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2013.06.30

7月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 6月に入る前からだいぶ気温も上がり、暑くなりそうな予感の今年の夏。それならば時代伝奇の方もさぞかし熱く…(強引)と思いつつも、意外とおとなしいのがちょっと残念な、7月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 文庫小説の方でまず気になるのは、最近すっかりユーモア妖怪時代小説づいている朝松健「てれすこ 大江戸妖怪事典」。平賀源内も登場する賑やかな作品のようです。
 また、風野真知雄の復活シリーズ「新・若さま同心徳川竜之助」は最新巻「南蛮の罠(仮)」が登場、最近は良い意味で全く何を書いてくるかわからない作者だけに楽しみです。

 その他、上田秀人の「御広敷用人 大奥記録」シリーズは「疑惑の紅(仮)」が登場。また、毎月お楽しみの廣済堂モノノケ文庫は…文月芯の「京太郎妄想剣」の最新巻でしょうか?
 また、久々に学研M文庫から登場の柳蒼二郎「あっぱれ三爺世直し帖 大岡の鈴」は…タイトル的に伝奇ではないですかね。

 そして文庫化では仁木英之の「千里伝」シリーズ第3巻、「武神の賽」が。ものすごいヒキで終わる作品なので、ぜひ第4巻も間を置かずに出していただければ…などと思ってしまうのですが。


 そして漫画の方ではまず気になるのは「お江戸ねこぱんち」の第7弾。4ヶ月に1回刊行の同誌ですが、もうそんな時期か…と少なからず驚かされます。

 そして新登場は…永井豪の神をも恐れぬ怪作「どろろとえん魔くん」。名作「どろろ」の続編にして何故か「ドロロンえん魔くん」の外伝でもあるという…いや、タイトルは似ていますが!

 さて、続巻の方はそれなりの点数が。小林ゆき「江戸天魔録 春と神」第2巻、神崎将臣「仮面の忍者赤影Remains」第2巻、武村勇治「義風堂々!! 直江兼続 前田慶次酒語り」第7巻、霜月 かいり「BRAVE10 S」第4巻――そして、先日惜しくも未完のまま終わった、ながてゆか「蝶獣戯譚Ⅱ」第5巻(「Ⅲ」があることを信じて買います!)。

 そして個人的に楽しみなのは、和月伸宏「るろうに剣心 特筆版」の下巻であります。思わぬ長期連載になった感がありますが、「るろ剣」とは何か、ということをはっきりと見せてくれた作品であったと思いますので――

 復刊の方では、文庫版コミックとして、山口貴由&南條範夫「シグルイ」が刊行開始。装丁等がどうなるか、気になるところです。
 また、廉価版コミックでは赤名修&中島かずきの「闇鍵師」が登場、いや懐かしい…


 最後になりますが、TV放映中はこのブログでも取り上げてきた「UN-GO」の漫画版、山田J太「UN-GO 敗戦探偵・結城新十郎」も第3巻で完結。これで「UN-GO」関連の展開は一段落でしょうか…



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2013.06.29

「シャウト 新選組」第1巻 悩みまくる彼と暴れまくる彼らと

 将軍の上洛警護と、無法地帯と化した京の鎮圧のために組織されることとなった浪士組に参加することとなった近藤、土方以下、試衛館の猛者たち。彼らとともに汗を流していた斎藤一は、思わぬことから旗本を斬ってしまい、勘当されて京の道場の門を叩く。剣の心、剣士としての生き方に悩む一は…

 幕末ものの人気キャラクターは、と問えば、まずかなりの確率で「新選組」の名が挙がることでしょう。これまで幾多の作品が描かれてきた新選組ものですが、そこに新たに加わった、元気の良さでは屈指の作品が、本作「シャウト 新選組」であります。

 …といっても、この第1巻の時点ではまだ新選組は結成もされていない状況。その前身(前々身)ともいうべき浪士組が結成されたばかりの段階ですが、しかし彼らの画面からはみ出すような元気ぶりは、実に気持ちが良い。
 後先考えぬ豪快な暴れん坊の永倉と、彼に輪をかけて猪突猛進の原田、御曹司的な風貌ながら何故か二人とウマが合う藤堂。沈着剛毅なようでやんちゃぶりは彼らと変わらぬ近藤に、優男ながらえげつない喧嘩殺法を見せる土方、そして道場では今ひとつながら実戦では異常なまでの強さを見せる沖田(微妙にヒラメ顔なのも楽しい)――

 本作に登場する後の新選組の面々は、いずれも我々がよく知る(つもりになっている)「あの」新選組のイメージをきっちりと踏まえてはいるのですが、しかしその言動のテンションと熱量は半端じゃない。
 浪士組参加希望者が集められた小石川伝通院でまずやくざ者たちと大喧嘩をおっぱじめ、京でも凶暴な勤王浪士相手に後先考えぬ大乱闘。武士道など薬にしたくともないような連中なのであります。

 しかしそれでも決して不快感なく、むしろ微笑ましさすら感じさせるのは、作画の下元智恵の明るくバイタリティに溢れた絵柄と、紙面から飛び出さんばかりの生きの良いアクション描写によるものでしょうか。
 作画は「かぶき姫」の下元智恵、原作は「かぶく者」のデビッド・宮原ときたら、これは幕末のかぶき者伝なのか? …というのは半分当たり、半分外れなのでしょう。


 というのも、本作の主人公は、上で触れなかった男――斎藤一。史実として伝わる通り、江戸で旗本を斬って京に逃れた一は、この時点では近藤ら試衛館組とともに浪士組に参加せず――しかし、同じ京で暮らすこととなります。
 本作における一は、あの沖田ですら「はじめを斬れる者などいない」と断言するほどの剣の申し子のような青年。半ば無意識のうちに相手の隙を見つけ出し、理法を外れたような技で斬る、いわば生まれついての人斬りなのであります。

 しかしそんな彼の、剣に対する自負は、京都到着早々打ち砕かれることとなります。京で頼った聖徳太子流(創作かと思いきや本当にあって吃驚)の道場主・吉田に、完膚無きまでに敗れた一は、剣の心とは何かという、ある意味根本的な思考の迷路に迷い込むことに…

 かくて、豪快に暴れ回る試衛館組サイドと、ひたすら悩みまくる斎藤一サイドと、両極端の色分けとなった本作。両極端といえば両極端、バランスが悪いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、その曲者ぶりが、私にとっては何とも楽しく感じられます。

 しかし、試衛館組と一と、二つの道は遠からず合流することになります。そこで両者がどのように混じり合い、そこにどのような化学反応が生まれるのか…
 おそらくは非常に珍しいマッチョ系悪役の殿内義雄、一種ダンディな切れ者として登場する芹沢鴨と、彼らを取り巻く面々も曲者揃いで、これはまた先が楽しみな新選組ものが生まれたものであります。


「シャウト 新選組」第1巻(下元智恵&デビッド・宮原 角川書店) Amazon
シャウト~新選組 (1) (単行本コミックス)


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2013.06.28

「ツングース特命隊」 地の果ての地獄に向かう男たち

 1908年、シベリアの奥地ツングースで発生した謎の大爆発。朝鮮で抗日兵相手に武器の密売をしていた武藤淳平は、かつての上官である明石元二郎から、その原因究明を命じられる。一筋縄ではいかないメンバーとともにツングースに向かった武藤が、グルジェフらの妨害をくぐり抜けた先で見たものは…

 このブログでも何度も取り上げている山田正紀は、SFをメインとしつつも、時代もの、ミステリ、冒険ものと幅広い分野で活躍していますが、その中の冒険ものの中でも「秘境冒険もの」に属するのが、本作「ツングース特命隊」であります。
 実は恥ずかしながら本作はこれまで未読だったのですが、この7月にラジオドラマ化されるのを機に、手に取った次第です。

 かつては冒険小説の花形でありつつも、現代ではほぼ壊滅状態にある秘境冒険もの。その理由は言うまでもなく、現代において秘境と呼ぶべき存在が既に存在しない――というより、説得力ある姿で提示しにくい――ことにあるかと思いますが、それを巧みにクリアしてみせたのが本作。
 舞台を20世紀初めのシベリアという未開の地に設定したこともさることながら、そこにツングース大爆発という、現代においても完全に原因が解明されたわけではない謎を絡めることにより、見事にミステリアスな「秘境」を、誕生せしめているのであります。

 そして、その秘境に挑む面々がまた魅力的。かの謀略軍人・明石元二郎大佐から謀略戦のノウハウを叩き込まれながらも、軍を抜けて朝鮮で抗日兵に武器を密売している主人公・武藤。「地獄」に魅入られた元文学青年で射撃の名手・伊沢。かつて訪れたシベリアの地に憑かれた賭場の用心棒で体術の達人・俊藤。明石の部下でガチガチの青年軍人・村井。

 この、どこか死と虚無に取り憑かれたような――ある意味、いかにも山田正紀キャラな――四人の男たちに、謎の医師・大隈(下の名は博文!)と、ツングースから帰って狂死した兄の謎を追うヒロインが加わった特命隊が、シベリアの地下に広がる「地の国」に挑むのですから、面白くないわけがないのであります。
(さらに、彼らの冒険行を妨害するのが、オカルト界隈では超有名人のグルジェフというのもまた素晴らしい)

 しかし、本作の最大の魅力は、本作後半の舞台である「地の国」と、それに込められたものであることは間違いないでしょう。
 シベリアの奥地、原住民すら近寄らない地の底に広がる広大な「地の国」。人間が存在しない、どこまでも果てしなく続くような――そして、その姿を次々と変えていく――その世界の姿は、ややもすると単調に見えるかもしれません。

 しかし、グルジェフが「この世を滅ぼす」と予言したその地の正体、いや、その地に込められた意味に気付いた時――そしてそこを旅していたのが、作中で幾度か「精神的奇形」とすら呼ばれる、死と虚無に取り憑かれたような者たちであったことを思う時、感動とも恐怖ともつかぬものが胸に迫るのであります。
 さらに言えば、「地の国」とそこでの旅が、ダンテの「神曲」のそれをなぞったものであることを考えればなおさら、です(もっともこれは、恥ずかしながら私は自分では気付かず、尊敬する先輩の指摘で初めて気付いたのですが…伊沢の台詞で、はっきりと引用しているのに)

 この世は本当に「地獄」なのか。だとすれば、そこに生きる我々の存在にどれだけの意味があるのか――
 この、一種巨視的な、SFだからこそ描ける問いかけ――そしてそれは本作とほぼ同時期に発表された半村良の「妖星伝」に通じるものがあると感じるのですが――こそが、往年の秘境冒険ものの(ある種の)リメイクに留まらない、本作ならではの魅力ではありますまいか。

 そしてもちろん、そんな底知れぬ虚無を描きつつも、「それでも」という想いを残してくれるのが、山田作品なのですが――


「ツングース特命隊」(山田正紀 ハルキ文庫) Amazon
ツングース特命隊 (ハルキ文庫)

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2013.06.27

「いくさの子 織田三郎信長伝」第4巻 風雲児、海へ!

 前の巻が出てから久しぶりの印象がありますが、織田信長の少年時代を描く「いくさの子 織田三郎信長伝」第4巻であります。前の巻が信長の父・信秀の死を中心にした、人情もの的内容であったのに対し、この巻ではそれまでの路線に戻って(?)信長の冒険が意外な舞台で始まることとなります。

 信秀の死に悲しむ間もなく、未来に向けて力を蓄える信長一党。父の死は影武者を立てて偽装し、そして己はうつけの仮面をかぶり――尾張を狙う者の目をくらまし、いつか立つ日のために信長が向かった先は…何と、大海原。
 信長と海というのは、後に彼が――この巻にその少年時代が登場する――九鬼嘉隆麾下の水軍を大いに活用したことを考えれば、さほど不思議ではないのですがしかし取り合わせとしては、大いに意外、と言うべきでしょう(ただし、本作の冒頭において、既に信長は海での冒険を繰り広げているのですが)。
 だが、それがいい。
 主役のみならず、脇役、敵役と、現在無数に発表されている戦国ものにおいて、おそらくは最大の人気者である信長。言い換えれば、手垢のついた題材である信長を描くのに、並みのやり方では魅力は感じられないのですから…

 かくて、本作の信長は、師である沢彦宗恩と南蛮人シスコ、そして武羅衆(母衣衆)の不良少年たちとともに、難破した南蛮船を修理し、堂々と海に乗り出していくこととなります(そしてその理由が、密かに大量に入手した火縄銃を、人目につかぬよう試射するため、という理屈がつけられているのがまた楽しい)。
 そして信長が狙うのは、海を騒がす海賊たち。いかにも原哲夫の悪役的な造形の海賊たちを叩き潰し、いわば悪党の上前をはねていく信長一党の活躍は実に痛快、まさか信長ものでこんな展開があるとは、と驚くと同時に、素直にワクワクしてしまうのです。

 そしてこの巻ではサプライズゲストが――南蛮船の隠し場所に向かう途中、嵐に巻き込まれて辿り着いた島で、海賊に捕らわれた信長たち。そして彼と同じく捕らわれた、幼くも力強い瞳の少年、その正体は…何と、かの前田慶次郎。
 「花の慶次」とコラボ、と言ってしまうのはちょっと違うと思うのですが、それでも有名人同士の意外な出会いというのはやはり楽しいものであります。


 さて、この巻のラストには、後に信長の嫡男たる信忠を生むことになる生駒類が登場。冷静に考えたら4巻ラストにしてようやくヒロイン的な存在が出てきたというのには驚かされますが、しかしどうみてもただのヒロインでは終わらない印象で、果たして彼女が物語にどう絡むのか、こちらも要注目でしょう。


「いくさの子 織田三郎信長伝」第4巻(原哲夫&北原星望 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon
いくさの子 4―織田三郎信長伝 (ゼノンコミックス)


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2013.06.26

「水滸伝」第11話 「智深 火をもって瓦罐寺を焼く」

 さて、ドラマ版「水滸伝」のDVDレンタルも開始され、何だか完全に取り残されつつあるのこのブログですが、マイペースで行くとしましょう。前回は、降参を勧告した林冲に、卑劣にも抜き身の刀で洪師範が襲いかかる! という場面で終わりましたが、さて林冲の運命は、そして彼の真意は…

 牢城での賄賂が足りず、危うく土牢に入れられかけた林冲。折良くそこに訪れた柴進に頭を下げるという、あまり好漢らしくない手段で手に入れた十両を洪師範に取り上げられ、その十両を賭けての決闘は、手枷足枷を付けた状態でも(当然ながら)林冲の圧勝でありました。

 しかし面目を潰されて黙ってはいれぬと、刀を抜いて暴れ出した洪師範に対し、防戦一方の林冲。いや…彼が、自分の顔を潰すまいとしていたことに気付いた柴進は、林冲が本気を出すのにGOサインを出します。
 そこでほとばしる林冲の気迫! 前回も圧倒的でしたが、まだセーブしていたのか! という印象ですが、この林冲を見る柴進の視線が、完全に「林冲さんカッケー…」なのが実に可笑しい。
 それはともかく、本気を出した林冲に、恥も外聞もなく門弟を襲いかからせる洪師範。しかしもちろん叶うはずもなく、自分も完膚無きまでに敗れ去るのでした。

 そしてここで初めて、林冲の十両に拘る理由が明かされます。彼が恥じも外聞もなく、柴進に頭を下げて借りた十両――これこそは、彼がどんな手段を使ってでも、しかし脱走などせず刑期を勤め上げて妻の元に帰るという決意の証。己自身の切なる誓いのために、敢えて一時の恥を堪え忍ぶ、男の中の男の誇りの表れなのであります!

 実は原典で林冲が柴進に出会うのは、牢城に入る前。洪師範との立ち会いはあるものの、十両のエピソードは完全にドラマのオリジナルです。ここで時系列を変えてきたのはこのドラマらしいアレンジと思いましたが、それ以上に林冲の心意気を描き出す、見事な描写ではありませんか。

 そして林冲に別れを告げ、帰って行く柴進。「今までは狩りに出ても大した獲物がありませんでしたが…」などと意味深なことを言いながら林冲を見るのはどうかと思いますが、まずは地獄の沙汰も金次第。
 かつて世話をした男が酒屋をやっているのにも出会い、まずは一息ついた林冲であります。

 さて、林冲に追い返されて東京に帰る途中の魯智深は、路銀を使い果たして草木を囓るような状態(義兄弟揃って本当に金銭感覚ないな!)。ようやく見つけた瓦罐寺なる寺に斎を求めれば、そこではよれよれになった僧侶たちが。

 ここから先はほぼ原典通りの展開ですが、瓦罐寺を占拠して自分たちは酒池肉林、元からいた僧侶たちは飢え死に寸前に追いやったのは、崔道成と丘小乙という僧侶と道士の悪人コンビ。魯智深は空腹もあってこの二人にいいようにあしらわれ、這々の体で逃げ出す羽目に合わされます。

 と、そこで餓死寸前の魯智深の前に現れたのは、覆面の武芸者風の男。男の態度が気にくわないと襲いかかった魯智深ですが、実は男が史進とわかり、食い物を分けてもらって勇気百倍、瓦罐寺にとってかえします。
 対等の状態で戦えば、この二人に敵う相手が滅多にいるはずもなく、魯智深は同じ坊主同士、崔道成を常識外れのパワーでなぎ倒し、フィニッシュは投げ上げた崔道成を禅杖の三日月状の部分で受け止め、そのままポーズ!(これ、一歩間違えると崔道成の体真っ二つになるのでは)
 史進も丘小乙に容赦なく棒のコンボを叩き込んで、危なげない勝利であります。

 …しかし、僧侶たちは既に殺され、二人にさらわれてきた娘も首吊りと、結局誰一人救えなかった魯智深。せめてもの供養と、彼らを荼毘に付し、経を唱える彼の姿は、決して単なる格好だけでない僧としての風格のようなものが感じられます。
 まあ、冷静に考えると責任のかなりの部分は魯智深にある、というより本当に今回はいいところなかった魯智深なのですが…

 さて、いつの間にか少華山組と知り合ったらしい史進と別れた魯智深は、ある屋敷の扉を叩きますが…


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 「水滸伝」 第09話「大いに野猪林を騒がす」
 「水滸伝」第10話 「林冲 棒を持ち洪師範を打つ」

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2013.06.25

「ちゃらぽこ 長屋の神さわぎ」 看板に偽りなしの妖怪人情ドタバタ活劇

 板橋の岡場所で乱痴気騒ぎをしていた妖怪長屋の大家・杢兵衛は、謎の幼女・お百が放った黒い玉・ヤクダマを喉に詰まらせて頓死してしまう。中山道沿いに災厄をまき散らしながら江戸にやって来たお百の正体は、疫病神だった。お百を悪用せんとする悪人たちに対し、妖怪長屋の面々は?

 最近は妖怪時代小説の分野で活躍著しい朝松健の「ちゃらぽこ」シリーズ第3弾が発売されました。
 本所も場末の通称真っ暗町の妖怪ばかり住んでいる長屋にひょんなことから転がり込んだ青年剣士・荻野新次郎と、子供の姿の福の神・福太郎を中心に、妖怪たちがドタバタを繰り広げる本シリーズですが、今回の騒動のタネは、福の神とは対極の存在、疫病神であります。

 江戸も外れの板橋で季節外れの花見の宴会をしていた妖怪長屋の面々。その会費を横領して岡場所にしけこんだ化け狸の大家・杢兵衛が、そこで謎の黒い玉・ヤクダマを喉に詰まらせていきなり死亡する場面から物語は始まります。
 シリーズ第3弾にして新展開、冒頭からメインキャラの1人が死ぬとは!
 …と驚いていいのかどうか、わからないのが本シリーズの恐ろしいところ――何しろシリーズ第1弾の冒頭で主人公がいきなり死んでいるので――ですが、かろうじて息を吹き返した杢兵衛は、自分の本能のおもむくままに暴れ回る存美(ぞんび)になってしまい、新次郎たちはその特効薬を探す羽目になります。

 が、その特効薬である薬草が生えた屋敷こそは、今回の騒動のいわば黒幕。甲州から疫病神を操る陰陽師を呼び寄せ、その疫病神の力で江戸を混乱に陥れ、政敵を暗殺せんと企む悪役人と、新次郎ら妖怪長屋の面々は対決することになるのですが――
 新次郎はともかく、人間とは異なるパーソナリティで動き回る妖怪たちですから、普通の事件も大騒動になってしまうという寸法。特に、前作から登場した根性がひん曲がった女幽霊・お菊が、相変わらずの破壊力で物語を引っかき回してくれるのが何とも楽しいのです。

 楽しいといえば、一度死んだ、そして存美になった杢兵衛に対する長屋の連中の扱いも実にオカシイ。
 死者への崇敬の念などどこへやら、杢兵衛の亡骸をぞんざいに扱い、存美を容赦なく叩きのめす彼らの姿は、実に不謹慎、不人情ではありますが、しかし決して不愉快ではなく、むしろその容赦のなさが逆に抱腹絶倒。確かにこれを人間が人間に対してやったら、良識的な方は眉を顰めるかもしれませんが、妖怪が妖怪にやることなので問題なし(?)。
 なるほど、妖怪ものにはこういう効用もあったか、と今さらながらに感心した次第です。

 しかしそんなドタバタギャグが続く本作ではありますが、しかし今回登場する疫病神のパワーは、ちょっと洒落になりません。
 何しろ、中山道を江戸にやってくるまで、各地で数々の災厄を撒き散らし、江戸においても打ち壊しが起きるわ火災は起きるわ疫病は流行するわと、大変な有様…なのですが、その疫病神が、何と可愛らしい女の子の姿をしているというのも一筋縄ではいかないところ。しかも子供同士、福太郎と仲良くなって遊び始めてしまうのですから――

 ここでお百と福太郎の遊びの「影響」がまた最高に面白恐ろしく、クライマックスを大いに盛り上げてくれるのですが、しかし、ここで疫病神の子供を決して単なる悪役にしない辺りがまた作者らしい。
 デビュー以来一貫して、子供を害する者、利用する者に激しい怒りを見せてきた作者が描く物語は、ここでも疫病神の少女を滅ぼすのではなく、救おうとしてくれるのが嬉しい。
 妖怪たちの不人情っぷりをギャグにしつつ、きっちりと妖怪に対する人情を忘れない――なるほど、これぞ妖怪人情ギャグというべきでしょう。看板に偽りなしの快作であります。


「ちゃらぽこ 長屋の神さわぎ」(朝松健 光文社文庫) Amazon
ちゃらぽこ長屋の神さわぎ (光文社時代小説文庫)


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2013.06.24

「浣花洗剣録」第27集 伝説の古城と砂漠の修羅場と

 さて、正派と邪派の決戦もとりあえず終結し、そしておそらくは本作最大の秘密であろう、ある人物の正体も明かされた「浣花洗剣録」。今回は前回に引き続き、その人物の真の姿と、おそらくは最後の山場の地の伏線が描かれることとなります。

 実は明王朝の秘密警察・錦衣衛の一員であった木郎神君。その狙いは、白三空と同じく、武林を滅ぼすこと…
 その前段階とも言うべき邪派=白水宮壊滅に成功した木郎神君は、白三空と青萍山荘で密談するのですが…そこに帰ってきたのは白宝玉。主人公の一人でありながら、決戦の場に居合わせなかった彼ですが、おかげで物語の核心に迫ることとなります。

 木郎と山荘で出くわし、その言動から彼の嘘を見ぬいて、半ば強引に木郎と同行した宝玉。彼らの向かう先は北京、そこで木郎は青木堡の残党と会うと言うのですが、もちろんそれは嘘。酒に混ぜた薬で宝玉が意識を失っている間に木郎が向かった先は、朝廷の重臣・
厳崇なる新キャラの屋敷。
 錦衣衛を束ねているらしい厳崇は、彼に幻の城・羅亜古城の探索を命じます。

 と、その羅亜古城とは何か? それは、明の前の元王朝の頃、蒙古民族がいつの日か国が失われることを予想して密かに大陸中の財宝を運び込んでいたという城。その城には代々そこから出ぬまま宝を守護する番人がいたというのですが、元王朝滅亡とともにその城の在処は失われ、ただ莫大な財宝が眠る城の存在のみが、江湖の伝説として残ったのでありました…
 と、大変伝奇的な、それも古龍にしては珍しく歴史背景に基づいた(もっともこのドラマがどれだけ古龍の原作に忠実なのか、私は知らないのですが)設定。これは実に私好みの展開であります。残り話数から考えて、この伝説の城探しが最後の山場、そして決戦の地となるのではありますまいか?

 などと思っていたら、その密談をしっかり覗いていたのは宝玉。さすがに薬が混ぜられていたのには気づいていたのでしょう。この辺り、江湖の好漢としての成長が感じられますが…しかしその後の行動が力押しなのはいただけない。
 木郎の跡をつけて、見つけられたら「お前の正体と企みはみんな聞いたぞ」と本人に宣言。後で木郎自身が言っているように、黙っておいて江湖にこの話をばら撒けば、木郎も江湖的に抹殺されたものを…

 と、一度は錦衣衛の雑魚に阻まれて逃した木郎を、白水宮近くに設けられた官軍の野営地までおいかけた宝玉は、そこで思いっきり木郎の待ち伏せに遭い、弓兵の大群に狙われることとなります。
 この辺り、木郎が実に憎々しいキャラに変貌していて、確かにちょっと胡散臭いところはあったものの、ここまでよくも隠していたものと感心した次第。宝玉はともかく、呼延大臧にとっては、親友が最大の敵というのはなんとも厳しい展開になりそうです。

 と、今は宝玉の方ですが、ここで以前に手に入れた神木令牌を使って駆け引きしたまでは良かったものの、結局その場は逃げるほかなく、しかも木郎の矢を受けて傷を追ってしまう始末。そのまま何とか逃げ込んだ先は、官軍の将軍も恐れる死の砂漠。木郎はこちらが地なのか、これまでの冷静さが嘘のように、一人でも宝玉を追いかけていくのでした。

 しかし砂漠といえば、思い出されるのは前回、沈香谷の先の砂漠に逃げ込んだ脱塵郡主と奔月…と思いきや、やはり砂漠で行き倒れた宝玉を救ったのは脱塵。
 さすがは砂漠の国から来た女、砂漠でのサバイバルには長けた彼女は、食料・水分まできっちり確保すると、偶然オアシスまで来て倒れた宝玉を助けたのであります。

 が、ここで宝玉が木郎の正体を語っても、もちろん脱塵が信じるはずもない。そして奔月もいまだに気まずさを抱えたまま、なのですが…ここで奔月が、あの新婚初夜の、何故か宝玉と珠児が同衾していた修羅場の真実を語ります。

 実はあの一件、宝玉が本当に珠児と結婚させられると思った白水聖母が宝玉に仕掛けた毒(ってすごいですね)のために、宝玉が部屋を間違えたということのようですが…ここで実際は奔月と結婚することになっていたことを聖母が知らなかったため、いうなれば入れ替わりの入れ替わりでこの惨事が起きてしまったと…

 真実を知り、奔月がまだ自分を愛してくれると知った宝玉はよりを戻そうとしますが、奔月は珠児のことを思ってこれを拒絶。ヤケになった宝玉が、砂嵐が迫っているにもかかわらず、逃げんのやめた! と言い出したプチ修羅場で次回に続きます。
(ちなみにこのラストシーン、風のためか今まで前髪パッツンで隠れていた奔月の額が見えていて、個人的にはなかなか新鮮…えっ、どうでもいいですか)


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2013.06.23

「桜ほうさら」 温かみと苦味の青春記

 上総の小藩を離れ、深川の長屋で写本で生計を立てる青年・古橋笙之介。彼には、小納戸役だった父を罠にはめ、切腹に追いやった犯人を突き止めるという隠れた使命があった。周囲の人々に助けられながら様々な事件に巻き込まれるなか、少しずつ成長していく笙之介。彼がついにたどり着いた真実とは…

 個人的に宮部みゆきの時代小説というと、どうしてもホラーものの印象が強いのですが、もちろんそれに留まらないのは言うまでもありません。本作もその一つ、江戸深川を舞台に、藩のお家騒動に巻き込まれた青年武士の成長を描く人情ミステリとでも呼ぶべき作品であります。

 主人公は、上総の小藩の小納戸役の次男坊古橋笙之介。彼の父は見に覚えのない賄賂の嫌疑をかけられた末、追いつめられたか切腹。父を嫌っていた母と兄と違い、父の潔白を信じ、その汚名を濯ぐため江戸で暮らしながら、ある人物を捜すことになります。
 他人の筆跡を完璧に真似できるという模写の達人。書いた覚えがないにもかかわらず、自分が書いたとしか思えない書き付けを書くことができる人物――父が、藩のお家騒動に巻き込まれて命を落とすことになったと知った笙之介は、その筆がお家騒動の中でさらに悪用されるのを防ぐため、藩の江戸留守居役に、いわば密命を受けたのであります。

 かくて、同じ文字を書く仕事として、写本の仕事を受けながら江戸で雲を掴むような探索の日々を送る笙之介。そんな中で、自分自身の使命とは関係ない市井の事件に巻き込まれた笙之介は、長屋や写本屋の人々、そして故あって引きこもっていた仕立て屋の娘・和香ともに、解決に奔走することになるのです。


 お家騒動に巻き込まれて汚名を着せられた父、未熟ながら懸命に頑張る主人公、江戸の長屋の人情溢れる人々、切なくも微笑ましい恋模様…とくれば、これは時代ものの定番中の定番パターンの一つに見えるかもしれません。それは否定しませんが、しかし本作を本作をたらしめる要素は、はっきりと存在しています。

 その一つは、メインとなる事件はもちろんのこと、本作で笙之介が巻き込まれる数々の事件で、いずれも「書く」という行為が重要な要素となっていることであります。
 笙之介の父を死に追いやり、今またお家騒動の中で利用されようとしている完璧な偽文書。某藩の前藩主が隠居した後にひたすら書いている暗号めいた文書。さる大店の一人娘の誘拐事件の脅迫状――人が書いたもの、人に書かれたもの、それを中心に、物語は紡がれていくのです。

 そして何よりも面白く、そしていかにも作者らしいのは、笙之介が追う偽文書作りの正体、いや人物像でしょう。文字には、それを書く人間の心が映し出されるといいます。そうであるならば、完璧に人の文字を真似できる人間は、どのような心をしているというのか――
 この問いかけと、それを踏まえた「犯人」の人物造形は、いかにも作者らしい…と感心させられた次第です。

 そしてもう一点、本作ならではの要素は――これは物語の本筋に関わってしまう部分なので、本作に関するインタビューの中での作者の言葉を借りて申し上げれば、「家族は万能薬ではありません」という言葉に尽きるでしょう。
 いわゆる人情ものにおいて、その最も基本であり、最も強い人情は、親と子の、親同士子供同士の…すなわち家族のそれであると言ってよいのではないでしょうか。
 それは、家族が人と人の結び付きの最小単位であることを考えれば、むしろ当然と言えるかもしれませんが――しかし本作は、それを残酷なまでに明確に、否定してみせるのであります。

 家族という幻想の否定…と言ってしまえば強すぎるかもしれません。しかし人が社会において一番頼ることが出来る存在は、果たして家族なのか? と言い換えれば、それは頷けるものでありましょう。
 そしてそれは、家族という存在の価値が不自然なまでに称揚されている現代において、有用な問いかけであると申せましょう(尤も、
現代の格差問題を明確に意識した部分と合わせると、その問題意識がいささか鼻につく部分はあるのですが…)


 いかにも作者らしい、ユニークで温かいなミステリのようでいて、その実、いかにも作者らしい、毒と苦味で満ちた物語である本作。作者のどちらの側面を愛する人であっても、楽しめる作品ではないかと思います。


「桜ほうさら」(宮部みゆき PHP研究所) Amazon
桜ほうさら

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2013.06.22

「戦国ケンタウロス」第1巻 まさに人馬一体!? 武田家意外伝

 相変わらずの戦国ブーム、ということは多岐にわたる内容の戦国ものが発表されているということであります。その中にはずいぶんと変わり種があるものですが、その中でも屈指のユニークな作品が、戦国時代の甲州武田家を舞台とした本作「戦国ケンタウロス」であります。

 ケンタウロスといえば、ギリシア神話に登場する、馬の首から上が人間の上半身となったような半人半馬の存在。
 一説には、乗馬文化を知らない者が、馬を自在に乗りこなす騎馬民族を見て考えついたものだともいいますが、なるほど、かの武田騎馬隊の人馬一体ぶりを喩えてケンタウロスというのか!

 という、タイトルと舞台を聞いてのこちらの予想は、大きく外れることになります。本作に登場するのは、比喩でなく本物のケンタウロス。戦国時代を舞台に、あのケンタウロスが登場する…というだけでも大変なのですが、それが武田晴信(信玄)の下で大活躍した武田四天王の一人、馬場信房だった、というのですから、驚かせるにもほどがあるではありませんか。

 そんなわけで、本作に登場する馬場信房(この時点では実際にはまだ教来石景政ですが)は、半人半馬のケンタウロス。この世界においては彼のような存在は当たり前…ということは全くなく、彼のことをよく知る武田家の面々はともかく、それ以外の人間から見れば異形以外の何ものでもない彼ですが、しかし信房自身は武勇に優れるだけでなく、人の心の痛みのわかる好漢。

 というのも信房は、子供時代、いや武田家に仕官した直後まで、その異形から好奇の目にさらされてきた過去を持つ男。
 それだけに人の心の持ちように敏感な信房は、作中ではまだ当主である武田信虎に半ば虐待されていた晴信を、飯富源四郎や原昌胤らと頼もしく支えるのであります。

 が、哀しいかな、彼の体の半分は馬。春になると、雌馬の匂いに対して敏感に反応し、武人にあるまじき不麗面(フレーメン)反応を見せてしまう…というとんでもない設定などもあって、硬軟取り混ぜた展開が実に楽しい作品であります。


 …それにしても、冷静に考えてみると、武田家のこの時代をメインに取り扱った作品というのはそれほど多くないように感じます。
 晴信による信虎追放、という大きなイベントはあるものの、やはり地味といえば地味なのかな…などと考えるのですが、そこにケンタウロスというとんでもない異物を投入することにより、漫画として見せてしまうのは、これは見事なアイディアではありますまいか。

 物語としてみても、信虎と旧来の家臣団――先代四天王とも言うべき面々――と、晴信と若き家臣団という構図にはっきりとなっているのも面白く、これはこの時代の武田家を描く真面目な歴史ものとしても期待できるのではないか――というのはもちろん大袈裟なのですが。
(ただ、一部のキャラ造形のように無理にギャグに走らずともよいのではないかな、と思います)

 ちょうどこの1巻ラストでは、信房がその家を継ぐことになる馬場伊豆守にまつわるシリアスな過去エピソードが展開中。果たして彼に何があったのか、そして座敷牢に入れられたその娘・お独楽とは…

 ケンタウロスという戦国時代に破格の存在を通じ、ギャグでもシリアスでも、破格の物語を期待しているところです。


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戦国ケンタウロス 1 (芳文社コミックス)

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2013.06.21

「信長のシェフ」第7巻 料理が語る焼き討ちの真相

 ドラマも好評のうちに終了しましたが、原作の方も相変わらず好調な「信長のシェフ」。前の巻では森可成の死と、本願寺を相手にした帝の御前での料理勝負が描かれましたが、この巻では、信長の事績の中でも後世の評価が大きく分かれるあの事件が描かれることとなります。

 その事件とは、比叡山延暦寺の焼き討ち――平安の頃から都を守護し、そしてその一方で巨大な権力として時の為政者に影響を与えてきた比叡山を、信長が焼き滅ぼしたというあの出来事であります。

 敵対者にとっては容赦しないという印象の強い信長ですが、我々にその印象を与えるのは、この比叡山焼き討ちと、天正伊賀の乱の際に伊賀を滅ぼしたことからでしょう。
 小説など題材になりやすいのは後者のようにも感じますが、しかし後世に、いや当時より衝撃的であったのは、間違いなく前者でありましょう。
 時には帝ですらその意向に配慮せざるをえなかった比叡山。物理的な力はさておき、信仰・信心という、当時としては決して無視できぬ巨大な力を滅ぼす――しかも女子供も残さず――ということがどれだけの衝撃を与えたことか。
 同時に、どう取り繕っても現代の我々から見れば虐殺としか言いようのない行為をどのように描くか――それは、大げさにいえば、全ての信長ものにおける試金石ともいえるでしょう。

 さてそれでは本作がこの延暦寺焼き討ちを如何に描いたかといえば――ケンの料理を通じて描くのは当たり前として、それを信長と家臣の間の想いのやりとりの形で描き出すのがユニークであります。
 例によって言葉少ない(今回その理由の一端が語られるのですが)信長と、今回ばかりはその真意を疑う家臣団と――そのきしみのきっかけとなったのが、森可成の死というのも面白いのですが、そこにケンの料理を絡めることで、本作ならでは信長の真意を、違和感なく浮き彫りにすることに成功していると感じます。

 その信長の真意、比叡山焼き討ちの真相は、甘いといえば甘い、都合がいいといえばいいのですが、しかし全くの作り事ではなく、それなりの根拠も説得力あるものであり、本作ならではの解釈として頷けるものでありましょう。

 ちなみにこの巻の冒頭のエピソードでは、あの松永久秀が登場。このタイミングで物語に顔を出したのは、やはり比叡山を焼き討ちする者と大仏殿を焼き討ちした者を対比するためでありましょうか…


 さて、信長包囲網に対し、強烈な反攻の烽火を上げた信長ではありますが、まだまだ苛烈な運命が信長を、その家臣たちを待ち受けているのは言うまでもないこと。
 ケンの正体を唯一知る「ようこ」と、信長の女忍・楓の接触も気になるところ、まだまだこの先も波乱含みの展開となることだけは間違いないところでありましょう。

「信長のシェフ」第7巻(梶川卓郎&西村ミツル 芳文社コミックス) Amazon
信長のシェフ 7 (芳文社コミックス)


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2013.06.20

「戦国妖狐」第11巻 父子対決、そして役者は揃った!

 前巻から千夜青年編に突入した「戦国妖狐」。前巻では第一部ラストで出現した謎の五人の正体の一端も判明、さらに第一部の主人公であった迅火の行方も判明しましたが、この第11巻では、千夜にとって大きな意味を持つ人物との再会が描かれることになります。が、これがまた一筋縄ではいかず…

 謎の五人組――「無の民」とついに対面し、己の中の千体の闇と、足利義輝の魂の力でついにこれに打ち勝った千夜。
 再来を予言した無の民に対し、修行を重ねてきた千夜と月湖は、予言された年――8年後の元亀4年に旅立つこととなります。

 …が、冒頭のダイジェストで千夜自身が嘆じているように、彼らの前途はいかにも多難。千夜の最初の目的である、父・神雲の救出の前に立ち塞がるのは、人間の遙かに及ばぬ力を持ち、父を、そしてかつては彼自身をも封印した山の神・オオヤマミツチヒメ――その力といい、気紛れで残酷な心といい、まさしく人間離れした「神」であります。

 そして千夜に同行する妖狐・たまが探し求める迅火は、無の民に支配されたまま各地の土地神を食らってさらに力を高め、解放されれば大地の精力を食い尽くしかねない恐るべき存在と化し、これを止めることができるのはおそらく千夜のみ。
 そして無の民が狙うのはもう一人、千夜自身――正確には千夜の力の源である千界の宝玉――であり…千夜の望みである人間として生きるのは、前途多難というも愚かな状況であります。

 そんな状況のこの巻のメインとなるのは、なんと千夜と神雲の父子対決――何故、千夜が助けにきた父と戦わなければならなくなるのか、それはここでは伏せておくとして、あまりの強大さのおかげで(?)第一部ではほとんどその力の全容を見せることがなかった神雲が、ようやくその力の一端を見せることとなります。

 正直なところ(本当に今さら&しつこくて恐縮ですが)、ここまでくるともはや戦国ものというよりもファンタジーものの域かとは思います。しかしこれまで同様、少年漫画、なかんずくバトルものとしての本作の魅力は今回も健在。これまで幾多の強敵を破ってきた千夜の力がまるで通じない相手、一発食らっただけでゲームオーバーとなりかねない相手に対し、千夜が如何に挑むか――そんな緊迫感溢れるバトルの中で、千夜にとってはこれまでの敵とは明らかに異質である「父」という存在が浮かび上がるのが本作のうまさでしょう。

 さらにそのバトルの先に始まるもう一つのバトルの先に描かれるもう一つの父と子の姿(さらにそれを通じて描かれる神雲の姿)がまた泣かせる。
 この巻の冒頭に収録された単発エピソードも、ちょっとゆるい雰囲気の中で千夜と月湖の成長が(そしてたまの辿ってきた旅路の重さが)さらりと描かれていて、この辺りのドラマ面は、さすがにこの作者ならでは、と感じさせるのです。

 最終ページには成長したムドも顔を見せ(そしてその師はやはり予想通りの人物)、さらに第一部からの消息が不明だった面々もほぼ全員登場して、まさに役者は揃ったという状況ですが、さてそれでは物語はどこに向かうのか――
 それが全くわからないのが、本作に限っては逆に楽しみなのであります。


「戦国妖狐」第11巻(水上悟志 マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon
戦国妖狐 11 (ブレイドコミックス)


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2013.06.19

「水滸伝」第10話 「林冲 棒を持ち洪師範を打つ」

 流刑の旅に出る直前、魯智深と熱い義兄弟の契りを交わした林冲。陸謙に意を含められた護送役人にあわや殺されかけたところを魯智深に救われた林冲は、滄州で新たな運命の出会いを経験することとなります。

 帰れ帰れと言っても子犬のようなオーラで旅についてくる魯智深に辟易としつつ(というか妻のことを守るのはどうなったんだと思いつつ)ようやく滄州に辿り着いた林冲は、ようやく魯智深と別れ、牢城に入るのですが…ここで有り金ほとんど牢役人に渡してしまうのが林冲らしいというか何というか。

 牢城に入ってみれば、ここはまさに地獄の沙汰も金次第の無法地帯。役人に付け届けを渡さなければ、散々いたぶられた末に闇から闇に葬られるのみ…と、知った時の林冲の顔が、本当に可哀想なくらい情けなくて、こちらまで見ていてお腹痛くなってきます。
 それはさておき、付け届けが足りなくて、光も通さぬ土牢に放り込まれることになった林冲ですが、しかし神はまだ彼を見捨てないようです。

 ちょうど牢城を訪れたのは、滄州の大人・柴進。後周の皇帝の末裔であり、武芸者好漢をもてなすのが大好きだという柴進の登場に、この機を逃しては! と最後の力を振り絞った林冲は、牢役人たちを素手で叩きのめし、柴進の元に走る走る!
 そして柴進の注目を集め、もてなされることとなった林冲ですが、ここで林冲はまた可哀想になるくらい情けなく、付け届け分の十両を貸してくれと柴進に懇願。これに鷹揚に財布ごと差し出す柴進ですが、あくまでも十両だけで良いと言い張る林冲は、また真面目というか融通が利かないというか…

 と、そこに現れたのは、柴進邸の武術教師・洪師範。これがまた尊大で、流刑人姿の林冲をあからさまに見下す嫌な奴…なだけでなく、林冲が必死に借りた十両を平然とパクるというゲス野郎であります。
 さすがにムッとした柴進は、林冲と洪師範の試合を提案、賞金に財布の残りの金を出すと宣言(たいがいこの人もタチが悪い)するのですが、林冲はまたも十両でいいと…一体何が彼を拘らせているのか?

 何はともあれ、ともに棒を手に対峙した二人ですが、林冲は、手かせ足かせを外せという洪師範の提案も拒否して自らハンディキャップマッチを望みます。そして棒の先を杖のように地面に擦らせて立つ不思議な構えを見せる林冲ですが――
 言うまでもなく、強い、林冲は強い! 洪師範の最初は様子見の、やがて本気の攻撃の数々を全て紙一重で躱し、逆に地面から跳ね上げるような攻撃で追い詰める様は、先ほどまでとは別人のよう。なるほど、手足の動きを封じられた状態では最善の戦法ではありますが、ここはむしろ林冲の底知れぬ実力を讃えるべきでしょう(…気のせいか、林冲が戦う場面はこれがほとんど初めてのような気もします)。

 そして宙に棒を跳ね上げられながらも、ジャンプ一番それを掴んだ林冲は、空中から体重を乗せた一撃で、棒をへし折りながら洪師範の肩に痛撃! なおも相手の体を気遣う余裕を見せる林冲、器が違いすぎます。
 大喜びで賞金を差し出す柴進ですが、しかし林冲はそれを断り、先ほど洪師範が懐に入れた十両を返すよう促します。一体、林冲はどれだけ十両に思い入れがあるというのか…

 と、これを隙と見たか、ムキになって刀を抜いて林冲に襲いかかってきた洪師範。ここで引き下がればいいものを…という気がしないでもありませんが、徒手空拳の林冲にとって、一撃でも食らえばおしまい、という危険な戦いとなったところで次回に続きます。まさかこのエピソードで引っ張ると思いませんでしたが、林冲が絶体絶命!? というのはいいヒキであります。


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 公式サイト

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 「水滸伝」 第05話「拳にて鎮関西を打つ」/第06話「魯達 剃髪し文殊寺に入る」
 「水滸伝」 第07話「豹子頭 誤って白虎堂に入る」/第08話「逆さまに垂楊柳を抜く」
 「水滸伝」 第09話「大いに野猪林を騒がす」

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2013.06.18

「鬼と三日月 山中鹿之介、参る!」 鹿之介、鉢屋衆の闇に挑む

 かつて尼子家の出雲支配を助けた鉢屋衆は、しかし義久の代に至り毛利家と手を組み、尼子家を滅亡の淵に追いやる。尼子家再興を目指す戦いの中、鉢屋衆と対峙した山中鹿之介は、彼らが「しんのう様」なる存在を甦らせようとしているのを知る。果たして鉢屋衆の正体とは、そして鹿之介の戦いの行方は…

 現在、現代を舞台としたSFミステリ「完全なる首長竜の日」が映画化され公開されている乾緑郎ですが、時代小説の分野でもユニークな活動を続けております。
 第2回朝日時代小説大賞を受賞した「忍び外伝」、それに続く「忍び秘伝」と、いずれも時代小説の枠を飛び越える、超伝奇時代活劇で、大いに楽しませていただきました。

 そして時代小説第3弾である本作もまた、なかなかにユニークな作品です。
 主人公となるのは、タイトルにあるとおり山中鹿之介――毛利元就により一度は滅亡した尼子家を再興するため、尼子勝久を担いで立ち上がった豪傑であります。
 そして彼の生涯を通じて因縁を持つ存在が、鉢屋衆。元は漂泊の芸能集団でありつつも、その才を生かして月山富田城に潜入、尼子経久の富田城攻めに協力して以来、一種の忍者として活動してきた一族です。

 なるほど、尼子の家臣として共通項を持つ両者ですが、共演するのは珍しいという印象があります(というより、鉢屋衆が登場する作品自体、相当珍しいのではありますまいか)。しかもそれが敵対することになるとは…
 そして、この鹿之介の苦闘が物語の縦糸だとすれば、横糸となるのは、本作ならではの、作者ならではのとんでもない仕掛け――鹿之介がその生涯を通じて幾度となく出会うことになる「お国」の存在であります。
 見かけは普通の人間と全く変わらないながらも、全く脈というものを持たない――すなわち心臓の動きが感じられない――お国。
 しかも、彼女は、鹿之介の少年時代、青年時代、壮年時代と、全く異なる時代に出会っているにもかかわらず、常に同じ顔、同じ姿の「お国」として現れるのであります。

 果たして彼女は何者なのか――いや、より踏み込んで言えば、彼女は何のために生まれたのか? 本作は彼女の存在を通じ、超伝奇的世界に踏み込んでいくこととなります。
 「三日月」は「我に七難八苦を与えたまえ」と鹿之介が祈ったことで知られる、いわば彼のシンボル。それでは「鬼」の方は…


 と、実に作者らしい、意外すぎる、そしてスケールが大きすぎる物語が展開する一方で、しかし同時に不思議な説得力を感じさせる本作。
 これまでは忍者(もしくはそれに類する存在)を主人公にすることで、いわば裏側から歴史を描いてきた作者ですが、本作では歴史に名を残す戦国武将の視点から描くことにより、史実の側からも物語に広がりをもたらしているのは一つの工夫と言うべきでしょう。
 我々の知る歴史の背後で、とてつもない超常の秘事が展開していくというのは、まさしく時代伝奇ものの醍醐味であり、本作はその醍醐味を感じさせる作品なのですが――

 正直に申し上げれば、過去2作に比べると、少々インパクトに欠ける、という印象は否めません。
 ○○○○による××復活というアイディア自体は面白い(特に○○○○が登場する時代ものはほとんど読んだことがない)のですが、そこで終わってしまい、スケール不足に感じられてしまうのです。
(更に言えば、ここまではSF的だったものが、終盤で突然ファンタジーになってしまうのも少々残念)

 もちろんこれは、前2作がスケールが大きすぎただけ、本作が第1作であればまた違った印象になったのだとは思いますが…
 史実への目配りがより進んだことが、逆に足かせになった…とまでは言うつもりはありませんが、一長一短、まことに勿体なく感じられたところです。鹿之介をはじめとする、登場人物たちも魅力的であっただけになおさら…


「鬼と三日月 山中鹿之介、参る!」(乾緑郎 朝日新聞出版) Amazon
鬼と三日月 山中鹿之介、参る!


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2013.06.17

「真・餓狼伝」第1巻 混沌の明治に餓狼現る

 明治37年、当時の日本武術界で日の出の勢いの講道館の猛者たちが、次々と何者かの襲撃を受けて倒された。姿なき敵を迎え撃つべく立ち上がった前田光世の前に現れたのは、不敵な少年・丹波文吉――光世と互角以上の戦いを繰り広げる文吉の正体は、その目的は…?

 連載開始以来、大いに気になる作品でありました格闘漫画「真・餓狼伝」の単行本第1巻がついに刊行されました。
 「餓狼伝」は言うまでもなく夢枕獏の代表作の一つであり、今なお継続中の大河格闘小説。原作を踏まえつつも独自路線を展開していた漫画版は数年前に中断しており、連載が始まった際は、タイトルを変えた続編かと思いきや――

 これが、時代を大きく遡り、明治時代を舞台とした格闘漫画だったのですから実に面白い。
 なるほど、「餓狼伝」においてもグレイシー柔術の祖たる明治時代の柔道家・前田光世の名は登場、その最期に関係したという謎の流派の存在がクローズアップされるなど、明治時代とは無縁というわけでもありません。
 そして何よりも原作者の夢枕獏には、勃興期にあった講道館の猛者たちを中心とした「東天の獅子」があります。当初の構想からすればいまだ序章である同作の構想が、「餓狼伝」の作品世界と繋がり、本作が生まれた――というのはもちろんこちらの勝手な想像ですが、明治時代と「餓狼伝」というのは、意外なようでいて、実はそれなりに理由のある組み合わせと言うべきでしょう。
(ちなみに時系列的には、本作は「東天の獅子」の少し後の時代に当たります)

 さて、その本作ですが、冒頭に登場するのがブラジルに渡った前田光世。その光世が、ガスタオン・グレイシーとその子・カルロスの前で柔道の冴えを見せる導入部から、光世が最も強かったと呼ぶ相手の存在を語る――というのは、定番ではありますが、やはり燃える展開。
 そしてその相手こそが、丹波文吉という名なのは、やはり「餓狼伝」読者としては色々な意味でテンションが上がります。

 「餓狼伝」の(一応)主人公の丹波文七と彼の関係はまだ不明ですが、道場破りに失敗して関節技に惨敗したり、実は単なる顔芸人だったり…ということもなく、この丹波文吉はまだ年若いながらも相当に強い。
 西郷四郎顔負けの身軽さに、講道館の猛者たちを上回る関節技、相手を確実に倒しに来る当て身(打撃)――物語開始早々に前田光世と対戦というのは、ある意味いきなりラスボスとぶつかったようなものですが、しかし一歩も引かず渡り合う姿は、なかなかに痛快であります。

 物語の方は、講道館ばかりを狙った野試合を挑む文吉と、その挑戦に応えた光世の激突だけでほとんど一巻費やしており、説明らしい説明はまだほとんどないのですが、それはそれで十分「餓狼伝」らしいですし、また殺伐とした空気を残した明治という時代らしい。

 文吉vs光世戦は、ようやく連載誌の方で決着がついた…と思ったらまだついていないのですが、この先本作がどんな方向に向かうのか――
 光世を上回る敵が登場するのか、「餓狼伝」本編との結び付きは、そして文吉の行方は…

 些か気が早いですが、それだけ先行きが楽しみな本作。何しろ社会そのものも、武術界の流れも混沌とした時代を舞台とするだけに、何が飛び出しても不思議はない、そしてどんどん飛び出させて欲しい、そんな作品なのであります。


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2013.06.16

「水滸伝 パーフェクトガイド 忠と義の108人」 ドラマに留まらない水滸伝ガイド

 ここのところ頻繁に水滸伝ネタを取り上げていて恐縮ですが、何しろ今年は数十年に一度くるかどうかの水滸伝関連商品ラッシュ。水滸伝ファンとして触れないわけにはいかない、というわけで、今日取り上げるのは「水滸伝 パーフェクトガイド 忠と義の108人」であります。

 これまでの不遇が嘘のように関連商品の発売、作品の発表が続く水滸伝ですが、その中心となっているのは、間違いなく現在CSで放送中の、そして今月からソフトの発売が開始されたドラマ版「水滸伝」の存在でしょう。
 このムックは、そのドラマ版「水滸伝」のムック――ではありますが、それだけに収まらない部分もあるのが面白い。
 何しろ、巻頭に掲載されたのは、中国武侠といえばこの方、の岡崎由美のコラムであり、続くインタビュー記事も、北方謙三や中村敦夫と、現在あるいはこれまで水滸伝に関わってきたビッグネームなのですから…
(個人的にはこのほかにも「女子読み「水滸伝」」の秋山久生の、身も蓋もない水滸伝賛歌が実に楽しかった)

 実際のところ、このお三方はドラマ版のことにはほとんど触れておらず、原典全般、あるいは自分が関わった水滸伝のことを述べているのですが、もちろんそれがつまらない訳はありません。水滸伝ファンとしては興味深い話ばかりで、ドラマ版に限らない様々な角度からの水滸伝本として、まずは楽しむことができます。


 と言いつつも、もちろん本書の中心はドラマ版「水滸伝」なわけで、そちらについても相当の充実ぶり。
 キャスト、スタッフインタビューというのは、この手のムックではまず定番かと思いますが、しかし中国ドラマでのそれが、しかも10名近く掲載されているのは相当に珍しいはず。それだけでも大いにありがたいところであります。
 そしてそれとは別に各キャラクター紹介あり、全86話の解説ありと、作品内容に関する記事ももちろん充実。

 そんな真面目な(?)記事がある一方で、「激闘名勝負!」と称して作中の名勝負10番を選び出すという往年の東宝東和の宣伝めいたコーナーあり、先に述べた全話解説にも、「よくわかる! 好漢たちの処世術」と称した各話の教訓が掲載されているなど、ある種肩の力を抜いた企画ものがあるのも、また楽しいのであります。


 ドラマ版の視聴者であればもちろん、そうでなくとも「水滸伝」ファンであればまず楽しめるであろう本書。
 ディープな水滸伝本はこれまでも無数に出ていますが、全ページカラーで気軽にパラパラと読める軽さも個人的には嬉しく、大袈裟でなしに、「水滸伝でこういう本が出るようになったか…」と感慨深く感じた次第であります。

「水滸伝 パーフェクトガイド 忠と義の108人」(日経BPムック)


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2013.06.15

「紳堂助教授の帝都怪異考」 魔道と人道の境を行く紳士探偵と助手

 最近はだいぶ少なくなってきた印象もありますが、ユニークな時代ものを数多く収録するメディアワークス文庫。一見外国人作家にしか見えない名前の作者による本作も、実にユニークな大正ものであります。

 本作の主人公(の一人)たる紳堂助教授は、その肩書き通り帝国大の助教授。整った容姿に洋装を一分の隙もなく着こなした、周囲の女性が放っておかないような――そして紳堂氏自身、そんな女性たちを放っておかない――美青年であります。
 しかしそんな彼には、この世のものならざる世界…すなわち魔道の世界通じるというもう一つの顔が。その才能を用い、時に警察の依頼を受けて、彼は難事件解決に颯爽と立ち上がるのであります。

 本作は、そんな紳堂助教授の華麗な活躍を、助手の篠崎アキヲ「少年」の視点から描く、4つの短編から構成されます。

 紳堂助教授が密室内で黒焦げとなって殺された青年の謎を解き明かす「香坂邸青年焼殺事件」、同じくわけありの関係の未亡人の依頼で妖が取り付いた絵に挑む「小石川怪画」、紳堂邸の掃除にやってきたアキヲが、屋敷に収蔵された奇怪な品の数々に振り回される「秘薬の効き目」、そしてアキヲと美少女・沙世の美しくも哀しい出会いと別れの物語「沙世」――

 その中でも、最もオカルトミステリとしての出来がよいのは、冒頭の「香坂邸青年焼殺事件」でありましょう。
 あり得べからざる焼殺事件の、その手段自体はあっさりと判明するのですが、しかし紳堂助教授の名探偵たる部分はその先、誰がそして何のために青年を殺したのかを、実証と推理を踏まえて丹念に解き明かしていく部分であります。
(そしてもう一つ、アキヲの特異な設定が生きてくる展開も楽しい)

 そこにあるのは、紳堂助教授の信念たる「魔道は人道」――どれほど人知を超えた力を発揮する魔道の技であっても、それを用いるのはあくまでも人間であるという想いの発露なのです。


 …が、実は紳堂助教授が名探偵らしく振る舞うのはこの第1作くらいで(そもそも探偵と呼ばれることを嫌がるのですが)、他の作品は、むしろそうした枠に収まらないというべきか、一種のキャラクターもの――紳堂助教授とアキヲのやりとり、関係性がメインとなっているという印象が強くあります。
 おそらくはそのためでしょう、実のところミステリとしても伝奇ものとしても、大正ものとしても食い足りない部分が生じているのは、何とも勿体なく感じられるのです。
(「魔道は人道」という言葉があまりにはまっているだけに…)

 しかしこれは、それだけ物語の展開を膨らませる余裕があるということなのかもしれません。
 事実、ラストの「沙世」などは、そんな本作であるからこそ生まれた佳品と言っても差し支えありますまい。外面と内面で二つの属性を行き来するアキヲと、完成された人間のようでいて、そのアキヲに対してのみゆらぎを見せる紳堂助教授と――沙世という少女の哀しい運命を描きつつも、その先に見えるのは、そんな二人の絆なのですから。


 幸い好評の様子で、来月には続編が登場する予定の本作。果たして次はどんな顔を見せてくれるのか、まずはその点を楽しみに待つこととしたいと思います。

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2013.06.14

「水滸伝」 第09話「大いに野猪林を騒がす」

 並行して林冲と魯智深の物語が描かれてきたドラマ版「水滸伝」。ようやく(?)林冲も流刑されることとなり…って、まだ林冲と魯智深が出会っていないのですが!? と思いきや、ある意味意外な形で二人は出会うこととなります。

 高キュウらの罠にはまり、死罪は免れたものの、北方(ほっぽう)の滄州に流刑されることとなった林冲。流刑地に出発する際に、町の人たちが見送りに来るのが彼の人望だと思いますが、林冲はその前で妻との離縁を宣言することになります。
 この辺り、自分のために妻を縛っておくことはできない、といういかにも林冲らしい生真面目さですが、それに悲しみつつも、最後に、バカのおかげで途中で終わった寺詣りの続きをしたいと願う奥方がいじらしい。

 そして、妻が一心に祈りを捧げる間に、静かに旅立つ林冲。もちろん奥方もそれをわかって、あえて背中を向けて祈っているわけですが、声なき慟哭の演技など見て、ああアニタ・ユン良い役者になったなあと思いつつしんみりしていたのですが…

 都を出る途中、林冲一行が通りかかったのが、魯智深の菜園前。折しもそこでは魯智深が破落戸相手に演武の真っ最中――と、それを目を爛々と耀かせて見つめ、興奮して声をかける林冲…ってあんた何やってんの!
 いや、あなた数分前まで、涙ながらに妻との別れを惜しんでいたのに、ちょっとすごい演武を見たらいきなりテンション上げてこの態度。しかも立ち会いまで望むとは、何たる武術バカぶりか…
 護送役人も当惑しておりましたが、こちらはむしろドン引きであります。

 とはいえ、ようやく出会った林冲と魯智深。原典では林冲が受難する前に出会い、親交を深めていた二人ですが、しかしこのドラマではこの場面が初対面。しかし、男と男の熱い魂が結びつくのに時間はいらぬ! とばかりにいきなり意気投合して(もっとも、二人は智真長老の兄弟弟子という前フリはあったわけですが)義兄弟になってしまうのは、実に武侠らしくてこれはこれでなかなかよろしいと思います。

 さて、魯智深に妻のことを頼んでようやく流刑の旅に出る林冲ですが、原典通り役人に熱湯コマーシャルさせられるなど散々いたぶられてすっかり弱った挙げ句、野猪林であわや命を奪われかけて…と、そこに颯爽と駆けつけるのはもちろん魯智深!
 お前、林冲の奥さんのことはどうしたと突っ込みたくもなりますが(というか林冲も突っ込んだ)、しかしこれはこれでなかなかに胸の空くような展開。それもそのはず、大昔から講談や舞台で長い間愛されてきた名場面なのですから…

 それはさておき、本作の魯智深は友達が少ないメルヘン坊主の分、気に入った相手には一途極まりない男。散々役人をぶちのめした後に強引に旅に同行してくるのには林冲も当惑を隠せませんが…というわけで次回に続きます。


 本来であれば2話分取り上げるつもりが、あまりの林冲の武術バカっぷりと魯智深のストーキングに驚いて1話分しか取り上げられませんでした…


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 「水滸伝」 第05話「拳にて鎮関西を打つ」/第06話「魯達 剃髪し文殊寺に入る」
 「水滸伝」 第07話「豹子頭 誤って白虎堂に入る」/第08話「逆さまに垂楊柳を抜く」

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2013.06.13

「燦 4 炎の刃」 現れた二つの力

 読本作家としてのデビューを目前としながらも、父の死によりいよいよ藩主の道を歩み始めた圭寿。なりゆきからそんな圭寿と、彼を守る伊月を見守る燦は、同族である版元から、闇神波なる一族の存在を聞かされる。一方、亡き兄の側室であった静門院と対面した圭寿だが、静門院は伊月に思わぬ言葉を…

 運命の荒波にもまれながらも懸命に生きんとする三人の少年の姿を描くあさのあつこの青春伝奇時代小説「燦」、久々の新刊であります。

 田鶴藩の(前)藩主の次男という身分ながら、読本作家になることを夢見る圭寿と、そんな彼の幼なじみにして守り役を務めてきた伊月。そしてかつて田鶴藩に一族を滅ぼされ、復讐のために藩主らの命を狙った燦。
 圭寿と伊月を追うように江戸に出た燦は、そこで圭寿と対面し、不思議な魅力を持つ彼と、友情ともなんともつかぬ不思議な関係で結ばれることとなります。

 本シリーズにおいては、そんな三人が巻き込まれた運命を描きますが、これがなかなかにややこしいのであります。
 燦にとっては仇の一族である圭寿を守る伊月は、なんと神波の血を引く、彼の双子の兄であり、しかも圭寿が原稿を持ち込んだ江戸の読本問屋の正体は、田鶴を離れた神波の生き残り。しかしその一方で、少しずつ、しかし確実に圭寿と伊月に姿無き魔手が迫り――

 というわけで、少年たちの青春の悩みと、お家騒動が平行して描かれるユニークな本作ですが、この第4巻において、ついに敵の正体(の一端)と思われるものが描かれることとなります。その名は闇神波!
 と、何やらメジャーなネーミング(?)ですがそれはさておき、彼らが神波の一族同様の異能を持つとすればそれは由々しき事態であり、そしてこれまで謎の敵が密かに、しかし確実に圭寿の周囲を脅かしていたというのもわかるというもの。そしてその魔手は、遠く田鶴においても…

 と、そんな直接的な「力」とともに少年たちに迫るのは、もう一つのより間接的な、しかしより恐ろしい「力」…女であります。
 急死した圭寿の兄に寵愛された側室・静門院。圭寿に目通りした彼女は、その直後、伊月を呼び出すのですが…彼女が妖艶な美女、そして毒婦と書けば、伊月を襲う危機の正体もおわかりでしょう。
(そして再び伊月にかけられるあの疑惑)


 というわけで、ようやく描かれた「敵」の存在。果たして二つの「力」に繋がりがあるのか、それはまだわかりませんが、しかしいずれにしても三人にとっては容易ならざる敵であることは間違いありますまい。

 …が、読者にとって一番の難敵は、正直に申し上げれば一作あたりの分量の少なさでしょう。
 文春文庫の大きめの活字で200ページというのは、他の文庫書きおろし時代小説の7割~半分くらいの体感で、前作までの内容を思い出し、本作の新たな事件に馴染んできたところで続く、という印象なのであります。

 この辺りは作者の計算の上なのかもしれませんが、やはり「食い足りない」というのが第一印象。
 特に今回は、色々と心配な事件が起きたところで引きなのでなおさら…というのは、やはり作者の掌の上で転がされているのでしょうね。

「燦 4 炎の刃」(あさのあつこ 文春文庫) Amazon
燦 4 炎の刃 (文春文庫)


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2013.06.12

「浣花洗剣録」第26集 明かされた秘密と新たなる謎!

 いよいよ全体の三分の二まで来た「浣花洗剣録」。正派と魔教の決戦もあっさり決着が着いた(?)と思えば、驚くべき秘密の一つ(二つ?)が明かされ、そして更なる謎の存在が語られて、ある意味ターニングポイントと呼べる印象です。

 正派と魔教の――実質は王巓一派と白水宮の――決戦の末に敗走した魔教側。候風の侍女二人と史都将軍が命を落とし、呼延大臧は崖から転落、木郎神君も行方不明となり、残るは候風と白水聖母、奔月と脱塵郡主のみ。
 と、生き残った四人は毒ガスで守られた沈香谷なる秘境に逃れるのですが、しかし谷には出口はなく…という状況で白水聖母に八つ当たりを始める候風。

 お前が戦いを始めたお陰で侍女たちが死んだと、今更言い出す候風ですが、その戦いで聖母についたのは、白艶燭にストーキング続けてたアンタのせいでは…と視聴者全員が突っ込んだかと思いますが、やはり聖母自ら突っ込み入れて、売り言葉に買い言葉でさらに険悪なムードになってしまうのでした。
 という状況であっさり毒ガスの解毒薬を見つけて再び攻め込んできた正派。混乱の中で奔月と脱塵は谷の先の砂漠に迷い込み、そして候風と聖母は二人で逃れ――あ、これは普通だったら二人がいい仲になるパターンでは…と思っていたら、ついに白艶燭の行方を、すなわち自らの正体を聖母は語り始めます。

 ヴェールを外し、顔を覆っていた薄い変装をはぎ取り――あ、単に目張りを入れて顔にラメいれてたわけじゃなくて、マスクを付けて変装していた(という設定だった)のか! 単に候風の目が腐っていたわけではなかったのか、と得心しましたが、驚いたのは候風。懐かしいような、気まずいような顔を見せますが…

 さて、結局メインどころは全員取り逃がした正派の面々ですが、配下は食料の略奪を始めるし、何よりも騒いでいて朝廷に目をつけられたら怖いし…と言い出したのは李子原(あの、やたら背が高くて息子が珠児に絡んで大臧に殺された人)。
 ヘタレに見えて、実はこの人が一番正しいことを言っているというのは皮肉ですが、それを知ってか知らずしてか王巓もその言を入れ、撤退することに…火魔神を後に残して。
 適当に持ち上げられながらも後に残された火魔神と配下はやる気をなくして見張りそっちのけで宴会を始め、その隙に候風と聖母は外に逃れるのでありました。

 そして逃れたといえば、いつの間にか逃れて町を平然と歩いていた木郎は、何やら怪しい符牒を受け取ると向かった先は…なんと青萍山荘。そこで彼を待っていたのは、もちろん山荘の主にして死を装って一連の事件の背後で糸を引いていた白三空であります。そして、ここで明かされるこれまでで最大の秘密――

 実は木郎こそは朝廷の秘密警察・錦衣衛の精鋭。そしてその目的は白三空と同じ、武林の壊滅…もっとも今この時まで、互いの正体を知らず、木郎は白三空が生きていたことに驚き、白三空は木郎が錦衣衛であったことに驚くというちょっと可笑しい状況だったのですが、それはさておき。
 実は木郎は木郎神君本人ではなく、本人に化けていた別人の模様。なるほど、そういえば初期に青木堡の残党とあえて距離を置く描写がありましたが、それは正体がバレることを恐れてでありましたか。しかし同時に、青木堡の堡主とも無縁ではないと、謎めいた言葉も残しているのですが…

 そして木郎が白三空に伝えた朝廷の命令は、幻の城・羅亜古城を探せというこれまた謎めいたもの。白三空すら存在を疑う羅亜古城とは…古龍作品にはしばしば謎の秘境が登場しますが、そういった類でしょうか。
 「厳様」なる存在に仕えているらしい木郎は、そこに武芸者を集めて一気に殲滅するよう、白三空に命じるのですが…「これが最後の指令」という言葉に、さり気なく白三空の死亡フラグが立っているようで心配です。

 さて、そんな密談が行われていたとも知らず山荘に帰ってきたのは、主人公の一人なのに前回出番のなかった白宝玉。仏堂に詣でた彼は、隠れていた木郎に早速気付いて誰何するのですが、さすがに木郎は口が回る。
 以前に父とともに山荘を訪れ、白三空に稽古をつけてもらったなどとでまかせを並べて、宝玉を信用させたかに見えたのですが――
 しかしそこに何を感じ取ったか、その後木郎と飲み明かした宝玉は、木郎としてもいない約束をしたと言って彼に同行しようとするのですが、さてこれがどう事態に絡むのか。

 冒頭に述べたように、正派と魔教の戦いは一端終わったように見えますが、しかし残り三分の一で何が描かれるのか…主人公側のキャラクターは敗北の末に全員散り散りとなり、物語の先は全く見えませんが、しかしそれだからこそ楽しみな状況ではあります。


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『浣花洗剣録(かんかせんけんろく)』DVD-BOX


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 「浣花洗剣録」登場人物&感想リスト

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2013.06.11

「戦国SAGA 風魔風神伝」第3巻 風魔、真の戦いへ

 宮本昌孝の「風魔」の漫画化、「戦国SAGA 風魔風神伝」の単行本3巻が登場であります。これまで秀吉の小田原征伐に対して独自の戦いを繰り広げる風魔の姿が描かれてきましたが、この巻ではついに戦いが終結。新たに生まれ変わりつつある関東において、風魔たちの新たな戦いが始まることとなります。

 秀吉の号令の下、20万人を超える圧倒的な数の軍勢が北条氏を攻めることとなった小田原攻め。当然、主家たる北条家を守るために風魔は様々な形で抗戦を試みるのですが、様々な強敵の存在に加えて不運も重なり、その試みは悉く失敗。そればかりか、小太郎も捕らわれてしまい、その間に小太郎の父も風魔の裏切り者・湛光風車に討たれ、風魔のうちかなりの人数は湛光風車につくことに…
 しかし小太郎は、風魔は決して孤独ではありません。辛うじて脱出した小太郎が、北条家を救う最後の策として頼ったのは――

 というところで始まる第3巻で久々に登場するのは、物語の冒頭に登場した氏姫。
 第5代の古河公方足利家と北条家、両方の血を引く彼女は、小太郎にとって唯一の主君たるべき存在であり、姫にとっても小太郎は頼むべき柱とも言うべき存在。
 その彼女が果たしてこの局面でどのような力を持つのか…? 原作でもこの辺りの展開には感心いたしましたが、今回ビジュアライズされたそれは、それ以上に感動的。小太郎の心意気も嬉しく、まず名シーンと言えるのではないでしょうか。

 さて、第2巻の感想でも触れましたが、実は本作はこれからが本編とも言うべき部分。主家が滅んだ風魔が、小太郎が、どのような道を歩むのか? それこそが、本作の中心となるべき部分であります。
 北条家の滅亡により、天下は秀吉の下でひとまず統一されたものの、それで戦国という時代が終わったわけではないことは、歴史が証明する通り。そんな混沌とした状況の中で、小太郎と風魔が、自分たちの自由のために戦う姿が、この先描かれることとなります。

 そして――この戦いの中で小太郎が見せる大暴れが実に素晴らしい。
 ことあるごとに言っているような気がしますが、作画を担当するかわのいちろうは、当代屈指のアクション時代劇の描き手。スピードと、威力を感じさせるアクションを――それも画として明確にわかりやすく――描かせたら相当のものを持つ作者ですが、小太郎という一種独特のキャラクターのアクションを描くに、これだけの適任はおりますまい。

 何しろ小太郎のパワーは桁違い。氏姫を守るために座敷の床をぶち抜いて登場し、城攻めでは門扉ごと外して突入路を作り、狭い室内の戦いでは壁ごと引っぺがして空間を作り――
 作中で彼に城攻めを助けられた佐竹義重の「痛快! 痛快! ウワサには聞いていたがまさに破格の男よ」という言葉が、全てを表していると言ってもよいでしょう。
 そしてその暴れっぷりを、破格は破格のまま、しかし説得力十分に――そしてもう一つ、宮本作品には不可欠である「爽やかさ」を保ちつつ――描けるのはかわのいちろうならでは。原作ファンとしても、大いに満足であります。

 そしてその画の力を以て、この先の小太郎の戦いをいかに描いていくのか…この先も何とも楽しみなのです。

「戦国SAGA 風魔風神伝」第3巻(かわのいちろう&宮本昌孝他 小学館クリエイティブヒーローズコミックス) Amazon
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 「戦国SAGA 風魔風神伝」第2巻 風雲急の風神伝序章

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2013.06.10

「小説 仮面ライダー響鬼」(その2) 継承する英雄

 前回の続き、「仮面ライダー響鬼」と「変身忍者嵐」の夢のクロスオーバー、小説版「仮面ライダー響鬼」の紹介であります。

 しかし、楽しめるのは、「十三人の嵐」、さらにラスボスの名前やエピローグに登場する彼など、マニアックなくすぐりの部分だけではありません。

 個人的に何よりも嬉しかったのは、本作におけるヒビキのキャラクター造形であります。上で述べた通り、本作のヒビキは、TV版の「大人」のヒビキではなく、自分の往くべき道にまだ悩んでいる、未完成な人物という設定。
 孤児として里に拾われ、ある意味成り行きで「鬼」となった彼が、何のために戦うのかという問いかけを突きつけられ(それを、元は人間である化身忍者との戦いの中で突きつけられるというのが心憎い)、いわば先輩ヒーローたるハヤテとの対峙の中でそれを自覚していくシーンが、本作の肝でありましょう。

 個人的には、TV版のヒビキが(そして「鬼」という存在が)既に人間として、そしてヒーローとして完成したキャラクターであった点に、個人的には不満があったのですが――もちろんそこは成長担当のキャラがいたとはいえ――なるほどその部分をこう補ってきたか、と大いに納得であります。
(更に言えば、一種の修行万能論へのアンチテーゼ的なものが、前半のメインライターにより描かれたことも強く印象に残ります)

 そしてまた終盤に至り、本作が時代劇として――すなわち、過去の時代を舞台として――描く(「嵐」とのコラボ以外の、もう一つの)理由が示されることとなります。
 それは受け継がれる魂の存在を描き出すこと。物語の根幹となる部分ゆえ、ここで詳細には触れませんが、ハヤテとヒビキを結ぶ運命が、ヒーローの魂の継承として鮮やかに昇華し、そしてそれが後々にまで繋がっていくという結末は、(やや強引な部分はあれど)美しいと言うほかありますまい。

 「鬼」が長い歴史を持つ存在として描かれ、そしてTV版の中で師匠と弟子の関係が大きな意味を持ってきたように、「継承」が大きな要素となっていた「響鬼」。
 それをより大きなスケールで、過去から現代に繋がる魂の存在を描くための時代劇であったかと、大いに納得いたしました。


 「響鬼」と「嵐」のクロスオーバーという派手な要素だけでなく、両作品を補い、より深化させてみせた本作――
 実を言えば、私は「響鬼」という作品のあまり良いファンであるとは言えませんが、しかしそれでも本作は、控えめに言ったとしても、原作ファンも安心して楽しめる作品ではないかと感じます。そしてもちろん「嵐」ファンは言うまでもなく!(個人的には、最初に「嵐」と聞いた時、絶対漫画版の方だろうと思っただけに、きっちりとTV版で来てくれたのが実に嬉しい。しかも、漫画版の魂も随所に感じさせつつ…)


「小説 仮面ライダー響鬼」(きだつよし 講談社キャラクター文庫) Amazon
小説 仮面ライダー響鬼 (講談社キャラクター文庫)


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2013.06.09

「小説 仮面ライダー響鬼」(その1) 競演! 響鬼と嵐!!

 江戸時代、吉野に隠れ住む「鬼」たちの里は、かつて里の住人だった男が生み出した血車党の化身忍者が、再び世を騒がそうとしていると知る。その探索に送り出されたヒビキは、その最中に、鷹のような異形に変身する忍者ハヤテと出会う。彼こそはかつて血車党を滅ぼした変身忍者嵐だった…!

 現在、講談社キャラクター文庫では、いわゆる「平成仮面ライダー」の小説版を、一作品につき一冊ずつ刊行しています。が、基本的に私の興味の範疇外であったはずのこのシリーズの一冊、「仮面ライダー響鬼」の小説版が、江戸時代を舞台にした内容、それもあの「変身忍者嵐」とのクロスオーバーとくれば、黙っているわけにはいきません。

 もともと「響鬼」は、「嵐」とは縁深い作品。もともと「仮面ライダー」ではなく「嵐」モチーフの作品として作られていたという話もあるようですし、劇場版の敵「血狂魔党」は「嵐」の血車党モチーフ、さらにTV本編にも「嵐」そっくりの「鬼の鎧」なるアイテムも登場したのですから…

 さて、そんな関係の両作品をベースとした本作は、「嵐」の後日譚であり、TV版「響鬼」の遙か過去の物語として設定されています。(わざわざTV版とつけたのは、劇場版とは鬼に関する設定で平仄が合わない部分があるため。個人的には劇場版の鬼の扱いも気に入っていたのですが…それはさておき)

 平安時代、都を魔化魍から守るために生まれた「鬼」たちは、その後の武士が力を持つにつれ都を追われ、吉野の山中に潜んで朝廷のために力を磨く生活を続けていた…という設定自体なかなか刺激的ですが、そこに「嵐」の世界観が飛び込んでくるのですから面白い。物語が開幕するやいなや、魔化魍に追い詰められたタツマキを助けるのがヒビキ…という時点で、こちらのテンションも大いに上がります。

 このタツマキが鬼の里を訪れたのは、かつて里の住人だった谷の鬼十(!)が生み出した血車党の化身忍者が再び暗躍を始めたため。鍛えても鬼になれなかった鬼十が、自分なりに力を得る手段として編み出したのが化身忍者の法…という、その手があったか! 的なクロスオーバーであります。
 そしてその探索役に選ばれたのが、若き鬼であるヒビキとサキ。鬼十の研究所跡を調べていた二人は、そこで誤解からハヤテと激突、響鬼と嵐、共に音の力で変身する二人のヒーローの対決が始まることとなります。
(もちろん、駆けつけたタツマキのおかげですぐに誤解は解けるのですが)

 ここで描かれるヒビキは、もちろんTV版とは別人で、飄々とした部分は共通するものの、自分のアイデンティティーに悩む、より若いキャラクターという印象。一方のハヤテは、生真面目で礼儀正しい、あのTV版のハヤテであります。
 そんなある意味好対照の二人が、時に協力し、時にぶつかり合いながら強大な共通の敵を向こうに回して戦う…というのは、ある意味定番展開ではありますが、しかし「響鬼」の前日譚として、そして「嵐」の後日譚として、押さえるべきところは押さえ、踏み込むべきところは踏み込んでいるのが実に嬉しいです。
 個人的には最近の映像での(劇場版での)クロスオーバーがあまり好きになれないだけに、本作のようにある意味生真面目に元ネタを扱ってくれただけでも、大いに好感が持てます。
(ただし本作、血車党壊滅後という設定ながらハヤテが嵐に変身できたり、ガンビームを使わないところを見ると、西洋妖怪編以降は存在しない設定のようで、ちょっとややこしいのですが…)

 長くなるので次回に続きます。


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小説 仮面ライダー響鬼 (講談社キャラクター文庫)


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2013.06.08

「殿といっしょ」第8巻 殿は時空を超えて

 紹介するのは久々な気もいたしますが、戦国4コマギャグ漫画「殿といっしょ」の最新巻であります。気がつけば2度のアニメ化に、昨年は舞台化までされた本作ですが、原作の方は、良い意味で通常運転。今回も新キャラが何人か登場して、相変わらず賑やかな内容です。

 さて、その新キャラとは、主立ったところで「愛姫」「森勝蔵」「一条兼定」「藤堂高虎・遠藤直経・磯野員昌」といった面々。相変わらずメジャーどころからマイナーどころまで、幅広く投入してくる本作ですが、今回は比較的マイナー…と言っては怒られるかもしれませんが、なるほど、ここに目を付けてきたか、というチョイスであります(特にいきなり登場した浅井家臣トリオ)。

 他の戦国ギャグ漫画と異なる本作ならではの特長は、単一の時代を、時系列に沿って描くのではなく、その時々によって、時間と空間を超えてメインとなる「殿」が変わっていくことでありましょう。
 もちろん、ある程度はメインとなる時代・時期はあるものの、それに全く固定されることなく、自由にネタ(史実)とキャラクターを投入できるのは、本作の大きな強みでしょう。

 何しろ数々の戦国ものゲームを見ればわかるように、いまや戦国武将ものはキャラクターものの一種とも言える…というのはさすがに牽強付会かもしれませんが、武将一人一人に一定数のファンがいる状況。そこに本作のようなスタイルは、うまくマッチしているのではないか…と感じるところです(もちろん描き手の側としても)。

 とはいえ、さすがにそろそろややこしくなってきたかな…というのも正直なところ。扱う時代と場所があまりに増えてくると、ギャグとはいえ、一体(その四コマで)舞台となっているがいつでどこなのか、だいぶガチャガチャしてきた印象は否めません。
 特に今回は、これまで関ヶ原後に顔を出していた真田昌幸の、天正期の姿が描かれるエピソードも登場するため、さらにややこしくなっている感があります。

 あれ、織田と浅井・朝倉の戦は、作中でどこまで進んでいたんだっけ? 姉川の戦は終わってなかったけ? それなのに何故遠藤直経がいるの? などと混乱してしまったのは、これは私が悪いのですが…
(正解は、この8巻の時点で金ヶ崎の戦いの後、姉川の戦の前なので、遠藤直経が生きていておかしくないですね)


 というのは中途半端な(そして記憶力の悪い)マニアのたわごと、やはり何も考えずに、次々と繰り出されるギャグを楽しむのが、正しいスタイルでありましょう。
 最初期からの人気キャラである伊達政宗が、周囲の空気を――戦国末期の時代の流れを――全く頓着せずにマイペースで振る舞っているように、こちらもマイペースで、変わらぬ「殿」たちのボケっぷりを楽しませていただきます。

 と、そんな政宗も今回はマイペースどころではなかったのですが――難儀な女性が多いな、彼の周囲も。


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2013.06.07

「水滸伝 WARRIORS FROM THE WATER MARGIN」 激突! 武芸大会5vs5

 百八人の英雄豪傑が集まり、向かうところ敵なしとなった梁山泊。その勢力を恐れる高キュウは、武術大会の名目で梁山泊の主立った面々を都に呼び寄せ、抹殺することを目論む。行けば死の罠、行かねば天下の笑いもの――宋江は武術大会への参加を決断、燕青ら五人の代表が選ばれるのだが!?

 1983年に中国で製作され、日本では1984年に日本ヘラルドの配給で公開された水滸伝映画であります。私は劇場公開時に見たのですが、その後本作今に至るまで日本でDVDされておらず、見たい見たいと思い続けていたものが、ようやく海外版DVD(何故か日本語字幕付き)で発売されているのを見つけ、今回約30年ぶりに見直すことができました。

 さて、本作の最大の特徴は、そのストーリーでありましょう。
 時間が限られており、原典の全てを映像化するわけにはいかない映画や舞台の場合、原作の一部分を取り出して映像化するのはむしろ当然。それが他の作品では、林冲の受難であったり、盧俊義の仲間入りであったりするのですが、本作が題材としたのは、原典第74回の泰山奉納相撲のエピソードなのです。

 このエピソードは、梁山泊に百八人が集った直後、梁山泊が宋に帰順する前の時期に、梁山泊から外に出かけた燕青(と李逵)が、泰山の奉納相撲に参加、二年間不敗だった任原を倒して大暴れ、という内容。
 簡単に言ってしまえば燕青というキャラクターの一挿話なのですが、これを本作はアレンジして、梁山泊vs宋の5vs5の武術大会にしてしまうのですから驚かされます。

 なるほど先に述べたように、この時期は百八人が一人も欠けずに梁山泊に集っていた、ある意味一番おいしい時期。
 そこに目を付けたのはさすがと言うべきかもしれませんが、しかし5vs5バトルというのは、コロンブスの卵というか何というか…
 かくて、燕青・石秀・武松・魯智深・史進という代表選手が、任原ら5人の格闘家(任原以外はオリキャラ)と対決するという、東映まんが祭りチックな特別篇となったのであります。

(ちなみにその他の好漢は宋江と時遷がメインどころとして登場するほか、脇役に戴宗・呉用・盧俊義・李逵・扈三娘ときて、エンドクレジットでは花栄、阮小二、阮小七、関勝、索超、周通、徐寧、秦明の名前があるのですが、正直なところ映像では判別ほとんど不可能)


 そんな本作ですが、作りは30年前ということを差し引いても相当安いというのが正直なところ。セットやコスチュームなどは、きょうびの武侠ドラマの方が凝ったものに見えます。
 物語の方も、途中で宋江が高キュウ方に攫われて人質になったり(やっぱりこういう役回りか…)、高キュウを親の仇と付け狙う本作オリジナルのヒロインが登場したり、宋江たちの留守に官軍が梁山泊を攻めたりと、それなりの起伏はあるようでいて、基本的にはひたすら戦っているだけで、それほど面白いものではありません。
(水滸伝オタとしては、高キュウに今回の作戦を献策したのが王瑾というのに、ちょっと驚きましたが)
 出演者も、実際の武術家を多数動員…ということは、演技面はあまり期待できないわけで――

 が、しかし、その分格闘シーンは、なかなか、いやかなり素晴らしい。
 本作の見せ場はこれ、いやこれしか見せるものはない! とばかりに次から次へと繰り出される格闘シーンは、技の性質上一発で勝負がつくものではないだけに、延々と殴る! 蹴る! の繰り返しで、一歩間違えるとダレかねないところを、動きのキレでカバーしている印象。

 特に武術大会の第3試合、武松が見せる酔拳の連続技は、ほとんど格闘ゲームのコンボの如き繋がり方で、「こういう形で繋がっていくのか…」ともはや感心するほかありません。
 ちなみにこの武松の酔拳、それまで宋江が人質に取られて八百長を強いられていたところに、宋江が救出されたのを知って一転攻勢に出るシーンで披露されるもので、初見時の痛快な印象は、今回見ても変わりませんでした。


 何はともあれ、映像化された水滸伝の中ではそれなりにレアな部類に入るものであり、よほどのファンでもない限りおすすめはいたしませんが、しかし水滸伝という作品の可能性としては、なかなかに興味深いものがある本作。
 ある意味私の水滸伝好きの原点…というと真面目なファンには白い眼で見られそうですが、こういう切り口もある、ということは忘れてはいけないと思います。…いや、私が覚えておくのでよいです。


「水滸伝 WARRIORS FROM THE WATER MARGIN」(Rarescope DVDソフト)


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2013.06.06

「たたり岩 もののけ侍伝々」 最大のクライマックス、しかし…

 今日も今日とて江戸で呑気に暮らしていたところに、怪事の解決を命じられた京嵐寺平太郎。旗本の跡取り息子に出来た瘤から地獄の鬼を何とか倒した平太郎だが、事件の陰には宿敵の怪僧・巌道の姿があった。復讐のため、平太郎の故郷・三次を滅ぼそうとする巌道により、地獄の蓋が開く…

 妖怪を断つ太刀・茶丸を持ち、妖怪大将・樋熊長政ら大妖怪を友とする若侍・京嵐寺平太郎の活躍を描く妖怪時代小説「もののけ侍伝々」シリーズの第3弾であります。
 以前、静山社文庫にて2巻まで刊行されていたシリーズが、この3月から角川文庫に移籍。2巻までが再刊され、その次に書き下ろしで登場した、堂々の新作です。

 基本的にやる気のない(しかし妖怪退治の勇者と周囲からは思われている)平太郎と、妖怪大将を名乗りながらてんでいくじなしの樋熊長政を筆頭とした呑気な妖怪たちが、周囲から命じられて嫌々ながら凶悪な妖怪たちと戦うというギャップが最大の魅力であるシリーズ。
 本作では、これまで同様全4話の前半2話「猫の怪」「能面の怪」は、市井の怪事件が描かれ、登場する妖怪も小粒なのですが、後半2話(正確には最終話)は、スケール的にこれまでで最大のクライマックスと言うべき内容で、大いに盛り上がるべき展開であります。(が…)

 まず第3話「地獄絵図」では、手の付けられない悪たれである、さる旗本家の幼い跡取り息子の体中に幾多の瘤が生まれるという怪事が描かれるのですが――その正体が何とも意外。奇怪な妖力を込められた地獄絵図を見せられたことで生じたその瘤は、子供が悪いことをするたびに膨らみ、やがて弾けて地獄の鬼を生み出すのですから――

 そして最終話にして表題作「たたり岩」では、この事件の陰で糸を引いていた宿敵・巌道が、次々と企みを打ち砕いてきた平太郎への復讐のため、三次の町を襲撃することになるのですが――ここで本シリーズのモチーフである「稲生物怪録」がクローズアップされることになります。
 魔所・比熊山に肝試しに行った少年・平太郎の屋敷に怪事が相次ぎ、根比べに勝った平太郎の前に大妖怪・山本五郎左衛門が現れ、その勇気を讃えられるというその内容は、本シリーズでは平太郎と樋熊長政の関係に落とし込まれているものと思ってきました。

 しかし本作においては、樋熊長政とは別の、遙かに格上の存在が三次の山に封印されていることが判明(それも、山本五郎左衛門と対立するという神野悪五郎をモチーフにした存在なのが面白い)。
 最終話では、この魔王の力を得た巌道により、三次に地獄の鬼たちが横行、人々を次々と襲っていくという展開に。これに対して、平太郎も妹の真娯萌や天狗たちとともに立ち向かうのですが…


 が、これが今ひとつ盛り上がらない。
 これまでこのシリーズを取り上げた際に触れてきた温度の低い文章が、ここでも(これまで以上に)足を引っ張っている印象があります。
 シチュエーションだけみればクライマックスに相応しい展開なのですが、しかし淡々とした説明口調の地の文がそのテンションを大いに引き下げる。用意されたイベントを淡々とこなしていく印象で、何とも盛り上がらないのであります。
 平太郎の妹をはじめ、新キャラクターの描写も今ひとつ魅力が感じられず、いや、これは本当にもったいないとしか言いようがありません。

 正直なところ、移籍によってこれまで不満であった点が解消されることを期待していたのですが、ほとんど全く変わらないまま、と言うべきでしょうか。
 シリーズはこの先も続くようですが、妖怪時代小説ものも過当競争となってきたいま、さらなるパワーアップが必要ではありますまいか。


「たたり岩 もののけ侍伝々」(佐々木裕一 角川文庫)Amazon
もののけ侍伝々3  たたり岩 (角川文庫)


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2013.06.05

「浣花洗剣録」第25集 正邪決戦開始…いきなり勝負あった?

 本当に呆れるくらいに間が空いてしまい恐縮なのですが、久々の「浣花洗剣録」感想であります。武林を二分する正派と魔教の戦いもいよいよ正面衝突。ほとんど望まぬままにそこに巻き込まれた主人公たちの運命は…

 武林制覇を狙う白三空と王巓の陰謀により少林派と武当派はその勢力を大幅に減じ、さらに呼延大臧と白宝玉の決闘のどさくさの間に、正派の頭首にまでのし上がった王巓は、白水聖母率いる魔教・五行教を攻め滅ぼさんと企みます。
 もっとも、微妙に…どころではなく考えに溝がある王巓と白三空。王巓が単純に権力と名声を求めているのに対し、白三空は武林に大乱を起こして、武芸者を全滅させようとしているのですから、むしろ手を組んでいる方が不思議なのですが、まずは魔教を滅ぼすまでは…ということなのでしょう。

 その野望に巻き込まれた魔教側は、火魔神が裏切り、戦力的には明らかに劣勢。白水聖母は先代の聖母の亡骸に祈り、奔月は母のように慕うようになった聖母への加勢を決意し…そして候風は、奔月のためにやむなく…というより、愛する白艶燭の行方を知る聖母をまもるために加勢することになります(といいだけでもかなりどうしようもない感じの候風ですが、聖母=艶燭と気づかないのがさらに…)
 そして若人側では、木郎神君と脱塵郡主は、死闘を前になんだか新婚初夜のような感じに…ひとんちまできて。一方、恋人と引き離された大臧君はほとんど出番なし。

 そしてついに始まる決戦。火魔神の案内で一気に白水宮に乗り込んできた正派側に対し、魔教側は身を隠して待ち受け、水中から毒蛇を放つという奇策で正派の戦力を削ぎにかかります。その混乱に乗じて始まる乱戦――魔教側は、個々の戦力は達人クラスですが、しかしいかんせん多勢に無勢。奔月を助けるために、候風のアシスタントのお姉さん×2が犠牲に…

 と、そこに援軍を連れて駆けつけたのは、史都将軍であります。いつも脱塵を見守って、ピンチの時に現れるワイシャツ将軍の出番だ! と思いきや、こちらも出番を待っていた白三空のマップ兵器のような琴攻撃で援軍いきなり全滅。
 形勢不利と見て撤退する魔教側ですが、ここで木郎が、相手の攻撃をかわすふりをしながら、相手の武器で、隣で戦っている史都将軍を一撃! …さすがにこの展開は予想外でしたが、確かに木郎は、錦衣衛と接触するなど実にうさんくさい人物ではあります。脱塵への想いは本物ではないかと思いますが、史都将軍は木郎に疑いの目を向けていたこともあり――いや、惜しい人を亡くしました。

 などとやっている間に魔教側で生き残ったのは白水聖母と候風、奔月、脱塵のみ。大臧はなぜか白水宮の外に逃げた末に追いつめられ、いつもの崖からスタイリッシュに投身――まあ、誰かが拾ってくれると思いますが。木郎も逃げ延びたとのことで、メインキャラはほぼ残ったものの、もはや彼らの命も風前の灯火としか言いようがありません。

 それでも秘密の抜け穴から沈香谷なる禁断の地に逃げ込んだ聖母たち。毒ガスが吹き出すこの地を、ガスを中和するという葉を口にして通り抜けた一行ですが、さてここからどこに行こうというのか。
 そして、王巓たちがこのまま引き下がるはずもなく…いよいよ状況は混沌とするばかり。残り約三分の一、果たして誰が滅び、誰が生き残るのか――今が一番重苦しい時と思いたいところです。


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2013.06.04

「くるすの残光 いえす再臨」 激突する神の子と神の子

 植木職人の親方たちと伊達家の招きで仙台城を訪れた寅太郎。そこでは、木々が原因不明のまま生命力を失っていた。折しも陸奥ではでうすの生まれ変わりを称する少年が、陸奥の切支丹を扇動して乱を起こそうとしていた。さらにそこに幕府の宗門改め方・閻羅衆も加わり、三つ巴の激戦が始まる。

 来月にはシリーズ第1弾の文庫化も予定されている仁木英之の時代伝奇活劇「くるすの残光」シリーズの第3弾であります。
 島原の乱に生き残り、天草四郎の遺志と力を受け継いで江戸に潜伏する寅太郎たち異能の聖騎士。前作は九州で甦った立花宗茂と死闘を繰り広げた寅太郎たちですが、本作では陸奥で同じ切支丹たちと激突することとなります。

 島原の乱で幕府に奪われた四郎の7つの聖遺物を求めて戦い続ける寅太郎たち。これまでの戦いで2つの聖遺物を取り戻したものの、いまだその力を発揮できずにいる彼らの耳に、陸奥で起きているという異変が届きます。

 かつて製鉄を生業とする切支丹の山の民が数多く迎えられた仙台藩。しかし政宗の没後、幕府の顔色をうかがうようになった伊達家は切支丹の弾圧を強め、陸奥の切支丹は滅んだかに思われたのですが――
 そこに突然、切支丹の大軍を率いて現れた少年・一起。でうすの生まれ変わりを称し、かつての四郎を思わせる奇蹟の力で切支丹の残党を糾合した彼は、仙台城を攻めんと南下を開始したのであります。
 折しも、寅太郎は養父らと植木職人として、突如生命力を失い始めた仙台城の木々を手入れするために、そして聖騎士の一人・人形師の佐七も伊達家の姫君に人形を造るために、仙台に向かうことに。

 そして幕府の対切支丹特殊部隊ともいうべき閻羅衆も北上し、ここに切支丹vs切支丹、切支丹vs幕府の死闘が始まることとなります。

 伝奇時代劇の枠の中に、能力バトルのテイストを投入したのが本シリーズの魅力の一つですが、その点は、本作でももちろん健在、いや一層増した感があります。
 草木の声を聞き、植物を自在に成長させる寅太郎。自分の娘を模した人形を、あたかも生きているかのように自在に操る佐七――並みの侍・忍者では相手にならぬ彼らの異能。しかし本作において彼らの前に立ち塞がるのは、彼らと同種の力、いやそれどころか、彼らと同じ切支丹なのですから、これは盛り上がる展開であります。

 実のところ、シリーズのこれまでの作品においても、寅太郎たちの前に立ち塞がる異能者は、四郎が遺した、先に述べたとおり彼らが求める聖遺物の力を用いたものであり、その意味では、同種の力を用いる敵というのは初めてではありません。
 しかしこれまでの敵が、元々敵であった者が聖遺物を与えられたのに対し、本作で対決することとなるのは同じ切支丹であり、本来であれば敵対するはずのない、いや、共に手を携えるべきものであるのが、注目すべき点でありましょう。

 本来であれば、神の名の下に平等であるはずのキリスト教。しかしその同じ教えを奉じる者同士、しかも幕府に弾圧される者同士が激突する悲劇は、かつて切支丹だった閻羅衆の長の視点を加えることにより、むしろ皮肉な色彩すら加えて描き出されるのであります。

 …が、個人的に非常に残念であったのは、同類と戦ってまでも寅太郎たちが貫こうとする、彼らにとっての大義――すなわち天草四郎の存在と教えが今ひとつ具体的に描かれず、それゆえ、寅太郎たちの主張に説得力が感じられない点であります。
(勝てない戦を、数多くの民の死を避けるべき、ということは、島原の乱を起こした側が言っても説得力がないわけで…)

 これまでも本シリーズにおいて中心にあるべき存在でありつつも、その具体的な姿については描かれてこなかった感のある天草四郎。
 おそらくそれは意図的なものであったかとは思いますし、これまでは物語の展開上あまり気になることはなかったのですが――しかし本作のような内容であれば、四郎の存在を、寅太郎たちにとっての信仰の意味を、より明確に描くべきでなかったのでしょうか。

 この辺りは、寅太郎たちが聖遺物を使いこなせない謎も含めて、今後描かれていくべきものかとは思いますが、シリーズももう3巻。そろそろ踏み込んでいただきたい部分ではあります。


「くるすの残光 いえす再臨」(仁木英之 祥伝社) Amazon
くるすの残光   いえす再臨


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2013.06.03

「十 忍法魔界転生」第2巻 転生という誘惑の意味

 連載の方ではついに主人公が登場した「十 忍法魔界転生」ですが、単行本第2巻の方は、敵の編成の真っ最中。後世に名を残す名剣士たちが次々と堕ち、魔人へと転生していく様がひたすら描かれることとなります。

 森宗意軒の怪忍法・魔界転生により死から甦った天草四郎・荒木又右衛門・田宮坊太郎・宮本武蔵――第1巻のラストでは、江戸に向かう宝蔵院胤舜の前に、四郎と又右衛門が現れた場面まででした。

 禁欲により常人離れした武技を発揮する胤舜を挑発し、決闘に持ち込んだ四郎。それも、こともあろうにまず美女と交わってから決闘に臨む四郎に、胤舜の怒りは爆発寸前となるのですが…

 一方、江戸で密かに張孔堂――由比正雪と紀伊大納言頼宣の動向を息子・宗冬に探らせていた柳生宗矩ですが、宗冬は柳生如雲斎にあっさりと倒された末に辱めを受ける始末。病のため思うに任せぬ我が身を悔やむばかりの宗矩の前に、胤舜が二人の女性を伴って現れるのですが――それが何を意味するか、説明するまでもありますまい。

 というわけで、この第2巻で中心となるのは、宝蔵院胤舜と柳生宗矩転生のエピソード。
 己の技を究めることに邁進しある境地にまで至った胤舜と、江戸柳生総帥であり幕府大目付にまで登り詰めた宗矩――これまでに登場した面々に比べれば、遙かに恵まれた生を送ってきたに見える二人が、ある意味それまでの人生を根底から否定するに等しい魔界転生を決意する姿が、生々しく描かれます。


 ここで突然個人的なお話で恐縮ですが、私の初「魔界転生」は、TVで放映された深作欣二版でありました。筋こそ原作とは大きく異なるものの、主人公がしばらく登場せず、延々と恐ろしげな敵(転生衆)が登場し、頼りになりそうだった宗矩まで転生してしまう様から、一種ホラー的な恐ろしさを感じたのを今でもよく覚えています。

 今回、本作で(原作にほぼ忠実に)描かれたのも、やはり次々と名剣士たちが転生していくくだりではありますが、しかしその恐ろしさが別種のものと感じられたのは、これは私が歳を食ったせいでしょうか。
 すなわち、単に敵が増えるという恐ろしさではなく、彼らのような功成り遂げた、そして常人以上の精神力を持ってきた剣士たちですら、魔界転生の――己の生をやり直すという――誘惑に勝てないのか、という恐ろしさに。

 実はこの辺りの「人生やり直し」というモチーフは、その他の山風作品でも何度か見られるものではあるのですが、しかしそれがより痛切なものとして感じられるのは、やはり転生するのが彼らであったからこそ――と、今回再確認させられた次第です。
 そしてそれはもちろん、作者の――せがわまさきの筆の力にも依るものであることは言うまでもありますまい。


 が、その絵にも不満がないわけではありません。個人的に大いに気になってしまうのは、転生した者たちが、(抑え気味であるとはいえ)見るからに人外然としたパーツを付与されていることであります。
 具体的にはエルフ耳や魔物然とした目の描写なのですが、むしろ外見以上に内面が変化することこそが原作の、そして本作の魔界転生の恐ろしさと考えている身としては、残念に感じられます(胤舜の十文字眉毛などはもはやギャグの域かと)。

 もちろん、その「内面」が描かれるのは、まだこれからであります。
 私の印象が早とちりであったと、私に見る目がなかったと証明される日も遠くないと、おかしな話ではありますが期待している次第です。


「十 忍法魔界転生」第2巻(せがわまさき&山田風太郎 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon
十 ~忍法魔界転生~(2) (十 ~忍法魔界転生~ (2))


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2013.06.02

「水滸伝」 第07話「豹子頭 誤って白虎堂に入る」/第08話「逆さまに垂楊柳を抜く」

 しばらく間が空いてしまいましたが、TVドラマ「水滸伝」の第7回、第8回であります。林冲のエピソードと、魯智深のエピソード、二つが交互に描かれる内容は、原作にほぼ忠実かと思いきや…いきなりとんでもない爆弾が炸裂することになります。

 坊主になって指名手配を逃れた魯智深ですが、相変わらず空気を読まない魯智深を、周囲の坊主たちは追い出さんと企みます。彼の部屋に酒壷を置いて、酔い潰した間に濡れ衣を着せようという企みにはまりまくる魯智深ですが、まあその辺はあまり悩まないのが彼らしい。
 そんなところに金水蓮が、相変わらず悩ましげな顔で会いに来るのですが、やはり何も考えていない魯智深。実は彼のとばっちりで彼女の旦那ともども、皆夜逃げする羽目になったというのに…

 その一方で悩み多き林冲…ですが、道で落魄した男から名刀を手に入れていきなりテンションアップ。そんな大きな子供のような林冲に、奥方も王進のように夜逃げを勧めるのを諦めるのですが――その夫に対する理解の深さが悲劇を招くことになるとは。
 詫びをいれてきた陸謙の言葉に従い、名刀を手に高キュウのもとを訪れる林冲ですが、原典通り、入ってはならぬ宮中の奥に刀を手に入ってしまったことで濡れ衣を着せられて…って、これどう見ても林冲さんがうっかりすぎですから!

 そしてそんな林冲の危機の一方で、魯智深はといえば、蟻さんとお話したり、鳥さんと喧嘩したりとメンヘルチックに振る舞った挙げ句、酒売りの若者を襲って酒を奪い取るという最低人間ぶりを発揮…というところで第7回は終わります。
 続く第8回は、ガハハガハハと笑い続ける魯智深が、寺の僧に絡んだり、仁王様の顔が気に入らないからといって破壊したりと、完璧に迷惑な酔っ払いっぷりを発揮。なおも無駄に武功を発揮して暴れまくる魯智深に対し、周囲の僧も数人ずつ丸太を持って突撃という、ほとんど攻城戦の如き様相を呈してきました。

 と、そこに現れた長老の一喝でその場は収まったのですが、翌日長老は魯智深を誘って麓の村へ。そこで魯智深に禅杖と戒刀を作ってくれるというのですが、そこで鍛冶屋と魯智深の間で100斤だ81斤だと重さのことですったもんだしていたところに、長老が62斤にしようと決めてしまいます。この時は、何か根拠があるのかなぁ、とこちらも暢気にかまえていたのですが…

 さて、出来上がるまで時間を潰して、戻ってくれば出来上がった禅杖は二人がかりでようやく運べるような代物。と、それに長老が手をかけた…と思いきや、軽々と振り回し始めたぁ!? 技を伝授してやろうと言いつつもの凄い勢いで演武して見せた長老に、魯智深はただただ感心するばかりであります。
 しかし本当にとんでもないのはここから。実は長老には三人の弟子がおり、その名も盧俊義、林冲、史文恭と――いやいや、長老、あなたのおかげで大宋国の平和が乱れますから! この三人にも負けない位の杖術を記した奥義書を餞別に、長老は東京に魯智深を追い出すのでありました。

 さて、知らないうちに兄弟弟子にされてしまった林冲は、裁判の場で指を噛みちぎって流れる血潮で反対弁論を認めるという挙に出ますが、それが効いたか、裁判官からオトナの取引を持ちかけられ、流刑となる見通しに。しかし護送役に近づく陸謙の影が――

 再び舞台は魯智深サイドに移り、早くも東京に出てきた魯智深は原典通り破落戸たちを手懐けてご満悦なのですが…ここでこれも原典通り、松の木に作られたカラスの巣を除くため、松を一人素手で引っこ抜く! …と思いきや、カラスの巣を取り上げたら再び松を戻し、カラスの巣もそっと別の場所に移す、相変わらず動物と植物だけがお友達の魯智深なのでした――というところで次回に続きます。


 いやはや、林冲サイドと魯智深サイドの話のノリのふれ幅には驚かされますが、この調子だと、二人が出会う前に林冲が流刑に遭いそうな勢い。全く予想もしなかった形で共通項ができた二人ですが…さて、どういう形で出会うのでありましょうか。


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2013.06.01

「風の王国 7 突欲死す」 二人の英雄、分かれる明暗

 東日流、渤海、そして契丹の興亡を描く大河伝奇「風の王国」も、いよいよ終盤に近づき第7巻。本書においては渤海が滅んだ後の、群雄割拠した大陸の姿が描かれることになりますが、しかしサブタイトルは「突欲死す」と、史実通りとしても相当に衝撃的――

 渤海が滅んだことで、一気に騒然たる状況となった大陸の東側。父を暗殺して契丹の帝位についた耶律堯骨は着実にその地位を固め、堯骨に追われた耶律突欲は、渤海の故地で東丹国の王となったものの、さらに追われ、ついに唐に身を寄せることとなります。
 一方、明秀の両親の仇である高元譲は、国を売って契丹にすり寄りつつも、契丹内のこうした隙をついて渤海復興を宣言。さらに大光顕、烈万華、そして明秀たちが合従連衡を繰り返しながら、渤海復興の戦いを繰り広げていくのですが――

 その戦いの中で、これまで以上に生き生きとして見えるのが、主人公たる明秀の姿であります。
 渤海の助っ人として海を渡り、そしてその渤海の王族の血を継ぎつつも、一種俯瞰的な視点から国というものの興亡を見つめてきた彼は、その依って立つべき国が失われてむしろ、自分の戦いを見出したのでありましょう。

 いや、彼にとっては、自分自身の国を作ることができる、ここからが本当の戦いであることは間違いありますまい(単純にゲリラ的に暴れ回るのが楽しいようにも見えますが、それもまあ良し)。
 この巻の段階では、渤海復興を巡る各勢力の背後で立ち回る形となり、表立った活躍はこれから――という印象ですが、物語がいよいよ終盤に近づく中、彼の戦いの向かう先も、そろそろ見えてくるのではありますまいか。

 と、その一方で精彩を欠いた印象が強いのは、耶律突欲であります。
 物語の開始当初から、幾度となく明秀と対峙し、その軍略と巫術で散々に渤海側を苦しめてきた突欲。しかし、彼を買ってきた父が殺され、その下手人たる弟と対立の末に自ら身を引く形で辺境に向かい、そこでも追いつめられた末に唐に亡命した彼に、昔年の力はなく――

 いえ、確かにこうして文章にしてみれば、あまりの逆境であり、そしてそれが史実ではあるのですが、しかしこれまでの突欲であれば、それに負けぬ暗躍を見せていたはず。
 そこが何とも口惜しく、残念ではあるのですが、その一因が、彼の子にあるというのは、それも人の運命というものでしょうか。
(そしてラストに描かれる悲劇と平行して、明秀の側の一つの幸福が描かれるのと、あまりに対象的であります)


 正直なところ、これまでの巻に比べれば、時間の流れが早く、慌ただしい印象が強いこの第7巻。史実をなぞった部分も少なくないようにも感じられるところで、そこに不満がないわけではありません。
 しかし見方を変えれば、その大きな時間の流れが描かれるからこそ、そこに竿差す明秀と、流される突欲の対比が、より明確になったと言えるのかもしれません。

 残すところついに3巻、その残り少ない中で。明秀が時の流れに如何に逆らってみせるのか(そして突欲は本当にこのまま退場してしまうのか)。
 白頭山の度重なる噴火が、先を暗示しているやに感じられるのですが――

「風の王国 7 突欲死す」(平谷美樹 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
風の王国 7 突欲死す (ハルキ文庫 ひ 7-13 時代小説文庫)


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