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2013.08.02

「水滸伝丸わかり」と「水滸縦横談」 横光水滸伝と二つの水滸伝本

 最近、「水滸伝が来てる! 来てますよ!」と騒いでいる三田さんですが(それはいつも))、冗談抜きで色々とアイテムが発売されているのは嬉しい限り。今回はその中でも横山光輝の「水滸伝」に関連する二点を紹介しましょう。

 まず一点目は、韓流時代劇解説本などが多く出版されているじっぴコンパクト新書で発売された「痛快無比の面白さ! 空前絶後のド迫力! 水滸伝丸わかり」であります。

 一口に言えば水滸伝解説本の本書ですが、面白いのは、その題材となっているのが横山水滸伝であるという点でしょう。
 これまでも水滸伝解説本は色々とありましたが、ベースが横山版――それも、文庫版以降の巻割りにそのまま従って――というのはもちろんこれが初めてでしょう。

 横山版は、言うなれば原作の抄訳とも言うべき内容でありますが、なるほど、その内容を語るということは原典の要約を語るということ。もちろん、きちんと許可を取っているため横山版の図版をそのまま使えるというのは――特にキャラクター紹介において――大きなアドバンテージでしょう。
 構成的には水滸伝本定番のストーリー紹介&百八星紹介ですが、さらにその他の水滸伝リライト紹介も掲載されているのは初心者には親切な構成と言えます。

 …が、本書には根本的な疑問として、「最初から横山水滸伝を読めばいいのではないか」というのがあるのもまた事実。また、抄訳とはいえ改変も少なくない横山水滸伝の内容と原典のそれとの違いを明記していない――さすがに原典での秦明の悲劇が横山版では黄信に置き換えられている点は解説されていますが――のは、後で混乱が生じないかな、とは思います。

 また、これだけ横山水滸伝をメインにしつつも表紙や口絵が正子公也というのも(まあ仕方ないという気がしますが)ちょっと不思議で、全般的に中途半端な印象が拭えない、というのも正直なところではあります。
 その辺りを踏まえれば、本書は水滸伝に触れるのはほとんど初めて(たとえば、今回のドラマ版で初めて)という方向きでしょうか。


 さて、もう一冊は、井波律子の「水滸縦横談」であります。井波律子といえば中国文学研究の第一人者、特に三国志ファンにとってはお馴染みの名前かと思いますが、その作者がさてどのように水滸伝に切り込むか――と思えば、これがやはりというべきか、なかなかにユニークなアプローチとなっています。

 というのもこの「水滸縦横談」は、「「豪傑たち」をめぐって」「「梁山泊」をめぐって」「『水滸伝』の魅力をめぐって」と、全体を大きく三章に分け、さらにそれぞれを数編~十数編に分けたそれぞれにテーマを決めて解説するというスタイル。
 水滸伝解説本と言えば、先に挙げた「水滸伝丸わかり」のようにストーリー概説か、百八人の解説(もしくはそれらの組み合わせ)がほとんどであり、本書のようなテーマ形式のみで解説したものは、かなり珍しいのであります(もしかすれば、光栄の「爆笑水滸伝」まで遡らないといけないのかも…)。

 しかし、ユニークなスタイルの本書ですが、全体から受ける印象は想像以上にライトであるのに驚かされます。個々の用語について数ページ、という分量もありますが、良くも悪くも深い掘り下げではなく、かなり概説に近い印象があるのです。厳しい言い方をすれば、水滸伝ファンであればお馴染みの内容…そうした印象すらあります。

 もっとも、この点は、本書の成り立ちに拠る部分が大きいものと思われます。
 もともと本書は、横山水滸伝の決定版単行本発売時に、出版社のサイトでコラム形式に連載されていたもの。つまりは、横山水滸伝の(直接では全くないにせよ)解説、あるいは補完的内容となっているのであります。

 その意味では、本書もまた、水滸伝初心者向けの一冊とは言えるでしょう。しかしながら、第三章に収録された「水滸語りと水滸劇」「『水滸伝』と他の白話長編小説」などのように、「水滸伝」という小説作品そのものの成り立ちをここまでわかりやすく語ってみせたのは作者ならではで、この点で類書と一線を画しているといえるでしょう。


 横山光輝の「水滸伝」という作品をきっかけに生まれたある意味対照的な二冊の水滸伝本。
 水滸伝の世界を物語の流れや登場人物といった縦軸から描くか、作品を構成する様々な要素といった横軸から描くか――どちらも初心者向け的性格の強いものが、しかし水滸伝に対して対照的なアプローチを取っていることが、個人的には非常に興味深く感じられるところであります。


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コメント

横山先生の「水滸伝」ですが、何せ資料が入手しずらい時代(日中国交回復前で、台湾は政変時)だったので、有名な呼延灼の双鞭が中国の打撲武器ではなく、文字通りの「二本のムチ」として描かれていますね。まあ「三国史」の趙雲も中国では美形キャラクターですが横山版ではオッサンになっていますから(笑)。

投稿: ジャラル | 2013.08.03 19:41

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