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2013.06.28

「ツングース特命隊」 地の果ての地獄に向かう男たち

 1908年、シベリアの奥地ツングースで発生した謎の大爆発。朝鮮で抗日兵相手に武器の密売をしていた武藤淳平は、かつての上官である明石元二郎から、その原因究明を命じられる。一筋縄ではいかないメンバーとともにツングースに向かった武藤が、グルジェフらの妨害をくぐり抜けた先で見たものは…

 このブログでも何度も取り上げている山田正紀は、SFをメインとしつつも、時代もの、ミステリ、冒険ものと幅広い分野で活躍していますが、その中の冒険ものの中でも「秘境冒険もの」に属するのが、本作「ツングース特命隊」であります。
 実は恥ずかしながら本作はこれまで未読だったのですが、この7月にラジオドラマ化されるのを機に、手に取った次第です。

 かつては冒険小説の花形でありつつも、現代ではほぼ壊滅状態にある秘境冒険もの。その理由は言うまでもなく、現代において秘境と呼ぶべき存在が既に存在しない――というより、説得力ある姿で提示しにくい――ことにあるかと思いますが、それを巧みにクリアしてみせたのが本作。
 舞台を20世紀初めのシベリアという未開の地に設定したこともさることながら、そこにツングース大爆発という、現代においても完全に原因が解明されたわけではない謎を絡めることにより、見事にミステリアスな「秘境」を、誕生せしめているのであります。

 そして、その秘境に挑む面々がまた魅力的。かの謀略軍人・明石元二郎大佐から謀略戦のノウハウを叩き込まれながらも、軍を抜けて朝鮮で抗日兵に武器を密売している主人公・武藤。「地獄」に魅入られた元文学青年で射撃の名手・伊沢。かつて訪れたシベリアの地に憑かれた賭場の用心棒で体術の達人・俊藤。明石の部下でガチガチの青年軍人・村井。

 この、どこか死と虚無に取り憑かれたような――ある意味、いかにも山田正紀キャラな――四人の男たちに、謎の医師・大隈(下の名は博文!)と、ツングースから帰って狂死した兄の謎を追うヒロインが加わった特命隊が、シベリアの地下に広がる「地の国」に挑むのですから、面白くないわけがないのであります。
(さらに、彼らの冒険行を妨害するのが、オカルト界隈では超有名人のグルジェフというのもまた素晴らしい)

 しかし、本作の最大の魅力は、本作後半の舞台である「地の国」と、それに込められたものであることは間違いないでしょう。
 シベリアの奥地、原住民すら近寄らない地の底に広がる広大な「地の国」。人間が存在しない、どこまでも果てしなく続くような――そして、その姿を次々と変えていく――その世界の姿は、ややもすると単調に見えるかもしれません。

 しかし、グルジェフが「この世を滅ぼす」と予言したその地の正体、いや、その地に込められた意味に気付いた時――そしてそこを旅していたのが、作中で幾度か「精神的奇形」とすら呼ばれる、死と虚無に取り憑かれたような者たちであったことを思う時、感動とも恐怖ともつかぬものが胸に迫るのであります。
 さらに言えば、「地の国」とそこでの旅が、ダンテの「神曲」のそれをなぞったものであることを考えればなおさら、です(もっともこれは、恥ずかしながら私は自分では気付かず、尊敬する先輩の指摘で初めて気付いたのですが…伊沢の台詞で、はっきりと引用しているのに)

 この世は本当に「地獄」なのか。だとすれば、そこに生きる我々の存在にどれだけの意味があるのか――
 この、一種巨視的な、SFだからこそ描ける問いかけ――そしてそれは本作とほぼ同時期に発表された半村良の「妖星伝」に通じるものがあると感じるのですが――こそが、往年の秘境冒険ものの(ある種の)リメイクに留まらない、本作ならではの魅力ではありますまいか。

 そしてもちろん、そんな底知れぬ虚無を描きつつも、「それでも」という想いを残してくれるのが、山田作品なのですが――


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コメント

山田正紀さんと言えば4人のサラリーマンが米国特殊部隊の守る原子力発電所の爆弾撤去に向かう「火神を盗め」、アニメ化した第二次大戦で巨大ロボットが戦う「機神兵団」などが代表作ですが、この作品も面白いですね。紹介では伏せられていましたが、この時代のシベリアなので当然あのロシアの不死身の妖怪坊主(笑)も出て来ますね。

オーディオドラマもアニメファンにはおなじみの坂本真綾・平田広明・菅生隆之という面々が出演しているので楽しみです。

投稿: ジャラル | 2013.06.29 13:14

ジャラル様:
ラスプーチンの出番がほとんど顔見せ的だったのが残念でした。
結局オーディオドラマの方は聴けなかったのですが、出来はどうだったのでしょうね。

投稿: 三田主水 | 2013.07.28 18:50

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