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2013.05.01

「夢告げ」 やる気ゼロ隊士が見た新選組

 従兄に誘われて新選組隊士となったものの、彼が行方不明となり、間者の噂が立ったことでやる気をなくした蟻通勘吾。そんな中、彼の隊の隊長が何者かに斬られ、その後任に沖田がやってきた。勘吾はそこに自分を嫌う鬼――土方の意図を感じる。はたして夜ごと彼の夢に現れる従兄が語ろうとするのは…

 「小説現代」5月号の時代小説特集は、荒山徹、犬飼六岐、堀川アサコと私好みの作家ばかりなのですが、その中でも時に気になるのが小松エメルの「夢告げ」。
 なにしろこの作品、新選組もので…と聞いて「おっ」と思うのは、かなりの作者ファンでしょう。何しろ作者はインタビューなどでことあるごとに答えているように、大の新選組ファン。その作者がどのような新選組ものを書くのか、大いに気になるではありませんか。

 そしてその期待は裏切られることはありません。本作の主人公となるのは、壬生浪士組時代から参加し、剣の腕も優れたものを持ちながら、やる気まったくゼロの隊士・蟻通勘吾。もちろんそれにはそれなりの原因はあるのですが、しかし周囲の目は厳しく、それでさらに勘吾はやる気をなくして…という悪循環なのであります。

 そんな彼の所属する隊――これがまた、問題児揃いなのですが――の隊長が何者かに斬られ、その代わりにやって来たのが何とあの沖田総司。
 あまりにイレギュラーな人事に、勘吾は自分を嫌っているらしい鬼の副長・土方の顔を思い浮かべるのですが…

 新選組ファンならずともよく知られている沖田・土方ですが、本作に登場する二人は、どこかすっとぼけたような無邪気な性格で子供好きの沖田、秀麗な外見ながらも鉄面皮でクールな土方と、多くの人間が持つイメージを踏襲したものであります。
 …が、そんな二人の姿も、ひねくれ者の勘吾の目から通して見れば、また異なった姿で見えてくるのが面白い。この辺りは、新選組ファンとして、並みの内容ではあきらたらない作者の意気込みが感じられるように思います。

 そしてその勘吾自身の姿もまた、他者から見たそれと、他者からそう見られていると自分が思っているそれが異なるのが、またややこしくも面白く、そして何となく切ない。
 実に本作は、人間というものが自分や他者に持っているイメージが、いかにあいまいで、うつろいやすいものであるか――新選組での青春群像を通じて、それを描き出しているように感じられます。

 そしてそれを描く際の、どこかユーモラスでしかしハッとするほど重く切ない語り口――特に終盤近く、勘吾に対してひたりひたりと突きつけられる言葉の刃の鋭さたるや――と、その先に待つ小さな暖かみもまた、実に作者らしい味わいで、作者のファンならずとも、安心して楽しめる作品であります。


 そして、作中で触れられていないことを野暮を承知で語れば、この蟻通勘吾という人物、もちろん実在の人物でありますが、上で述べたように「新選組」成立前から参加し、そして池田屋事件をはじめとする数々の戦いに参加、そして五稜郭の戦いにまで加わったという人物。
 面白いのは、それだけの古株でありながら、一貫して平隊士だったことですが、そこにどんなドラマがあったのか(いや、なかったのか?)想像しただけでわくわくするではありませんか。

 本作で語られた土方との関係も含めて、彼がこの先函館戦争まで、新選組で何を見るのか…いささかどころでなく気が早いですが、期待したいところです。

「夢告げ」(小松エメル 「小説現代」2013年5月号掲載) Amazon
小説現代 2013年 05月号 [雑誌]

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