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2013.05.11

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝 アイアン・モンキー」 やがて来るヒーローのために

 時は清朝末期、浙江では飢饉と重税に苦しむ庶民を救う謎の義賊・鉄猿が活躍していた。偶然この地を訪れた黄麒英とその子・飛鴻は鉄猿騒動に巻き込まれ、飛鴻を人質に取られた麒英は鉄猿と戦うことを強いられる。そんな二人を救ったのは、土地の名医・ヤン先生とその助手のシューランだったが…

 個人的に開催中のドニー・イェン祭り、今回はちょうど20年前に製作された「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝 アイアン・モンキー」です。

 「ワンチャイ」といえば、言うまでもなく実在の武術家にして医師・黄飛鴻の活躍を描いた人気シリーズですが、本作はその外伝。どの辺りが外伝かと言えば、本作に登場するのは子供時代の黄飛鴻であり、主人公(の一人)は、その父・黄麒英なのであります。
 そしてそれを演じるのが、本作の前年に製作されたワンチャイシリーズの最高傑作(と私が信じるところの)「天地大乱」で、リー・リンチェイ演じる黄飛鴻と大激闘を繰り広げたのがドニー・イェンというのは、何とも心憎い趣向ではないでしょうか。

 そしてもう一人の主人公たる鉄猿を演じるのは、派手さはないものの、数々のアクション映画で渋い活躍を見せる動ける俳優ユー・ロングァン。さらにこの二人を向こうに回して大暴れする大悪人・行空大師は、「スウォーズマン 女神伝説の章」の任我行をはじめとして、90年代香港アクション映画で化け物じみた存在感を発揮したヤン・サイクーンと、アクションと格闘のために生まれてきたような三人が勢揃いするのもたまらない。

 さらに監督が達人ユエン・ウーピンとくれば、これで面白くないわけがない…と言い難いのが香港映画ですが、大丈夫、本作は本当に面白い。私が見たのは日本で上映されて以来なので約17年ぶりですが、初見の時に感じた興奮はそのまま、いや、何が起きるかある程度記憶に残っているだけ、本作の面白さをより冷静に味わうことができました。

 本作は、物語自体は極めてシンプルです。
 悪党を懲らす義賊が悪徳役人相手に活躍し、そこに黄親子が巻き込まれて一度は対峙するものの、互いの人柄を理解して和解。そして現れた共通の強敵に戦いを挑む――これだけであります。それでも十分に面白いのは、もちろんアクションシーンの見事さによるところが大きいことは言うまでもありません。
 いかにも当時の作品らしいワイヤーワークや早回しは目立つものの、それでもきちんと動ける人間のアクションは素晴らしい。特にドニー・イェンのそれは、どれほど激しい技を繰り出しても上半身の安定性が抜群で、とにかく美しいのであります。

 そして彼が演じる麒英や、鉄猿は言うに及ばず、少年飛鴻やシューランに至るまで、きっちりと見せ場が、それも様々なシチュエーションで用意されているのが嬉しい。
 特に二対一の変則ラストバトルは、ほとんど格闘漫画のような無茶なシチュエーションで展開する文字通り燃えるバトルで、カンフー映画史上に残る名シーンではありますまいか。

 しかし、本作の面白さ、素晴らしさはそれに留まるものではありません。本作を真に名作たらしめているのは、登場人物同士の――特にポジティブな――関係性が、簡潔にかつ丹念に描かれているからではありますまいか。
 黄麒英と飛鴻の親子の情。ヤン先生とシューランの男女の情。麒英とヤン先生の同じ者を行く者同士の友情――さらには、ヤン先生とシューランが後進たる飛鴻に向ける優しい眼差し、役人だが誰よりも人情に厚いサン隊長が彼らに向ける心の暖かみ…

 カンフーアクションという、極言すれば人と人が傷つけあうジャンルにおいて、しかし同時に人と人との繋がりを、そこに流れる情の美しさを描き出す。
 それは、登場人物一人一人が個性的であること、そして上述の通り物語がシンプルであることによる面も大きいことでしょう。

 しかし何よりも大きいのは、本作がやがて登場するヒーローの子供時代を描く物語、すなわち、彼が父親をはじめとして様々な人々と触れ合うことを通じて、様々なものを学び、受け継いでいく物語であるがゆえ…というのはいささかセンチメンタルな見方かもしれませんが、これは私の偽らざる想いであります。
(特に、その過去からシューランとの間に子供を得ることができないことが察せられるヤンが、自分に継ぐ者として黄飛鴻に棒術を伝えるシーンが泣かせます)


 などと理屈をこねてしまいましたが、やはり本作はそんなものを抜きにしても抜群に面白いアクション映画。ツイ・ハークのワンチャイ初期三部作にあった歴史ものとしての目配りに欠けているのが残念といえば残念ですが、それはやはり贅沢の言い過ぎというものでしょう。そうした側面がなくとも、本作が名作であるのは間違いないことなのですから…

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