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2013.07.12

「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第1巻 再び始まる空海と逸勢の冒険

 「沙門空海」のタイトルでチェン・カイコー監督により映画化…の報も流れた夢枕獏の大作「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」の漫画版、その単行本第1巻であります。原作はずいぶん楽しく読んだ記憶のある本作ですが、この漫画版の方も負けず劣らず魅力的。まずは安心して楽しめる作品となっています。

 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」は、遣唐使として唐に渡った空海と橘逸勢が、長安を騒がす怪異に関わるうちに、玄宗皇帝と楊貴妃の昔にまで遡る奇怪な事件に巻き込まれるという伝奇譚。

 空海と橘逸勢が同じ遣唐使で唐に渡ったのは紛れもない史実ではありますが、本作では飄々としつつもどこか人間臭い空海と、野心に溢れながらもどこか人のよい逸勢というキャラクターに二人を造形しているのがまずユニークな点でありましょう。
 この二人のやりとりを見ているだけでも楽しくなってしまうのですが、そこに彼らの時代からわずか50年前に起きた安史の乱の中で起きた楊貴妃の悲劇が絡み、思いも寄らぬスケールの一大伝絵巻が描かれるのが、夢枕獏ファン、伝奇ファンとしては実にたまらない作品であります。

 さて、この漫画版第1巻は、空海と逸勢の入唐と彼らの人となりが描かれるのに並行して、長安で起きる二つの怪異――人語を話し皇帝の死を予言する猫の怪異と、綿畑の地中から皇太子の発病を予言する声の怪異――が描かれることとなります。
 まだ空海と逸勢と、これらの怪異が交わるところまでいっておらず、物語的にはまだまだ序盤といったところですが…しかし、ここまででも十分に面白いのは、原作はもちろんのことながら、絵の魅力あってのことでしょう。

 恥ずかしながらこの漫画版の作画を担当した大西実生子の他の作品を読んだことはなく、これが初見なのですが、主人公二人のキャラクターを全く違和感なく、むしろ二人の魅力をより増す方向に膨らませて描いているのにまず感心します。
(特にこの巻に描かれた他の遣唐使たちとの別れのエピソードなど、単純な聖者ではなくかといってもちろん悪人ではない、血の通った若者としての空海を瑞々しく描いているのが実に良い)

 さらに東西の文化が混交する長安の都の様子や美しいヒロインたち、そして何よりも禍々しくも生々しい怪異たち!
 それらの描写もリアルなばかりではなく、時にディフォルメを交える緩急交えた描写も巧みで、単に原作を引き写しただけでない、漫画としての楽しさがあるのは好印象であります。


 先に述べたとおり物語的にはまだまだ序盤。原作ではこれから先、様々な妖異絢爛な玉手箱のような物語が展開することになるわけですが、それをこの漫画版がどう形にしてみせるのか、安心してこの先を待つことができそうです。


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