「上田秀人公式ガイドブック」 様々な継承の形の先に
先月、徳間文庫から「上田秀人公式ガイドブック」が刊行されました。時代小説家単独でガイドブックの類が発売されるというのは、特に文庫書き下ろし中心の作家では滅多にないことですが、それだけになかなか充実した内容となっております。
現在では光文社や講談社など、他の出版社でも大活躍の作者ですが、実質上のメジャーデビューとも言える長編デビューは徳間文庫の「竜門の衛」。以後、この作品をはじめとする「将軍家見聞役 元八郎」シリーズ、そして「織江緋之介見参」シリーズで人気を博していったわけで、なるほど、ガイドブックを出すにこれほど相応しい出版社もありますまい。
そして主な内容の方と言えば、
・ロングインタビュー
・縄田一男による上田秀人総論
・著作ガイド
・事件年表・幕府役職紹介
・(徳間作品の)登場人物辞典(重要人物には作者のコメント付き)
・書き下ろし短編「織江緋之介見参外伝 吉原前夜」
と、かなりの充実ぶりであります。
まずファンとして見逃せないのは、巻頭のロングインタビューでありましょう。
作者に限らず、なかなかその生の声を聞くことができないのが文庫書き下ろし中心の作家ですが、今回はデビューのきっかけから執筆スタイル、これまでの作品の執筆秘話まで、初めて聞くような内容が目白押しであります。
その中でも個人的に特に印象に残ったのは、上田作品に通底するテーマが、「継承」であるという言葉であります。
これまで私は作者の作品に通底するテーマは「権力と個人の相克」と思い込んでおりましたが、なるほど言われてみればそれは一面。
親から子へ、先達から後進へ、家を、財を、技を「継承」していく――もちろんその過程は権力と無関係ではありませんし、当然ながらそこで権力と個人の関係が生まれるわけではありますが、いずれにせよ、この視点から作者の作品を見直せば、また新たに見えてくるものがあるように感じます。
…と、それが裏付けられるのが書き下ろしの「織江緋之介見参外伝 吉原前夜」であります。
シリーズ本編では直接描かれなかった、織江緋之介=小野友悟が、第1巻「悲恋の太刀」で吉原に現れる前を描いた本作においては、友悟と柳生十兵衛との出会い、彼にとって運命の女性の一人となる柳生織江との出会いが描かれることとなります。
そしてここで描かれるのはまさに一つの「継承」の姿――流祖・石舟斎から受け継がれてきた柳生新陰流に新たな風を吹き込むべく十兵衛が研鑽した新たな秘太刀の継承が、ここでは描かれることとなります。
しかし継承されるのは、人のポジティブな想いの結晶とも言うべきものだけではありません。ある人物からある人物への想いと、それが生み出した因果因縁――怨讐もまた、継承されていくのであります。
友悟を、十兵衛を、織江を思わぬ運命に誘うその因縁の一つの結末と、新たな始まり――本作は短編の形でありつつも、実に内容の濃い作品、ファンであれば必見の一編であります。
ちなみにシリーズ本編が――特に第1作目が――隆慶一郎の「吉原御免状」の影響が濃厚であるのに対し、本作には同じく「柳枝の剣」の影響が感じられるのですが…しかし、ここで語られるある「真実」は、見事な本歌取りとして成立しているのも面白い。
これもまた、一つの「継承」の形と言うべきでしょう。
もちろん作者のキャリアはこれからも積み重ねられていくはずですが、その一つの句読点として、貴重な一冊に感じられます。
「上田秀人公式ガイドブック」(上田秀人&徳間文庫編集部 徳間文庫) Amazon

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