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2013.08.18

さいとう・たかを版「水滸伝」 巧みにまとめられた一巻本

 先日来散々述べていることではありますが、今年は近年希に見る「水滸伝」の当たり年。その中心となっているのが中国ドラマの日本での放映にあることは間違いありませんが、それとリンクを取ってと申しましょうか、さいとう・たかを版の水滸伝が、全1巻のコンビニコミックとして復刊されました。

 このさいとう・たかを版の「水滸伝」は、世界文化社から全3巻の書き下ろしで刊行されたのを初出として、その後も何度か出版社や判型を変えて復刊してきた作品。それを1冊にまとめたのでありますから、相当にボリューム感のある一冊であります。

 さて、そのさいとう版の内容の方ですが、これがかなりオーソドックスなものになっているという印象。原典のストーリーを押さえつつ、大きく逸脱することなく、原典でいえば七十回本のラストである百八星集結まで描いているのですが…このダイジェストの仕方が、なかなかに巧みなのであります。

 というのも、冒頭で述べたように本作は一冊本、元の版を考えても3、4巻の分量では、話を追うのもなかなかに困難というのは、容易に想像がつくでしょう(ちなみに横山光輝版が文庫で全6巻、かなり原典に忠実な李志清版で全8巻)。

 それを本作は、史進や魯智深の登場から林冲の受難、生辰綱強奪に宋江の閻婆惜殺し、武松の活躍に江州での戦い、祝家荘戦に高廉との対決、呼延灼との決戦に曾頭市攻めと、ほぼ押さえるべき見せ場は押さえているのですから、これはまず見事と言ってよいのではありますまいか。
 もちろん省略された部分も少なくはなく、清風山でのエピソードは、宋江が到着した際には既に花栄と燕順が手を結んで反乱をおこしており、しかこ宋江は到着するなり弟の手紙を見て実家に帰ってしまうという展開。また盧俊義も、妻と番頭に裏切られて殺されかけたので梁山泊に助けを求めに来たというダイジェストぶりなのですが…

 もっともこの辺りはリライトには付き物であり、十分許容範囲なのですが…しかし水滸伝ファンに大きなインパクトを与えるのは、そのビジュアル面である、ということには触れないわけにはいきますまい。
 漫画版の水滸伝に対して、ファンがまず期待するのは、ストーリー面以上にビジュアル面、あの個性的な梁山泊の面々をどのような姿で描くかという点でありましょう。そしてその点において、本作は賛否分かれる可能性があります。

 言うまでもなく本作の作者はさいとう・たかを、ということは当然ながら登場人物の要望も、氏の劇画タッチのものであるわけで――実は原典通りとわかっていても、濃いめの髭面の中年男性が所狭しと乱舞するビジュアルには、衝撃を受ける方が少なくないのではありますまいか。
(呉先生は中年を通り越して老年でありますし…)

 しかし、美形度は低いものの、それぞれのデザインは原典を踏まえて個々のキャラクターが出たものがほとんどでありますし、「劇画」として見た場合に水準以上のものであることは間違いありません。
(個人的には、ラテン系の王英というのには、この手があったか! と感動すら覚えたのですが…)

 いずれにせよ、何度も述べたように、一冊本としては実に良くまとまった本作、初心者が概要を押さえるにはかなり良い作品ではないかと思います(そして水滸伝ファン的には、そのビジュアルを楽しむということで…


 ちなみに本作、公孫勝や戴宗が術を使う場面がなかったり、高廉の妖術がインチキだったりするのが目につくところ。ここだけリアル路線なのは、何かの意図があったのかどうか…いささか気になるところではあります。


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