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2013.05.14

「明楽と孫蔵 対決編」「反撃編」「混乱編」 歴史に挑む男の想い

 この春からコンビニコミックで刊行が始まった森田信吾の名作「明楽と孫蔵 幕末御庭番」も「対決編」「反撃編」「混乱編」と順調に進み、この5月上旬までに4冊が刊行されたことになりました。

 幕末を舞台に、剣の達人で横紙破りの御庭番・明楽伊織と、その忠僕にして凄腕の老忍び・孫蔵が、江戸を騒がす凶剣士たちを向こうに回し、痛快に暴れ回る本作ですが、主人公たちも強いが敵もまた強烈な連中揃い。

 第1巻に当たる「登場編」では、犠牲者の口に数珠を詰める念仏人斬りの丹直次郎を倒した伊織ですが、それ以降も、
・二天一流を操り、押し込んだ先の人間を皆殺しにする凶悪な御用盗・久須美
・阿蘭陀医術による心臓握り潰しと見えない手裏剣を操るサディスト刺客・曽我采女
・一人一人が伊織と孫蔵に匹敵する力を持ち、海賊の血を引く凶暴極まりない人狩りチーム・宇賀島三兄弟
・奇怪な心術と体術で男を苦しめる女忍び・美国
と、いずれも凶悪・狂気の強敵たちが、伊織の前に立ち塞がることになります。

 この強敵たちとの戦いだけを取り出しても猛烈に面白いのは間違いありませんが、それをさらに盛り上げるのは、ストーリーの面白さであることもまた、当然であります。

 采女編では、もう一人の敵として、かつては孫蔵を上回る実力を持ちながら、駆け落ちして抜け忍となった老忍び・十兵衛が登場、同じ技を持つ忍び同士の対決というシチュエーションもさることながら、誰かを支えることで存在意義を持つ忍びの運命の儚さが印象に残ります。

 また、第4弾ではまだ進行中の美国編では、偽金による経済面から社会面に至る江戸の混乱作戦が展開。伊織の同僚・倉地を手中に収めて苦しめる美国の不気味さ(ものすごい美人、というわけでもないのがまた厭なリアリティ)も相まって、これまでの力押しの敵とは違う恐ろしさを味あわせてくれます。

 が、これまでの展開で最も盛り上がるのは、宇賀島兄弟編でありましょう。京で進行するある陰謀の生き証人の男を巡り、長州藩の罠にはまった伊織と孫蔵が同僚たちからも命を狙われる中、起死回生の一手として、その男を護送して江戸を脱出する――
 という、二転三転する展開だけでも、本作はおろか他の時代ものでもなかなか見れないパターンで非常に面白いのですが、そこに輪をかけて、敵となる宇賀島三兄弟の存在感が凄まじい。

 基本的に本作の敵は、全てサディストの半狂人ですが(断言)、この兄弟は三人組なだけにその凶悪感も数倍。証人の男を炙り出すためであれば――そして彼らにとってはそれが勤王の大義に適うことなのですが――周囲の人間を虫けらの如く叩き潰して哄笑するそのおぞましさは、彼らのバイオレンスが伊織をすら幾度となく窮地に陥れただけに、強く印象に残ります(そして、自分たち兄弟の間の愛情は人一倍強いのも、お約束ではありますがまた強烈)。

 クライマックスでは伊織と孫蔵を分断し、それぞれと激烈な戦いを繰り広げるのですが、その内容・結末を含めて、まず本作で一、二を争う名編であることは間違いありません。


 刊行予定を見るに、どうやら本作は全7巻のようですが、その折り返し地点となる第4弾では、ついに敵の首魁としてあの有名人が登場。暴力で暴力に抗する戦いはいよいよ激化するばかりではありますが、しかしそれだからこそ、ここで語られる伊織の言葉が印象に残ります。
「ものごとは移り変わる…それは確かに在るさ だがな! 歴史なんて単なる“字”じゃねえか!(中略)おいら歴史とかぬかして町人どもを踏みつけにする連中は…やっぱ……許せねえよ!」
――と。

 この想いこそが、本作が激しいバイオレンスの応酬を描きつつも、痛快な後味を残す所以なのではないでしょうか。

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