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2013.07.21

「鬼舞 見習い陰陽師とさばえなす神」 ギャグとシリアス、両サイドとも待ったなし

 好調の「鬼舞」シリーズも、短編集を含めて本作でついに10作目。ついに鬼たちの首魁が姿を見せた一方で、入内を巡る様々な勢力の思惑が絡み合い、その中で主人公・宇原道冬も翻弄されていくことになります。そしてその一方で、道冬の中に眠る力の一端が動き始めることに…

 前作のラストで、犬蠱に襲われた火の宮を救った道冬と安倍吉昌。しかし彼らにとって、その犬蠱の背後で糸を引いていたのが火の宮をライバル視する東三条の大納言の依頼を受けた同級生の父であることは知るよしもありません。
 ましてや火の宮を庇護する初雁の御息所が、既に鬼の一党に加わっていることも、以前に知り合った美少年・朱天が、その鬼の首魁・呪天であることも――

 一方、呪天に仕える鬼・茨木に敗れた渡辺綱は、先祖である源融と特訓のまっただ中。その特訓が怨霊の仕業と勘違いされ、調伏を依頼されたのが、姿を隠していた安倍晴明だったことから、事態はまたややこしい方向に転がっていきます。
 さらに以前調査のために堀川の中宮に女装して潜入した道冬は再び女装させられる羽目になったところ、彼も知らないうちに恐るべき企みに巻き込まれることになるのですが…

 というわけで、これまでも物語の随所で扱われていた帝の寵を巡る姫君たちの――いや、その後見人たる親の世代の暗闘が物語の中心としてクローズアップされ、道冬や吉昌、吉平たちは、その渦中に巻き込まれていくこととなります。
 普通であれば彼らは単なる学生、そのような世界に接することもないはずですが、吉昌と吉平は既に陰陽師としてその才能を発揮しつつあり、道冬は女装…ならまだしも、リアルとりかへばやと勘違いされて何故か中宮のお気に入りとなり――いやはや、この辺りの物語の(ギャグも絡めた)お膳立ては本当にうまい。

 本シリーズはもともと、ギャグとシリアスのさじ加減が絶妙で、ギャグをやっていたかと思えばシリアスな側面が顔を出し、シリアスであったと思えばギャグが乱入してきて…とある意味油断できない作品なのですが、平安もの王朝ものの定番である入内ネタをこうして――特に道冬本人に――絡めてくるとは、と感心いたします。

 そしてもう一つ、これ以上に道冬にとって、そしてこの物語にとって重要なのが彼の中に眠る謎の力であります。
 物語冒頭から、幾度か登場した謎の力――道冬の知らないまま発動し、鬼や魔物に対して絶大な効力を発揮するその力とは、一体いかなるものなのか? 今まで全くの謎であったものの一端が(ほんの一端ですが)ついに示されることとなります。

 入内を巡る争いが、道冬にとってはかなりの部分ギャグサイドだったのに対し、この謎の力の方は紛れもなくシリアスサイド。「また」主人公が黒堕ちするのでは…とこちらも大いに心配になるところですが、さて――


 本作のあとがきによれば、あと一、二巻で本シリーズは一段落とのことですが、それはおそらく鬼たちとの戦いと、そして道冬の秘密を巡る物語についてのことでしょうか。
 これほど面白い物語をまだまだ終わらせるのは惜しすぎる…と言うのは少々気が早いかもしれませんが、道冬を巡るシリアスとギャグ、光と闇がどのようにこの先展開し、落着するのかは、やはり大いに気になるところなのです。


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