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2013.08.29

「神変八咫烏」 謎の怪剣士、日光に翔る

時は幕末、幕府側の秘密結社卍組の首領・汐見田一笑は、兵学者・市瀬右有斎の秘書を用いて巨大な陰謀を企んでいた。右有斎の娘・お妙を人質として狙う卍組の前に立ち塞がった若侍・長門小次郎。彼こそが、江戸を騒がす勤王の士「八咫烏」なのか? 日光に舞台を移して続く八咫烏と卍組の死闘の行方は?

 大好きな作家である角田喜久雄作品の中で、本作は何となく今まで読んでいなかったものの一つ。幕末の江戸から日光を舞台に、神出鬼没の快剣士・八咫烏と、秘密結社・卍組が火花を散らす大活劇、なのですが…

 本作の物語の中心に在る謎の剣士・八咫烏。彼こそは、その正体は全く不明ながら、黒羽根の矢とともにどこからともなく現れ、勤王の士として剣を振るう、黒衣の剣士。谷中天王寺にある天狗杉に願を掛ければどこからともなく現れて助けてくれるという噂まで流れる謎の人であります。
 一方の卍組は、高まる勤王の動きを抑えるために幕府肝いりで作られた秘密結社。しかしその実体は、首領の汐見田一笑と息子の隼人の下に集められた私兵団であり、その傍若無人ぶりには、幕閣も苦慮している…と、そういう構図であります。

 物語はこの両者の対立を中心に展開していくわけですが、それを彩る登場人物たちも多士済々、築城術の秘伝「築地図録」を著したために卍組に狙われる市瀬右有斎と娘のお妙、彼女を守る京からやってきた美剣士・長門小次郎に、隼人に矢職人の父を殺された小万。卍組の怪剣士・法川左近次に、卍組に加勢する渡世人の瀬田の巻太郎。日光山族の頭領の娘・お光に御普請奉行牧野越中守配下の隠密・柴田柴之助――
 そして彼らが入り乱れて争う先にあるのは、日光山中に築かれる謎の城!


 とくれば、これはもう角田喜久雄ならではの一大時代伝奇となるはずなのですが…いやはや、とにかく展開が早い、早すぎるのであります。
 もとより私はスピーディーで起伏の多い物語は大いに好むところですが、本作はそれがあまりに慌ただしく、荒っぽい。本作は角田作品にしては相当にボリュームが少ない作品であるものの、まさかそのためとも思えませんが…

 さらに言えば、角田作品の大きな魅力である緻密な謎解きや、(主に悪役の)キャラクターのねちっこい描写も、本作には乏しいのが寂しいところ。
 一応、八咫烏の正体の謎解きという要素はありますが、これもほとんどの読者がすぐに気づいてしまうようなもので…

 決してつまらないわけではないのですが、しかし角田喜久雄の作品としては食い足りない…うるさいファンの迷惑な言いぐさではありますが、正直な印象であります。


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