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2013.07.05

「江戸忍法帖」 そして江戸から柳生へ?

 五代将軍の下で権勢を誇る柳沢吉保は、先代将軍に葵悠太郎と名乗る隠し子がいたことを知り、密かに刺客として甲賀七忍を差し向ける。三人の家臣七忍に討たれながらも立とうとしない悠太郎だが。無辜の命が奪われるに至り、つい怒りとともにその一刀を抜く。果たして悠太郎と七忍の死闘の行方は…

 故あって最近山田風太郎の忍法帖を読み返しているのですが、初読以来、実に久々に読み返したのが、この「江戸忍法帖」であります。
 時は元禄、先代将軍家綱の子として生まれながらも、足柄山で平和に生まれ育った葵悠太郎。悠揚迫らぬ若者に成長した悠太郎ですが、彼の傅育に当たった三人の家臣の願いにより、江戸に出て長屋暮らしを始めることになります。

 しかし、その存在に驚いたのは時の大老格・柳沢吉保。綱吉の血を引く我が子を将軍位に付けようと企む吉保にとって最大の生涯である悠太郎を除くため、吉保が雇ったのは甲賀組きっての七人の奇怪な忍法の使い手・甲賀七忍!
 かくて、ここに一刀流の達人たる悠太郎と甲賀七忍の死闘が始まり、さらにその中で悠太郎を巡り、二人の美女の恋の火花が…

 と、時代エンターテイメントとして見れば、申し分なく面白い本作ですが、しかし初読時の印象は「なんだかフツー」…というのが正直なところでした。
 何しろ山風といえば、忍法帖といえば、なうての曲者揃い。重くシニカルで、何が善で何が悪かもわからなくなるような、そんな作品ばかり…そんな印象があります。
 それに対して本作は、将軍のご落胤である主人公が、邪悪な敵に破邪顕正の刃を振るうという、定番中の定番のシチュエーション。面白くないわけではもちろんないのですが、しかし山風らしくない、普通の時代小説だなァ…と感じたのです。


 さてそれから20年近く経って読み返してみると、やはり当時気付かなかった発見があります。
 その一つは、本作が単なる貴種流離譚ではなく、それに復讐ものが加わった、少々珍しいパターンの作品であることであります。もちろん、貴種流離譚+復讐ものというのは皆無ではありませんが、本作においては、その復讐が、己自身の理由(例えば親の敵、国を滅ぼした相手を討つ)ではなく、本来であれば自分と直接関係のない相手――しかし、読者からすれば十分にその動機に納得できる――に対する復讐というのが面白い。

 ちなみに本作は「甲賀忍法帖」に続く忍法帖第2作でありますが、「甲賀」で確立したトーナメントバトルに対し、数は多くはないものの、忍法帖のパターンの一つとしてあるのは一対他の復讐もの。本作はまさにその嚆矢といえるでしょう。

 そして、忍法帖において復讐もの、それも本来は自分と縁のない相手のための…と来れば、思い浮かぶのは大作「柳生忍法帖」なのですが、実に本作は、そちらに繋がるイメージが随所に見られるのが、何とも興味深いのであります。
 般若面、敵方の美女とその献身、処刑場での決戦、裁定者の乱入――この辺り、驚くほど「柳生」と重なってくるわけで、「江戸」から「柳生」へ、何が変わり何が変わらなかったか…というのはいささか邪道な読み方ではありますが、個人的には何とも興味深く感じられた次第です。


 その他、また、他の作品に比べると、登場する忍者たちが(悪役ではあるものの)妙に人間臭い存在として描かれている点や、主人公を挟んで対峙するヒロイン二人の関係性が、互いが互いの扮装で入れ替わっていくうちに深まっていく点など、小技の効かせ方もさすがで、やはり普通というのは過小評価に過ぎたなあ…と今更ながらに反省した次第です。


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コメント

確かに最初に主人公のお付きの好漢剣士達が倒されていく所は「柳生」の沢庵和尚の弟子が倒されていく所を連想させますね。「柳生」の千姫・沢庵に代わって主人公を援護してくれるのは、柳沢吉保の宿敵で最近では大河ドラマ化運動開始された冲方丁氏の著作で有名な御方ですからね。でも最後の主人公の行動は「柳生忍法帳」よりも「自来也忍法帳」のほうに近いと思いましたが。

投稿: ジャラル | 2013.07.06 09:09

ジャラル様:
本文中では触れなかったのですが、冒頭で主人公のお付き三人が倒される場面は、むしろ「魔界転生」の老達人たちが倒される場面を思い出しました。

投稿: 三田主水 | 2013.07.28 18:52

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