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2013.06.04

「くるすの残光 いえす再臨」 激突する神の子と神の子

 植木職人の親方たちと伊達家の招きで仙台城を訪れた寅太郎。そこでは、木々が原因不明のまま生命力を失っていた。折しも陸奥ではでうすの生まれ変わりを称する少年が、陸奥の切支丹を扇動して乱を起こそうとしていた。さらにそこに幕府の宗門改め方・閻羅衆も加わり、三つ巴の激戦が始まる。

 来月にはシリーズ第1弾の文庫化も予定されている仁木英之の時代伝奇活劇「くるすの残光」シリーズの第3弾であります。
 島原の乱に生き残り、天草四郎の遺志と力を受け継いで江戸に潜伏する寅太郎たち異能の聖騎士。前作は九州で甦った立花宗茂と死闘を繰り広げた寅太郎たちですが、本作では陸奥で同じ切支丹たちと激突することとなります。

 島原の乱で幕府に奪われた四郎の7つの聖遺物を求めて戦い続ける寅太郎たち。これまでの戦いで2つの聖遺物を取り戻したものの、いまだその力を発揮できずにいる彼らの耳に、陸奥で起きているという異変が届きます。

 かつて製鉄を生業とする切支丹の山の民が数多く迎えられた仙台藩。しかし政宗の没後、幕府の顔色をうかがうようになった伊達家は切支丹の弾圧を強め、陸奥の切支丹は滅んだかに思われたのですが――
 そこに突然、切支丹の大軍を率いて現れた少年・一起。でうすの生まれ変わりを称し、かつての四郎を思わせる奇蹟の力で切支丹の残党を糾合した彼は、仙台城を攻めんと南下を開始したのであります。
 折しも、寅太郎は養父らと植木職人として、突如生命力を失い始めた仙台城の木々を手入れするために、そして聖騎士の一人・人形師の佐七も伊達家の姫君に人形を造るために、仙台に向かうことに。

 そして幕府の対切支丹特殊部隊ともいうべき閻羅衆も北上し、ここに切支丹vs切支丹、切支丹vs幕府の死闘が始まることとなります。

 伝奇時代劇の枠の中に、能力バトルのテイストを投入したのが本シリーズの魅力の一つですが、その点は、本作でももちろん健在、いや一層増した感があります。
 草木の声を聞き、植物を自在に成長させる寅太郎。自分の娘を模した人形を、あたかも生きているかのように自在に操る佐七――並みの侍・忍者では相手にならぬ彼らの異能。しかし本作において彼らの前に立ち塞がるのは、彼らと同種の力、いやそれどころか、彼らと同じ切支丹なのですから、これは盛り上がる展開であります。

 実のところ、シリーズのこれまでの作品においても、寅太郎たちの前に立ち塞がる異能者は、四郎が遺した、先に述べたとおり彼らが求める聖遺物の力を用いたものであり、その意味では、同種の力を用いる敵というのは初めてではありません。
 しかしこれまでの敵が、元々敵であった者が聖遺物を与えられたのに対し、本作で対決することとなるのは同じ切支丹であり、本来であれば敵対するはずのない、いや、共に手を携えるべきものであるのが、注目すべき点でありましょう。

 本来であれば、神の名の下に平等であるはずのキリスト教。しかしその同じ教えを奉じる者同士、しかも幕府に弾圧される者同士が激突する悲劇は、かつて切支丹だった閻羅衆の長の視点を加えることにより、むしろ皮肉な色彩すら加えて描き出されるのであります。

 …が、個人的に非常に残念であったのは、同類と戦ってまでも寅太郎たちが貫こうとする、彼らにとっての大義――すなわち天草四郎の存在と教えが今ひとつ具体的に描かれず、それゆえ、寅太郎たちの主張に説得力が感じられない点であります。
(勝てない戦を、数多くの民の死を避けるべき、ということは、島原の乱を起こした側が言っても説得力がないわけで…)

 これまでも本シリーズにおいて中心にあるべき存在でありつつも、その具体的な姿については描かれてこなかった感のある天草四郎。
 おそらくそれは意図的なものであったかとは思いますし、これまでは物語の展開上あまり気になることはなかったのですが――しかし本作のような内容であれば、四郎の存在を、寅太郎たちにとっての信仰の意味を、より明確に描くべきでなかったのでしょうか。

 この辺りは、寅太郎たちが聖遺物を使いこなせない謎も含めて、今後描かれていくべきものかとは思いますが、シリーズももう3巻。そろそろ踏み込んでいただきたい部分ではあります。


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