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2013.06.22

「戦国ケンタウロス」第1巻 まさに人馬一体!? 武田家意外伝

 相変わらずの戦国ブーム、ということは多岐にわたる内容の戦国ものが発表されているということであります。その中にはずいぶんと変わり種があるものですが、その中でも屈指のユニークな作品が、戦国時代の甲州武田家を舞台とした本作「戦国ケンタウロス」であります。

 ケンタウロスといえば、ギリシア神話に登場する、馬の首から上が人間の上半身となったような半人半馬の存在。
 一説には、乗馬文化を知らない者が、馬を自在に乗りこなす騎馬民族を見て考えついたものだともいいますが、なるほど、かの武田騎馬隊の人馬一体ぶりを喩えてケンタウロスというのか!

 という、タイトルと舞台を聞いてのこちらの予想は、大きく外れることになります。本作に登場するのは、比喩でなく本物のケンタウロス。戦国時代を舞台に、あのケンタウロスが登場する…というだけでも大変なのですが、それが武田晴信(信玄)の下で大活躍した武田四天王の一人、馬場信房だった、というのですから、驚かせるにもほどがあるではありませんか。

 そんなわけで、本作に登場する馬場信房(この時点では実際にはまだ教来石景政ですが)は、半人半馬のケンタウロス。この世界においては彼のような存在は当たり前…ということは全くなく、彼のことをよく知る武田家の面々はともかく、それ以外の人間から見れば異形以外の何ものでもない彼ですが、しかし信房自身は武勇に優れるだけでなく、人の心の痛みのわかる好漢。

 というのも信房は、子供時代、いや武田家に仕官した直後まで、その異形から好奇の目にさらされてきた過去を持つ男。
 それだけに人の心の持ちように敏感な信房は、作中ではまだ当主である武田信虎に半ば虐待されていた晴信を、飯富源四郎や原昌胤らと頼もしく支えるのであります。

 が、哀しいかな、彼の体の半分は馬。春になると、雌馬の匂いに対して敏感に反応し、武人にあるまじき不麗面(フレーメン)反応を見せてしまう…というとんでもない設定などもあって、硬軟取り混ぜた展開が実に楽しい作品であります。


 …それにしても、冷静に考えてみると、武田家のこの時代をメインに取り扱った作品というのはそれほど多くないように感じます。
 晴信による信虎追放、という大きなイベントはあるものの、やはり地味といえば地味なのかな…などと考えるのですが、そこにケンタウロスというとんでもない異物を投入することにより、漫画として見せてしまうのは、これは見事なアイディアではありますまいか。

 物語としてみても、信虎と旧来の家臣団――先代四天王とも言うべき面々――と、晴信と若き家臣団という構図にはっきりとなっているのも面白く、これはこの時代の武田家を描く真面目な歴史ものとしても期待できるのではないか――というのはもちろん大袈裟なのですが。
(ただ、一部のキャラ造形のように無理にギャグに走らずともよいのではないかな、と思います)

 ちょうどこの1巻ラストでは、信房がその家を継ぐことになる馬場伊豆守にまつわるシリアスな過去エピソードが展開中。果たして彼に何があったのか、そして座敷牢に入れられたその娘・お独楽とは…

 ケンタウロスという戦国時代に破格の存在を通じ、ギャグでもシリアスでも、破格の物語を期待しているところです。


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