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2013.06.17

「真・餓狼伝」第1巻 混沌の明治に餓狼現る

 明治37年、当時の日本武術界で日の出の勢いの講道館の猛者たちが、次々と何者かの襲撃を受けて倒された。姿なき敵を迎え撃つべく立ち上がった前田光世の前に現れたのは、不敵な少年・丹波文吉――光世と互角以上の戦いを繰り広げる文吉の正体は、その目的は…?

 連載開始以来、大いに気になる作品でありました格闘漫画「真・餓狼伝」の単行本第1巻がついに刊行されました。
 「餓狼伝」は言うまでもなく夢枕獏の代表作の一つであり、今なお継続中の大河格闘小説。原作を踏まえつつも独自路線を展開していた漫画版は数年前に中断しており、連載が始まった際は、タイトルを変えた続編かと思いきや――

 これが、時代を大きく遡り、明治時代を舞台とした格闘漫画だったのですから実に面白い。
 なるほど、「餓狼伝」においてもグレイシー柔術の祖たる明治時代の柔道家・前田光世の名は登場、その最期に関係したという謎の流派の存在がクローズアップされるなど、明治時代とは無縁というわけでもありません。
 そして何よりも原作者の夢枕獏には、勃興期にあった講道館の猛者たちを中心とした「東天の獅子」があります。当初の構想からすればいまだ序章である同作の構想が、「餓狼伝」の作品世界と繋がり、本作が生まれた――というのはもちろんこちらの勝手な想像ですが、明治時代と「餓狼伝」というのは、意外なようでいて、実はそれなりに理由のある組み合わせと言うべきでしょう。
(ちなみに時系列的には、本作は「東天の獅子」の少し後の時代に当たります)

 さて、その本作ですが、冒頭に登場するのがブラジルに渡った前田光世。その光世が、ガスタオン・グレイシーとその子・カルロスの前で柔道の冴えを見せる導入部から、光世が最も強かったと呼ぶ相手の存在を語る――というのは、定番ではありますが、やはり燃える展開。
 そしてその相手こそが、丹波文吉という名なのは、やはり「餓狼伝」読者としては色々な意味でテンションが上がります。

 「餓狼伝」の(一応)主人公の丹波文七と彼の関係はまだ不明ですが、道場破りに失敗して関節技に惨敗したり、実は単なる顔芸人だったり…ということもなく、この丹波文吉はまだ年若いながらも相当に強い。
 西郷四郎顔負けの身軽さに、講道館の猛者たちを上回る関節技、相手を確実に倒しに来る当て身(打撃)――物語開始早々に前田光世と対戦というのは、ある意味いきなりラスボスとぶつかったようなものですが、しかし一歩も引かず渡り合う姿は、なかなかに痛快であります。

 物語の方は、講道館ばかりを狙った野試合を挑む文吉と、その挑戦に応えた光世の激突だけでほとんど一巻費やしており、説明らしい説明はまだほとんどないのですが、それはそれで十分「餓狼伝」らしいですし、また殺伐とした空気を残した明治という時代らしい。

 文吉vs光世戦は、ようやく連載誌の方で決着がついた…と思ったらまだついていないのですが、この先本作がどんな方向に向かうのか――
 光世を上回る敵が登場するのか、「餓狼伝」本編との結び付きは、そして文吉の行方は…

 些か気が早いですが、それだけ先行きが楽しみな本作。何しろ社会そのものも、武術界の流れも混沌とした時代を舞台とするだけに、何が飛び出しても不思議はない、そしてどんどん飛び出させて欲しい、そんな作品なのであります。


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