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2013.07.11

「金田一耕助VS明智小五郎」 対決、名探偵VS名探偵

 本年放送予定のスペシャルドラマ「金田一耕助VS明智小五郎」の原作「明智小五郎対金田一耕助」をはじめ、横溝正史と江戸川乱歩が生み出した二大探偵を題材とした七つのパスティーシュを収めた芦辺拓による短編集であります。

 本来であれば別々の作品世界を、同一のものとして登場キャラクターが共演するクロスオーバーものというのは、たとえばヒーローものの世界などではお馴染みであり、私にとっても大好物であります。
 しかしヒーローといっても少々難しいのはミステリもののクロスオーバーではありますまいか。ルパンとホームズのようにそもそも対立する関係ならばともかく、私立探偵同士が共通の事件で「対決」するシチュエーションというのは、簡単なようで案外難しいように感じるのです。
 さらに言えば、本来一つの真実しか存在しない事件において、一方の推理が正鵠を得たものであれば、もう一方のそれは的を外れたということであり、それはどうしても外れた方のイメージダウンに繋がることになるでしょう。

 が、本書の巻頭に据えられた「明智小五郎対金田一耕助」は、その難題を軽やかにクリアしていきます。
 昭和12年の大阪で、店を並べながらも何代にも渡り対立を続けてきた二つの老舗。その一方の依頼を受けた金田一耕助の眼前で奇怪な事件が発生し、彼はその解決に奔走することとなります。
 一方、大陸から久々に日本に帰ってきた明智小五郎は、新聞で事件と金田一の存在を知り、興味を持つのですが…

 物語そのものの構造に関わるためなかなかに紹介が難しいのですが、本作で描かれるのは、確かに一つの怪事件に対し、金田一耕助と明智小五郎、二人の名探偵がそれぞれに解決に智恵を絞る姿。
 そして時系列的を金田一耕助シリーズ第一作たる「本陣殺人事件」直前に設定することにより、駆け出し探偵の金田一と既に数々の事件を解決した明智という関係を無理なく導き出し、それが本作の展開(特に結末)に見事に生きて、名探偵同士の「対決」から生じるジレンマを、かなりの程度クリアしているのです。

 そして、さらにトリッキーな形で二人の名探偵の「対決」を描き出してみせたのは、書き下ろしで収録された巻末の「金田一耕助対明智小五郎」であります。
 さる名家の人々を次々と襲う怪人・エリック張。神出鬼没の怪人に挑む金田一耕助ですが、彼の苦闘を嘲笑うように(毎度のことながら)犠牲者は増え続けるばかりで…

 と、一見いかにも金田一・明智が挑みそうな奇怪な事件を描く本作ですが、もちろん作者が単に形だけのオマージュを書くわけがない。クライマックスで描かれるまさに大どんでん返しを見れば、なるほど確かに本作は二大探偵の「対決」であり、そして先に述べた探偵ものクロスオーバーの難しさすら、巧妙に本作を成立させる必然性として利用しているのには、こちらはもう、「なるほど!」と唸るばかりであります。

 極めて近く、かつ限りなく遠い世界で活躍する二人のヒーローを共演させ、それぞれの魅力を引き出しつつ、そこにミステリとしての魅力と必然性を備えさせる。
 一見当たり前のようでいてしかし極めて困難なそれを成立させてみせた作者の業前には、ただただ感心させられた次第。


 そしてまた、決して忘れていけないのは、この二作に、いや、本作に収められた「《ホテル・ミカド》の殺人」「少年は怪人を夢見る」「黄昏の怪人たち」「天幕と銀幕の見える場所」「屋根裏の乱歩者」と、全ての作品に共通する、名探偵への、本格推理への、ミステリへの熱い想いでしょう。
 「明智小五郎対金田一耕助」での、これから名探偵への道を歩む金田一への明智の暖かい眼差し、そして「金田一耕助対明智小五郎」での、本格もの受難の時代での明智からの激励。
 そしてその他の作品もまた、名探偵と怪人たち、そしてそれを生み出してきた大作家――そして彼らが活躍したミステリという世界への深い愛情と敬意に充ち満ちているのであります。
(もっとも、想いが行きすぎて怨念が発露している部分もなきにしもあらずですが…)


 その装丁も含めて、横溝ファンには(もちろん乱歩ファンにも)必携の本書。
 以前創元推理文庫の「明智小五郎対金田一耕助」に収録された作品ともほとんど重なっていない(表題作と「少年は怪人を夢見る」のみ)こともあり、非常に価値の高い一冊だと感じます。


「金田一耕助VS明智小五郎」(芦辺拓 角川文庫) Amazon
金田一耕助VS明智小五郎 (角川文庫)

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コメント

収録作の「そしてオリエント急行から誰もいなくなった」
これは確かに登場人物(=作者?)の言うとおり、ポアロの「オリエント急行殺人事件」の解決はどうかと思いました。「オリエント急行に乗れるセレブのアングロサクソンの利益を守れば良いとでもいうのだろうか?」と他の方のブログでも批判されていますから。

投稿: ジャラル | 2013.07.14 13:12

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