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2013.08.16

「女忍隊の罠 おばちゃんくノ一小笑組」 旗本と外様、武士と忍び、鬱屈に縛られた中で

 久々に江戸を訪れた公儀公伝方、通称「小笑組」の一員で柳生新陰流の使い手・百地勇馬は、旗本衆と外様大名の間で互いの悪評が流され、双方の間の緊張が日に日に高まっていることを知る。探索の末、その背後に「乱花隊」なる謎のくノ一集団がいることを掴んだ勇馬だが、その身に罠が迫る…

 柳生ものを得意とする多田容子のユニークな忍者もの「おばちゃんくノ一小笑組」の第2弾です。

 「小笑組」とは、情報戦を得意とする秘密部隊。徳川家に仕え、何者かが流した徳川幕府への悪評を打ち消すことで、天下太平を守るという任を課せられた隠密集団なのであります。
 第1作目においては、徳川家にとってはアウェーである大坂で、幕府の悪評を流す背徳組なる集団の陰謀を打ち砕いた小笑組ですが、本作の舞台は将軍のお膝元である江戸。さすがにこの江戸で幕府の悪評を広める者はいるまい…と思いきや、また別の形で幕府の屋台骨を揺るがそうとする者が現れるのです。

 どの敵が狙うのは、徳川家の旗本と、外様大名の間の亀裂を深めること。名誉はありつつも実際の力は小さい旗本。力はありつつも、あくまでも一段低く見られる外様大名――両者の確執が史実の上でも存在し、その一つの顕れが、荒木又右衛門の鍵屋の辻の仇討ちであったというのは、時代ものファンであればご存じの方も多いでしょう。
(ちなみに本作においては、まさにその又右衛門が小笑組の一員として活躍するのが面白い)

 その点を突き、それぞれに相手への敵意を少しずつ吹き込み、やがて決定的な爆発を起こそうとする――決して正面からではなく、あくまでも噂や示唆の形でネガティブな感情を煽っていく敵、乱花隊の姿は、まさに小笑組とは一対の相手と申せましょう。

 そんな両者の対決が興味をそそる本作ですが、もう一つユニークなのは、そこに柳生新陰流の当主の長男である七郎にスポットが当てられることでしょう。
 七郎、言うまでもなく後の名は柳生十兵衛は、作者がこれまで描いてきた幾多の柳生ものの中でも、最も数多く描かれてきた人物であります。しかしながら、本作で描かれるその姿は、粗暴で我が儘勝手に暴れ回る一種の不良少年。なぜ七郎がそのような人間となったのか、何を抱え込んでいるのか――堅く抱え込んだ彼の鬱屈を、小笑が溶かしていくことになるのです。

 そう、本作の物語の陰にあるのは、それぞれの人間が抱える鬱屈――己が己として自由に生きられぬこと、己の価値が他者に認められないことへの満たされぬ想い。
 本作で描かれる旗本と外様の対立、七郎の暴走は、その原因も影響も全く異なるものながら、共にその鬱屈に支配され、押し潰されたが故のものなのです。

 そして終盤で明かされる敵の正体と目的は、彼女たち自身もまた、その想いに縛られていたことを示すのであります。さらに言えば、本作の主人公であり、忍びと剣士の間で揺れ動く勇馬もまた…敵も味方も、利用した者もされた者も、誰もが鬱屈に縛られた戦いとは、何と哀しいものでありましょうか。


 徳川幕府による支配体制――それが固まる直前の混沌の中で、揺れ動く人々の心を、ユニークな忍者ものの形で切り取ってみせた本作(時にそこにジェンダーの問題も絡むのがまた面白い)。
 前作に比べると、柳生サイドの描写があった分、小笑組の存在感が薄れている点は少々残念ではありますが、本作でなければ描けない世界を見せてくれた点は評価できます。

 相変わらず道に迷いまくっている姿がなんとも歯がゆい勇馬――もちろん彼の姿は、本作で描かれる人間像の象徴であるのですが――がこの先どこに向かうのかも含めて、次が気になって参りました。


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