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2013.07.15

「るろうに剣心 キネマ版」 るろ剣という物語の過去・現在・未来

 気がつけば結構な長期連載となっていた「るろうに剣心」のキネマ版が先日連載終了し、単行本も上下巻で完結いたしました。原作の序盤、作者自身がセルフリメイクした本作ですが、そこに描かれているものは、さて原作と変わっているのか否か…

 タイトルからもわかるように、本作のベースとなっているのは、映画化された部分とほぼイコールの、原作でいえば東京編の前半に当たる部分。原作ではいくつかに分かれていたエピソードを一つにまとめ、神谷流道場の地上げをはじめとする武田観柳との暗躍と、彼に雇われた鵜堂刃衛ら刺客たちとの死闘が、本作でも描かれることとなります。

 もちろん、大まかなストーリーは同じでも、原作者自らによるリメイクだけあって、原作ファンを「おっ」と思わせる要素は数々あります。
 その最たるものが、刃衛・外印・番神ら敵キャラのデザイン等が、単行本完全版に掲載された再筆(再デザイン・再設定)バージョンとなっていることで、さすがに映像化できなかった掌に穴を開けて刀を通した刃衛や、液体金属をまとった番神など、いかにも本作らしいケレン味溢れるものとなっているのは嬉しい点であります。


 その意味では、原作ファンとして大いに楽しめる内容であったのですが、しかしこうして単行本の形でまとめて読んでみると気付くのは、想像以上に剣心のキャラクターが「重く」描かれていた点であります。
 今さら言うまでもなく、剣心はかつて幕末の動乱期に「人斬り抜刀斎」として数多くの屍を積み上げた人物。原作ではこの時点の剣心は――作者の絵柄もあってのことかもしれませんが――かなり柔らかいキャラクターとして描かれていた印象がありますが、このキネマ版においては、その背負ったものの重さが、より前面に押し出された印象があります。

 これは以前書きましたが、私は映画版の半分は評価し、半分は評価しておりません。評価した点は、ハマリ役のキャストを使って原作の破天荒なアクションを再現してみせた点。そして評価していないのは、その雰囲気があまりに暗い点だったのですが――
 この映画版ほどでないにせよ、本作もかなり雰囲気が暗かったのは、個人的には残念に感じられた点ではあります。

 幕末という「過去」を背負い、不殺の誓いを立てた男が戦うのであれば、それは今彼がいる「現在」を守り、「未来」へと繋げていくためであるはず。
 もちろん本作においてもその基本構造は健在ではあるのですが、しかし幾度か描かれる剣心の足元を浸す血溜まりに象徴される、「過去」の罪の部分が、かなり目立って感じられるのであります。

 しかしそれでもなお、映画版とキネマ版で、明確に異なる点があります。それはこの「るろうに剣心」という物語において「未来」の象徴である、弥彦のドラマが――原作以上に――描かれていた点です。
 明治に生まれながらもその暗部を背負って育ち、しかしそれでも剣士となることを目指して前向きに成長していく…そんな弥彦の姿は、原作においても随所に描かれ、その彼が剣心の精神を継承したことを示して原作が完結する、まさに剣心が目指した「未来」を受け継ぐ存在なのであります。

 映画版では弥彦はほとんどいるだけの存在であり、実はこの点こそが原作と映画版を大きく分かつものではないかと個人的には考えているのです。
 それに対し、このキネマ版は弥彦にドラマを用意することにより、剣心をこれから受け継いでいくであろう存在として描きます。原作ほどのわかりやすいヒーロー性はない(実のところ、原作の彼を映像でリアリティを持って描くことはかなり難しかっただろうとは思います)ものの、それだけに地に足の着いた存在として彼を描いてみせたことは、このキネマ版の大きな成果ではないか…というのはさすがに言い過ぎだとは思いますが。


 何はともあれ、原作漫画、映画版、小説版の銀幕草紙変、そしてこのキネマ版――四つの剣心の物語に触れることにより、「るろうに剣心」という物語が何を描いていたのか、そして和月伸宏というクリエーターが何を描こうとしているのか、その一端に触れることができたように感じられたのは、興味深い体験でした。
 そしてここで感じたものが正しかったかどうか――それを確かめるためにも作者の最新作である「エンバーミング」の連載再開もまた、強く望むところではあります。


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コメント

早くも「京都編」での映画版続編が発表されましたね。しかも志々雄真実役は藤原竜也さんに!

ネットでは早くも十本刀などのキャスト予想が噂になっていますが、各ブログで共通なのは「剛力綾芽だけは出さないでくれ!」でした(笑)。

投稿: ジャラル | 2013.07.16 12:30

ジャラル様:
志々雄のキャストはさすがに驚きましたね。
僕は個人的に剛力さんは嫌いではないので、ここまで来たら突き詰めて欲しいと思います。瀬田の宗ちゃん辺り…と言ったらさすがに怒られるとは思いますが

投稿: 三田主水 | 2013.07.28 18:53

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