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2013.07.07

「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」 クトゥルー+ギャングの伝奇ホラー再び

 1935年、ニューヨークでラッキー・ルチアーノと激しい抗争を繰り広げるダッチ・シュルツの背後には、奇怪な魔術の影があった。ある事情からルチアーノのシュルツ暗殺の依頼を引き受けた日本人青年・モトは、シュルツの秘密を探るため、叔父が入院しているという精神病院に向かうのだが…

 ここしばらく非常に元気なクトゥルー神話界隈ですが、個人的にその中で最も注目しているのは、創土社の「The Cthulhu Mythos Files」シリーズであります。
 日本人作家による神話作品を対象に、旧作の復刊から新作アンソロジーまで、実に読み応えのあるシリーズなのですが、その最新巻は「チャールズ・ウォードの系譜」。ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」にオマージュを捧げた三人の作家の作品が収められたアンソロジーであります。

 そしてその中でもこのブログ的に取り上げるべきは、1935年のニューヨークのギャングたちの抗争を背景に、暗黒神と奇怪な魔術の力を振るうギャング王ダッチ・シュルツとの戦いを描いた朝松健のアクション伝奇ホラーたる本作でありましょう。

 何しろ本作は、その仕掛け、オマージュとしての構造が凄い。
 古都プロヴィデンスを舞台にした忌まわしい妖術事件の顛末を描いた原典から、一転ニューヨークのギャング抗争を舞台にするというのは、飛躍も甚だしいようですが、しかし物語の背景に存在するのは原典の重要な構成要素であり、そして本作の物語自体が、原典の続編、後日譚という構造。

 さらに本作はラヴクラフトの別の作品レッドフックの恐怖」を受けた内容であり、そして作者が以前にアンソロジー「秘神界」に発表したクトゥルー+ギャングものの逸品「聖ジェームズ病院」の後日譚であり、さらに主人公は作者のクトゥルー+ナチスもの「邪神帝国」の一編に登場したあの…と、全編これアイディアと遊び心の固まりのような作品なのです。
(ちなみに「レッドフック」と「チャールズ・ウォード」は、ラヴクラフトにとってネガティブな記憶しかないニューヨークと、生涯愛したプロヴィデンスと、舞台となる都市の関わりという点ではある種の対比関係にある作品である点が興味深い)

 さらに邪神に挑む主人公チームの構成もまた見所の一つであります。
 やむを得ない事情からシュルツ暗殺行に加わることとなった謎の日本人青年・モトの相棒となるのは、死から甦ったという凄腕の南部ガンマン・ヴァージニアンと、後にローズマリー・ウッドハウスが住むことになるアパートに暮らす自称大魔術師アドリアン・マルカトー。
 上で触れた「聖ジェームズ病院」で邪神の魔力を操るギャングに挑んだのが、若き日のエリオット・ネスと邪神狩人マイケル・リー、そして米国放浪時代のあの大作家だったように、今回もまた実に個性的かつ豪華なメンバーではありませんか。
(ちなみに、シュルツを支える魔術とマルカトーのそれでは、流派(?)が明確に異なるという描写がなされているのが個人的には嬉しい)

 そんな彼らが挑む事件の詳細については、短編ゆえ深くは触れませんが、本作のクライマックスである精神病院での冒険――シュルツが毎週、何キロもの新鮮な肉を土産に見舞い、日に何ガロンもの輸血を行うという彼の叔父「J・C」氏との対決――は、作者一流の原典の料理結果として大いに堪能させていただきました。


 それにしても「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」という作品、神話体系との関わりは比較的薄いという印象がありますが、しかし一個の怪奇小説として見れば、古の魔術、怪異に魅入られた青年、古都に秘められた歴史、再生する死者と、様々な要素で構成された作品です。
 本作と、ここでは触れませんでしたが他の二作――立原透耶「青の血脈 肖像画奇譚」とくしまちみなと「妖術の螺旋」――が、その要素のどれを踏まえたものか…舞台や時代のみならず、その点によって、これだけ(原典ともまた)異なった印象の作品が誕生するというのも、実に興味深いことです。


「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」(朝松健 創土社「チャールズ・ウォードの系譜」所収) Amazon
チャールズ・ウォードの系譜 (The Cthulhu Mythos Files 6)


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