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2013.07.16

「大岡の鈴 あっぱれ三爺世直し帖」 桁外れに桁外れを重ねた奴ら!

 揃って還暦の幼なじみの元中町奉行・坪内弥五郎、口入れ屋の隠居で岡っ引き・花坊主の伝兵衛、二階堂流平法道場の主・次郎左衛門の三人組。彼らの暴れっぷりに弱った大岡越前は、駆け出しの町方同心・早見慶之進に猫の首の鈴役を命じる。早速寺社でのぼや騒ぎと連続神隠し事件に乗り出す三人組だが…

 この作家の新作が出れば必ず読む、というのは本好きであれば必ず何人かいるかと思いますが、私にとっては柳蒼二郎がそれに当たります。他では見られないようなユニークかつ尖った伝奇的アイディアに、アウトローの誇りと悲哀を重ねた作風は、唯一無二のものとして実に魅力的なのであります。

 と、そんな作者にとって本作は異色作にも感じられます。わかりやすい副題からも察せられるように、本作は還暦を過ぎた三人の老人が、若い者顔負けの、いや若い者が及びもつかぬ行動力で暴れ回る、そんな作品なのですから。

 主人公となるのは、現役時代は「糸が切れて風に逆らって飛ぶ」と評された中町奉行、桜吹雪の法被がトレードマークの凄腕の岡っ引き、超マイペースながら凄腕の剣術遣い――いずれも一癖も二癖もある怪物揃いであります。
 若き日もそれぞれに活躍しつつも、還暦を過ぎて様々なしがらみから解き放たれた三人は、大岡越前から付けられた化け猫の首に鈴とばかりにつけられた(それゆえ「大岡の鈴」)駆け出しの臨時回り同心を振り回しつつ、更なる大暴れを繰り広げる…というのが、本作の基本設定です。

 そんな三人と一人が今回挑むのは二つの事件――寺社で頻発するぼや騒ぎと、すぐに子供が帰ってくる連続神隠し。どちらも事件性に乏しい、そもそも事件かも怪しい町の珍事に首を突っ込んだ彼らですが、やがて二つの背後に意外な繋がりと、哀しい人の想いの存在を知ることに…


 ご覧の通り本作は、文庫書き下ろし時代小説ではお馴染みのパターンの一つの老人活躍もののバリエーションであります。酸いも甘いも噛み分けた老人が、第二の人生として若い者にも負けない活躍を見せる…そんな内容の作品群は、主人公と同年代読者に一定の人気を博しているのですが――(比較的)若い読者層が読んで面白いかはまた別の話。
 一口に言えば、主人公となる年代層に対し、それ以外の層が読んで共感するかどうか――そしてその回答は多くの場合Noなのですが――という問題なのですが、しかし本作の場合、その問題とは無縁に感じられます。

 その理由は簡単、本作の主人公たちはあまりに桁外れな存在であって、その活躍に年輩者の願望充足的な臭いが薄いこと――それに尽きます。言い換えれば、どの世代から見ても、主人公たちの存在は非常に魅力的なのです。

 彼らは年寄りだから若い者に負けないのではありません。若い頃から桁外れで誰にも負けなかった連中が、そのまま年をとって縛るものをなくし、さらに桁外れになったのであります。
 そしてそんな彼らの姿は、実は冒頭に述べた、作者のこれまでの作品で活躍してきたアウトローたちの変奏曲であると気付きます。桁外れの存在であるがゆえに世の則から外れ、それ故にヒーロー足り得ながらも同時に滅びに向かうしかなかったアウトローたち。しかし彼らがアウトローでありつつも世の中に留まり、そして年を重ねた者ならではの深みを持ち、次の世代を導く存在となっていたとしたら――本作の主人公たちはそんな存在なのであります。


 もちろん、尖った伝奇性が本作にないのは個人的には残念ではあります。しかそれがなくとも本作は存分に面白いのです(逆に内容・文体ともエッジが取れて万人受けしやすくなったいえるかもしれません)。キャラクターの魅力は言うに及ばず、物語展開の捻りも、ミステリとしても人情ものとしてもなかなかに見事。特に読者の目から見れば関係あるとしか見えない二つの事件の間に微妙な不整合を用意して、そこにミステリと人情、二つの山が生まれるという仕掛けには唸らされます。

 作者がこれまで描いてきたもの、方向性を変えるのではなく、その魅力はそのままに装いを変えてみせた――本作はそんな作品なのであります。

 一つだけ難を言えば、主人公三人のうち、剣術使いの次郎左だけ出番が少なく感じられることですが、しかしそれはこれからのお楽しみということでしょう。もちろん登場するであろう、シリーズ続巻を今から楽しみにしているところであります。


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