「天を裂く 水野勝成放浪記」 風流児、放浪の中に人の情を知る
世の中には凄い人間というのがいるもので、そういう人間のオンパレードのような戦国時代においても、まだまだこちらを驚かせてくれる豪傑がいるというのは、喜ぶべきことでしょう。本作「天を裂く」の主人公・水野勝成も、まさにそうした豪傑の一人であります。
水野勝成は、古くから徳川家康に仕えた名門の出――というより家康とは従兄弟に当たる間柄。若くしてその剛勇を知られ、当時まだ存命であった織田信長から永楽銭の旗印を与えられた…といえばその程が知れるでしょう。
しかしこの勝成、相当のかぶき者――本作の言葉を借りれば「風流」――というよりほとんど無茶苦茶な人物。何しろ、本作で描かれた以下の事績がほとんど史実らしいというのですから、驚くべきか呆れるべきか…
・親子喧嘩の結果、勘当された上に奉公構を出される
・伝手を辿って秀吉に仕えるも怒りを買って命を狙われる(ちなみに本作では怒りに任せて大坂城を叩き壊したという理由)
・その後、仙石・佐々・小西・加藤・立花・黒田と名だたる面々の下で活躍するがすぐに放浪
・備後で陶工になっていたところを、土地の領主・三村家に18石で召し抱えられる
・ようやく徳川家に戻った直後に父が暗殺され、いきなり家督を継ぐ
・関ヶ原では大垣城を抑え、西軍にプレッシャーを与える
・戦後、誰も欲しがらなかった日向守の官名(かつての明智光秀のそれ)を喜んで受け取る
・大坂の陣ではかつて因縁のあった後藤又兵衛の軍を壊滅させ、大坂城に一番乗り
・譜代最高位の10万石で備後福山藩主となってかつて世話になった三村家を取り立て、善政を敷く
いやはや、波瀾万丈というのも生ぬるい、その孫があの水野十郎左衛門というのも大いに頷ける無茶苦茶っぷりなのです。
本作はそんな勝成の生き様を痛快に描く作品でありますが――しかし白状してしまえば、彼の放浪時代を描く前半辺りまでは、彼のキャラクターに魅力を感じなかったというのが正直なところではあります。
「風流」を旗印に暴れまくる青年時代の勝成ですが、彼自身は筋を通しているつもりでも、しかしその行動自体はどこまでも自分勝手で未熟、厳しい言い方をすれば田舎の不良が粋がっているようにしか見えない…という印象だったのです。
特に本作において勘当の原因とされる家臣殺害は、冒頭で否定的に描かれる森長可とどう違うのか…と
しかしもちろん、それは計算の上の描写であります。放浪の果てにとことん生と死を見つめ、武士としての己、人間としての己を見出した勝成の姿からは、物騒な「風流」好みはそのままながら、どこか余裕を持った人間味が感じられるようになるのであります。
本作の後半のクライマックスである関ヶ原の戦と大坂の陣において、どちらも彼らしい「風流」を尽くしながらも、しかし合戦全体を見据えてどこか一歩引いた(もちろんそれでいて思い切り目立ってはいるのがまた楽しいのですが)位置に立つ姿は、彼らしい成長の姿と言えるのではありますまいか。
振り返ってみれば、前半の彼は、「風流」を行っていても、そこに人の情はなかったと言えるでしょう。
もちろん、その大きなきっかけが、父の死と息子の誕生というのは、これは定番に過ぎると言うべきかもしれません。しかしそれだからこそよりこちらの胸に届くということはあるのだと感じますし――そこから彼が人の情に辿り着く姿は、実に感動的なのであります。
ちなみに本作の作者・大塚卓嗣は、第18回歴史群像大賞で佳作入賞して本作がデビューとのこと。歴史群像大賞はかなり長い歴史を持つ賞ですが、先日紹介した「洛中洛外画狂伝」の谷津矢車といい、若い才能を次々と発掘しているのは、時代もの・歴史ものファンとして心強い限りであります。
作者の次回作にも期待しましょう。
ただ、思い切り現代人風な登場人物の口調だけは最後まで馴染めなかった、というのも事実ではありますが…
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コメント
はじめまして。いつも楽しく拝見してます。
こちらのサイトのおかげでせがわまさき作品や風野真知雄作品に出会えました。
私は福山市民なのですが、「福山の歴史」という水野勝成のことが描かれた学習漫画がありまして
その漫画で昔から水野勝成のエピソードについては知ってはいました。
学習漫画なのでマイルドに描かれている所もあり、なにぶん小さい頃読んだので、
「ふーん」ぐらいにしか思ってなかったのですが、
こうしてあらためて一つ一つ紹介されているのを見ると、結構波乱万丈ですね、うちのお殿様。
そういえば、「鬼日向」というあだなが付いてたらしい、という話は
幼心にも中二っぽさを感じて痺れてたような(笑)
本屋さんでぜひこの小説も探してみようと思います。
これからの更新も楽しみにしています。
投稿: やうこ | 2013.08.03 16:14
やうこ様:
はじめまして。いつもご覧いただいているとのこと、本当にありがとうございます。
恥ずかしながら水野勝成については知らないことが多かったのですが、いや本当に面白すぎる人物です。
福山の方であれば、きっと普通以上に(?)楽しく本作は読めるのではないでしょうか。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
投稿: 三田主水 | 2013.08.11 01:00