから…
 その言葉を残した草の者は、誰に、そして何故殺されたのか。北条家に保護された利休の弟子との関係は。そして、北条家が小田原城から掘ったと噂の流れる隧道とは――

 さらに謎めいた伊達政宗の動き、さらには秀吉陣営内部の陰謀も加わって、物語は坂を転がり落ちる雪玉のように、謎はどんどんと巨大なものとなっていきます。
 この辺りの呼吸は、冒頭に述べた通り、作者ならではの戦国謀略サスペンスの醍醐味と言うべきでしょう。


 …が、最後の最後まで引っ張られた「どくろ中納言」の秘密が、正直に言って今一つ…
 説明が難しいのですが、そこに隠された陰謀の正体自体はそれなりに面白いものの、それにミステリアスなネーミングが明らかに負けていると言うべきでしょうか。

 この辺りのバランス取りは本当に難しいとは思うのですが――このネーミングこそが物語を、そして我々読者の興味を引っ張るだけに――物語自体は面白かっただけに、やはり残念に感じてしまうのは否めないところであります。
(漫画家の深見陽によるカバーイラストも、読み終わった後にみると、感心させられるものなのですが…)


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刺客 どくろ中納言 天下盗り、最後の密謀

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