「たたり岩 もののけ侍伝々」 最大のクライマックス、しかし…
今日も今日とて江戸で呑気に暮らしていたところに、怪事の解決を命じられた京嵐寺平太郎。旗本の跡取り息子に出来た瘤から地獄の鬼を何とか倒した平太郎だが、事件の陰には宿敵の怪僧・巌道の姿があった。復讐のため、平太郎の故郷・三次を滅ぼそうとする巌道により、地獄の蓋が開く…
妖怪を断つ太刀・茶丸を持ち、妖怪大将・樋熊長政ら大妖怪を友とする若侍・京嵐寺平太郎の活躍を描く妖怪時代小説「もののけ侍伝々」シリーズの第3弾であります。
以前、静山社文庫にて2巻まで刊行されていたシリーズが、この3月から角川文庫に移籍。2巻までが再刊され、その次に書き下ろしで登場した、堂々の新作です。
基本的にやる気のない(しかし妖怪退治の勇者と周囲からは思われている)平太郎と、妖怪大将を名乗りながらてんでいくじなしの樋熊長政を筆頭とした呑気な妖怪たちが、周囲から命じられて嫌々ながら凶悪な妖怪たちと戦うというギャップが最大の魅力であるシリーズ。
本作では、これまで同様全4話の前半2話「猫の怪」「能面の怪」は、市井の怪事件が描かれ、登場する妖怪も小粒なのですが、後半2話(正確には最終話)は、スケール的にこれまでで最大のクライマックスと言うべき内容で、大いに盛り上がるべき展開であります。(が…)
まず第3話「地獄絵図」では、手の付けられない悪たれである、さる旗本家の幼い跡取り息子の体中に幾多の瘤が生まれるという怪事が描かれるのですが――その正体が何とも意外。奇怪な妖力を込められた地獄絵図を見せられたことで生じたその瘤は、子供が悪いことをするたびに膨らみ、やがて弾けて地獄の鬼を生み出すのですから――
そして最終話にして表題作「たたり岩」では、この事件の陰で糸を引いていた宿敵・巌道が、次々と企みを打ち砕いてきた平太郎への復讐のため、三次の町を襲撃することになるのですが――ここで本シリーズのモチーフである「稲生物怪録」がクローズアップされることになります。
魔所・比熊山に肝試しに行った少年・平太郎の屋敷に怪事が相次ぎ、根比べに勝った平太郎の前に大妖怪・山本五郎左衛門が現れ、その勇気を讃えられるというその内容は、本シリーズでは平太郎と樋熊長政の関係に落とし込まれているものと思ってきました。
しかし本作においては、樋熊長政とは別の、遙かに格上の存在が三次の山に封印されていることが判明(それも、山本五郎左衛門と対立するという神野悪五郎をモチーフにした存在なのが面白い)。
最終話では、この魔王の力を得た巌道により、三次に地獄の鬼たちが横行、人々を次々と襲っていくという展開に。これに対して、平太郎も妹の真娯萌や天狗たちとともに立ち向かうのですが…
が、これが今ひとつ盛り上がらない。
これまでこのシリーズを取り上げた際に触れてきた温度の低い文章が、ここでも(これまで以上に)足を引っ張っている印象があります。
シチュエーションだけみればクライマックスに相応しい展開なのですが、しかし淡々とした説明口調の地の文がそのテンションを大いに引き下げる。用意されたイベントを淡々とこなしていく印象で、何とも盛り上がらないのであります。
平太郎の妹をはじめ、新キャラクターの描写も今ひとつ魅力が感じられず、いや、これは本当にもったいないとしか言いようがありません。
正直なところ、移籍によってこれまで不満であった点が解消されることを期待していたのですが、ほとんど全く変わらないまま、と言うべきでしょうか。
シリーズはこの先も続くようですが、妖怪時代小説ものも過当競争となってきたいま、さらなるパワーアップが必要ではありますまいか。
「たたり岩 もののけ侍伝々」(佐々木裕一 角川文庫)Amazon

関連記事
「もののけ侍伝々 京嵐寺平太郎」 ちょっとユルめの妖怪小説?
「蜘蛛女 もののけ侍伝々」 妖怪と魔物と呑気剣士と!?
| 固定リンク

コメント