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2013.06.25

「ちゃらぽこ 長屋の神さわぎ」 看板に偽りなしの妖怪人情ドタバタ活劇

 板橋の岡場所で乱痴気騒ぎをしていた妖怪長屋の大家・杢兵衛は、謎の幼女・お百が放った黒い玉・ヤクダマを喉に詰まらせて頓死してしまう。中山道沿いに災厄をまき散らしながら江戸にやって来たお百の正体は、疫病神だった。お百を悪用せんとする悪人たちに対し、妖怪長屋の面々は?

 最近は妖怪時代小説の分野で活躍著しい朝松健の「ちゃらぽこ」シリーズ第3弾が発売されました。
 本所も場末の通称真っ暗町の妖怪ばかり住んでいる長屋にひょんなことから転がり込んだ青年剣士・荻野新次郎と、子供の姿の福の神・福太郎を中心に、妖怪たちがドタバタを繰り広げる本シリーズですが、今回の騒動のタネは、福の神とは対極の存在、疫病神であります。

 江戸も外れの板橋で季節外れの花見の宴会をしていた妖怪長屋の面々。その会費を横領して岡場所にしけこんだ化け狸の大家・杢兵衛が、そこで謎の黒い玉・ヤクダマを喉に詰まらせていきなり死亡する場面から物語は始まります。
 シリーズ第3弾にして新展開、冒頭からメインキャラの1人が死ぬとは!
 …と驚いていいのかどうか、わからないのが本シリーズの恐ろしいところ――何しろシリーズ第1弾の冒頭で主人公がいきなり死んでいるので――ですが、かろうじて息を吹き返した杢兵衛は、自分の本能のおもむくままに暴れ回る存美(ぞんび)になってしまい、新次郎たちはその特効薬を探す羽目になります。

 が、その特効薬である薬草が生えた屋敷こそは、今回の騒動のいわば黒幕。甲州から疫病神を操る陰陽師を呼び寄せ、その疫病神の力で江戸を混乱に陥れ、政敵を暗殺せんと企む悪役人と、新次郎ら妖怪長屋の面々は対決することになるのですが――
 新次郎はともかく、人間とは異なるパーソナリティで動き回る妖怪たちですから、普通の事件も大騒動になってしまうという寸法。特に、前作から登場した根性がひん曲がった女幽霊・お菊が、相変わらずの破壊力で物語を引っかき回してくれるのが何とも楽しいのです。

 楽しいといえば、一度死んだ、そして存美になった杢兵衛に対する長屋の連中の扱いも実にオカシイ。
 死者への崇敬の念などどこへやら、杢兵衛の亡骸をぞんざいに扱い、存美を容赦なく叩きのめす彼らの姿は、実に不謹慎、不人情ではありますが、しかし決して不愉快ではなく、むしろその容赦のなさが逆に抱腹絶倒。確かにこれを人間が人間に対してやったら、良識的な方は眉を顰めるかもしれませんが、妖怪が妖怪にやることなので問題なし(?)。
 なるほど、妖怪ものにはこういう効用もあったか、と今さらながらに感心した次第です。

 しかしそんなドタバタギャグが続く本作ではありますが、しかし今回登場する疫病神のパワーは、ちょっと洒落になりません。
 何しろ、中山道を江戸にやってくるまで、各地で数々の災厄を撒き散らし、江戸においても打ち壊しが起きるわ火災は起きるわ疫病は流行するわと、大変な有様…なのですが、その疫病神が、何と可愛らしい女の子の姿をしているというのも一筋縄ではいかないところ。しかも子供同士、福太郎と仲良くなって遊び始めてしまうのですから――

 ここでお百と福太郎の遊びの「影響」がまた最高に面白恐ろしく、クライマックスを大いに盛り上げてくれるのですが、しかし、ここで疫病神の子供を決して単なる悪役にしない辺りがまた作者らしい。
 デビュー以来一貫して、子供を害する者、利用する者に激しい怒りを見せてきた作者が描く物語は、ここでも疫病神の少女を滅ぼすのではなく、救おうとしてくれるのが嬉しい。
 妖怪たちの不人情っぷりをギャグにしつつ、きっちりと妖怪に対する人情を忘れない――なるほど、これぞ妖怪人情ギャグというべきでしょう。看板に偽りなしの快作であります。


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ちゃらぽこ長屋の神さわぎ (光文社時代小説文庫)


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