« 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第1巻 再び始まる空海と逸勢の冒険 | トップページ | 「江戸天魔録 春と神」第2巻 集結、対天魔遊撃隊 »

2013.07.13

「蔵盗み 古道具屋皆塵堂」 人情譚と怪異譚、そしてミステリの隠し味

 小間物問屋の手代だったが、濡れ衣を着せられて店を追い出された益治郎。盗みはすれど非道はしないという盗賊・甚左に声をかけられた彼は、甚左が目を付けた店――古道具屋皆塵堂に入り込むこととなる。曰く付きのものばかりが集まる皆塵堂で、益治郎は次々と奇怪な事件に出くわす羽目に…

 江戸深川の古道具屋・皆塵堂を舞台とした怪談人情譚シリーズの第三弾であります。曰く付きの品ばかりが、そして様々な悩みや不幸を抱えた若者が集まる皆塵堂で、今回もおかしくもほろ苦く、そして何よりも恐ろしい物語の数々が描かれることになります。

 釣り好きの呑気な主人・伊平次が極めてマイペースに営む皆塵堂は、よそが引き取らないような曰く付きの――簡単に言ってしまえば「憑いてる」「祟られてる」――品物を引き取るユニークな(?)店。
 しかも店になる前はかつて凄惨な殺人事件が起き、さらに店の奥に入り口が作られた蔵は(片付いていないという物理的な理由ですが)開かずの蔵に…

 そんな皆塵堂でありますが、今回はその開かずの蔵が元で皆塵堂で働く羽目になる若者が現れます。それが本作の主人公・益治郎――小間物問屋で真面目に働き、手代になりながらも、盗みの濡れ衣を着せられて追い出された、これまた不幸な若者です。
 そんな彼に声をかけた盗賊・甚左は、意趣返しに益治郎が働いていた店から金を盗む代わりに、甚左がお宝アリと目を付けた皆塵堂の、その蔵の中を探るように頼んでくるのでありました。盗みはすれども非道はせずという甚左の評判を信じた彼は、皆塵堂の新たな手伝いとして雇われるのですが――

 というわけで、これまでの主人公同様、益治郎を襲うのは皆塵堂に持ち込まれる品々にまつわる怪奇な事件。
伊平次の釣り竿が思わぬ恐怖に益治郎を巻き込む「水底の腕」
一家心中があった店から持ち込まれた机にまつわる奇譚「おいらの机だ」
思わぬ事情から店の者が皆殺しにされた家で過ごすことになった益治郎たちの恐怖の一夜「幽霊屋敷 出るか出ないか」
前作の主人公・庄三郎の知人から預かった人形の怪異「人形の囁き」
そしてついに益治郎の運命の行方と皆塵堂の蔵の中が明かされる「蔵の中」

 本シリーズは、不幸に見舞われた若者が、周囲の(ちょっとおかしな)人々と触れ合う中で再生していく「ちょっとイイ話」的な方向性を持ちつつも、しかし同時にしっかりとした怪談として成立していることが、その最大の特徴でしょう。
 もちろん本作に収録されたこれら五つのエピソードでもその点は健在であります(冒頭の「水底の腕」に登場する、不穏なタイトルそのままの怪異の姿たるや、真剣に怖い!)

 この辺りの、コミカルな人情譚とガチな怪異譚を両立している点は、本シリーズの見事な点でありますが、本作はそれに加え、一種ミステリ的な仕掛けと謎解きのテイストを加えているのが目を引きます。
 そもそも、品物にまつわる怪異の正体を探るという構造自体、一種ミステリ的な方向性があるわけですが、本作ではそれに加え、皆塵堂を狙う盗賊・甚左の存在を、物語全体の縦糸として設定しているのが、本作の最大の特徴なのであります。

 物語自体の仕掛けについては、人によっては第二話の時点で気付くかもしれませんが、物語が進むにつれて、徐々にその背後に隠れていたものの全貌が見えてくるという構成は実に面白い。
 作者は、ミステリに怪談の要素を密接に絡めた「浪人左門あやかし指南」シリーズでデビューしましたが、本作はそれと逆に、怪談にミステリの要素を加えてきたと言うべきでしょうか。これはまさしく、この作者ならではの作品と言うべきでしょう。


 さて、本作のラストで長らく謎であった皆塵堂の蔵が開かれることとなりますが、しかしもちろん、それで皆塵堂にまつわる物語が終わるわけではありますまい。
 悩める第四の若者が皆塵堂を訪れ、恐怖の中に希望と再生を見出す姿を見ることができるであろうと――そして彼を騒々しくも暖かく見守る中に益治郎もいるであろうことを――期待している次第です。


「蔵盗み 古道具屋皆塵堂」(輪渡颯介 講談社) Amazon
蔵盗み 古道具屋 皆塵堂


関連記事
 「古道具屋 皆塵堂」 ちょっと不思議、いやかなり怖い古道具奇譚
 「猫除け 古道具屋 皆塵堂」 帰ってきたコワくてイイ話

|

« 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第1巻 再び始まる空海と逸勢の冒険 | トップページ | 「江戸天魔録 春と神」第2巻 集結、対天魔遊撃隊 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/57782905

この記事へのトラックバック一覧です: 「蔵盗み 古道具屋皆塵堂」 人情譚と怪異譚、そしてミステリの隠し味:

« 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第1巻 再び始まる空海と逸勢の冒険 | トップページ | 「江戸天魔録 春と神」第2巻 集結、対天魔遊撃隊 »