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2013.07.04

「大正の怪談実話ヴィンテージ・コレクション」 怪談ブームの時代から

 昨年刊行され、好事家を大いに喜ばせたであろう「昭和の怪談実話ヴィンテージ・コレクション」の姉妹編というべき一冊が刊行されました。昭和とくれば次は当然大正、というわけで、「大正の怪談実話ヴィンテージ・コレクション」であります。

 わずか14年と短い大正時代ですが、しかしその間には泉鏡花らによる怪談会が幾度にもわたって開かれた、怪談の勃興期、怪談ブームの時代であった…
 というのは、本書の編者でもある東雅夫氏の文章の完全な受け売りですが、しかし本書はその何よりの証拠とも言うべきものでしょう。

 本書は、大正時代に刊行された怪談集や怪談関連記事からよりすぐりを収録したもの。その採録元は以下の通り――

「妖怪実話」(山内青陵・水野葉舟)
「霊怪の実話」(水野葉舟)
「活ける怪談 死霊生霊」(寺澤鎭)
「怪談 不思議物語」(神田伯龍(五世))「怪異草紙」(畑耕一)
「西洋の怪談」(牧緑人)
「変態心理」大正13年8月号 恐怖心理と怪談の研究(座談会「恐怖を感じた経験と印象」)

 いやはや、本書でなければ原書に当たるしかないような、今となっては幻としか言いようのないものばかり。それをこういう形で復活させてくれるというのは、毎度のことながら本当にありがたいことであります。


 …もっとも、純粋に怪談集として見た場合には、「昭和の…」以上に厳しいことは否めません。
 いかに怪談ブームの時代とはいえ、やはり短い大正時代、そしてメジャーどころを敢えて外した本書では、類話やそもそも怪談ではないものも数多く含まれている状況で、好事家としては「興味深い」としか言いようのないものが多い…というのが正直なところではあります。

 いや、実際に本書は、社会における怪談の受容やその変化という点から見ると、なかなかに面白い一冊であることは間違いありません。また、震災時に、武器を持った自警団に襲われそうになった話など、今となってみれば全く別の意味で興味深いものも含まれているのも目を引くところです。


 そして、それでもやはり面白い怪談が読みたかった…という向きには、畑耕一の「怪異草紙」がお奨めできます。
 怪奇を愛好する末に怪談会に辿り着いた一人の青年の目を通して当時の怪談事情とも言うべきものを描き出す中編小説(でよいのかしらん)「怪談」もさることながら、「踊る男」「奇術以上」「恐ろしい電話」の三つの短編が、一種の職業怪談として、今の目で見てもなかなかに個性的で面白い。
 特に喜劇役者が初日の前夜、稽古帰りの人気の絶えた町で出会った怪異を描く「踊る男」は、どこかユーモラスなシチュエーションが、一転不気味な世界に変わり、そして意外な結末に至ると、まず傑作と呼んで良いのではないでしょうか。


 さて、昭和、大正とくれば当然次は明治。ここまで来たのであれば、ぜひ明治編もお願いしたいところであります。

「大正の怪談実話ヴィンテージ・コレクション」(東雅夫編 メディアファクトリー幽クラシックス) Amazon
大正の怪談実話ヴィンテージ・コレクション (幽BOOKS 幽ClassicS)

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