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2013.07.25

「大唐風雲記 洛陽の少女」 開幕、時空縦横の大伝奇

 唐の首都・長安の夜を騒がす怪光。その正体を探る方術師の欧陽老師と弟子の履児の前に現れたのは50年も前に崩じたはずの則天武后だった。安禄山の蜂起により洛陽が陥落したのに怒って玄宗帝を動かそうと言う女帝に巻き込まれた履児たちは、時空を超えた冒険に旅立つことに…

 今まで読んでおらずまことに恐縮なのですが、ちょうど十年ほど前に電撃ゲーム小説大賞を受賞した本作は、中国は唐代の安史の変を背景とした奇想天外な冒険絵巻であります。

 北方の節度使として信頼を受けながらも、北方の異民族の力を背景に大規模な反乱を起こし、瞬く間に古都・洛陽を陥落させてやがて長安まで奪った安禄山。この乱の勢いの前に玄宗帝すら命からがら逃走し、その途上でかの楊貴妃が悲劇的な死を遂げたのは、有名な話であります。
 そしてその大乱の陰で繰り広げられた奇怪な冒険を描くのが本作。何が奇怪といって、その冒険に主人公たちを巻き込むのが、それよりも半世紀前に亡くなったはずの女帝・則天武后なのですから…

 もちろん(?)ここに登場する彼女が生身であるわけがありません。本作の則天武后は、永遠の眠りについてた洛陽が陥落したことで目覚め、そして無辜の民が反乱軍に虐殺されたことに怒りを燃やし、その犠牲者の一人である少女の亡骸に魂を宿したというとんでもない設定。
 はじめは自らの孫である玄宗を動かそうとした彼女ですが、当の玄宗は糖尿病でほとんど廃人状態、仕方なく彼女は、かつて自分も用いた竜導盤なる神器の力で援軍を求めんとすることになります。

 これだけでも奇想天外ですが、物語は後半いよいよスケールアップ。実は竜導盤に秘められた力とは、時空を超える力。果たして長安に迫る滅びの運命を変えられるか、物語は歴史改変ものとしての色彩を帯びることに…

 いやはや、このストーリーだけでもたまりませんが、登場するキャラクターも個性派ぞろいなのがなんとも楽しい。
 半人前の方術師で女性陣からいじられっぱなしの主人公・履児に、普段は飄々としながらも恐るべき術力を持ち、さらに何やら秘密があるらしい師匠の欧陽老師。彼ら(おそらく)フィクション組もいいのですが、何よりも史実組のアレンジっぷりがまたユニークなのであります。

 長安を追放されたはずが町の酒場で飲んだくれている大詩人・李白(玄宗を探すために今回は犬を憑依されるというヒドイ扱い)、則天武后の供として現れ、幽霊という力(?)を生かして活躍する上官婉児、嫋々たる美女という評判もどこへやらの心身共にたくましい女傑の楊貴妃…
 そして何よりも、女帝としての威厳と傲慢さは持ちながらも、戦で犠牲となる人々の存在に真剣に怒りを燃やす、本作の陰の主人公と言うべき則天武后の存在が実にいいのであります。
(そしてまた、唐代で最も有名であろう二人の女性、則天武后と楊貴妃を共演させてしまうという作者の豪腕に感嘆)

 本作のサブタイトルである「洛陽の少女」…それは先に触れた通り、反乱軍に惨殺された少女の体に――戦の悲惨さを体現する存在として――敢えて宿り、いかなる手段を使っても戦を止めんとする則天武后の姿を指します。
 果たして悲劇を回避するために歴史を改変することは許されるのか、いやそもそも可能なのか? その答えについてはここで詳しくは触れませんが、本作はあくまでも歴史ものとしての枠に留まっている、とだけ述べれば十分でしょう。

 いかにもこのレーベルらしい、コミカルなキャラクターのテンポの良いやりとりで物語を展開させつつも、しかし同時に歴史というものの重みを、そして戦を避けられぬ人の愚かしさ(さらなる犠牲の存在を暗示する、終盤のある人物の言葉がひたすら重い)を描く本作。
 会話などに普通にカタカナ語が出てくるのはさすがに気になりますが、しかしその見かけ以上に――そしてタイムスリップという案外厄介なアイディアを使いながらも――良くできた歴史活劇と言えるでしょう。


 そして何よりも、ある意味お約束展開を「過去は変えられなくとも未来は変えられる」という小さな希望に変奏して見せてくれるラストが実に美しく、それだけでも私は嬉しくなってしまうのであります。


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