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2013.07.26

「てれすこ 大江戸妖怪事典」 妖怪収集活劇開幕!

 蘭方医の卵・栗木菊之助と岡っ引きの娘で見える体質の美江は、ある日不思議な空間に迷い込んでしまう。正体不明の蘭学者・稲毛外羅と霊獣・お咲に助け出された二人は、外羅先生の下で「大江戸妖怪事典」の完成を目指すことになる。妖怪を求めて江戸の怪事件を解決していく二人だが…

 最近はすっかり妖怪時代小説づいている朝松健ですが、この最新作も新たな妖怪時代小説シリーズの開幕編。幼なじみの少年少女が、妖怪を追い求めて江戸を駆け巡る、なかなかにユニークな作品であります。

 いきなり禁じ手かもしれませんが、本作を一言で表してしまえば、「大江戸ポケモン」でありましょう。
 というのも、二人が妖怪を求める理由は、妖怪を収集すること。そして一度お札に変えて捕らえた妖怪は、次に他の妖怪と戦う時に札から出して使役することができるのであります。
(さらに、二人を妨害するちょっとドジな二人組の男女も登場するのですが、それが二天玄信と佐々木岩藤という名前なのが愉快)

 しかしもちろん時代伝奇&ホラーで鳴らした作者のこと、一見水と油のような要素を巧みに絡み合わせているのが面白いのです。
 何しろ、主人公二人を妖怪収集の世界に誘うのが、稲毛外羅なる奇怪な名前の、そしてそれ以上に奇怪な言動の、博覧強記かつ正体不明の怪人。蘭学をはじめとしてあらゆる学問に通じる外羅先生のその正体は…というのが伝奇的には嬉しくなってしまうのですが、その目的が「大江戸妖怪事典」の完成というのもまた、人を食っていて楽しいのであります。

 しかし本作の最大の特徴は、ある意味妖怪をアイテム的に使う一方で、妖怪ホラーとしてきっちりと怖い点であるように私は感じます。
 全三話構成の本作に登場する妖怪の、妖怪が引き起こす事件の描写は、どれもなかなかに恐ろしい。奇怪な人々が集う夜祭りがいつまでも続く空間、通りかかった人間が次々と行方不明となる大樹の樹上の怪、行き会う人々に斬りつけ火を吹きかける祟り神…

 妖怪もの、それも収集要素のあるものと言うと、どこか可愛らしいモノが登場する印象があります(そしてもちろん管狐少女という可愛らしいマスコットキャラもいるのですが)。しかし、あくまでも基本は異界のモノ、普通であれば人の手に負えない存在として妖怪を描き出す点が、私には好もしく感じます。

 もっとも、妖怪たちや外羅先生、あるいは玄信と岩藤が個性的に映る一方で、主人公コンビのキャラクターが弱く見えるのは大いに残念な点であります。
 この辺りは、本作ではほのめかされるだけであった妖怪収集の真の目的――玄信と岩藤コンビの背後にいる存在と外羅先生の対立関係といった点と合わせて、今後掘り下げられるべき点ではありましょう。

 それでもなお、本作で描かれたコロンブスの卵的組み合わせは、やはり非常にそそられるものがあります。これからどんな妖怪が登場して、そして彼らはどんな能力を持つのか…妖怪ものとしてある意味最もプリミティブな魅力を本作は持っているように感じるのであります。

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てれすこ 大江戸妖怪事典 (PHP文芸文庫)

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