「鏡の欠片 御広敷用人大奥記録」 最強の助っ人!? 女の覚悟と気迫を見よ
金の世界の次は女の世界、幕政の暗部との戦いを強いられ続ける水城聡四郎の苦闘を描く「御広敷用人大奥記録」シリーズの最新巻は、吉宗が綱吉の養女・竹姫を正室に望んだことから生じた波瀾がいよいよ本格化、聡四郎のみならずその妻・紅もその渦中に飛び込んでいくこととなります。
徳川綱吉の養女となりながらも、二度にわたって輿入れ前の相手に死なれ、大奥で「忘れられた姫」となっていた竹姫。吉宗がその彼女に本気で惚れた――それ自体はもちろん結構なことですが、しかし吉宗は大奥改革の真っ最中であり、その動きを封じるために大奥自体が躍起になっていたとなれば、話は別であります。
そこに次の将軍位を狙う館林松平家、さらにもはや意地となって聡四郎の命を狙う(御広敷)伊賀者たちが絡み、いよいよ事態は混迷の度合いを深めていくこととなります。
何しろ本作で描かれる事件の多くは大奥の中で起きるもの。聡四郎が、いや吉宗ですら直接には手出しできない世界において如何にして竹姫を守るかというのはかなりの難題。
しかも、竹姫を害しようとする明確な動きがあれば格別、大奥側の使う手段は、搦め手――外部からの買い物を認めない、外部との手紙のやりとりを妨害するなど、実にせせこましい、しかし大奥という閉鎖空間ではかなり効く手段なのですから…
前作同様、今回もいささか精彩を欠く聡四郎なのですが(次々と無茶を言う吉宗相手にむくれる姿はなかなかに楽しいのですが)、ここで意外な助っ人と言うべきか、大活躍を見せるのが、彼の妻である紅というのが実に楽しい。
「勘定吟味役異聞」の中で聡四郎と出会い、結ばれた紅。元は口入れ屋の娘であった彼女は、将軍就任前の吉宗の養女となり、水城家に嫁いだのですが――すなわち彼女は吉宗の娘(そして聡四郎は娘婿)ということになるのです。
つまり、正室も側室もいない大奥においては彼女が形の上では一番の格上であり、制限はあるとはいえ、大手を振って大奥に入れる身分。それを最大限に生かして、彼女は竹姫の話し相手という名目で、大奥に顔を出すことになります。
もちろん、大奥という世界は、形式上の格だけが通じるわけではありません。しかし彼女の場合、元々は口入れ屋の娘として、大の男たちをアゴでこき使ってきた女傑。今ではすっかりおとなしくなりましたが、かつては聡四郎を散々に口でやりこめてきたのですから…
と、そんな彼女の荒くれヒロインぶりが今回久々に炸裂。地位と権力を嵩に着る大奥の女たち相手に一歩も引かぬどころか真っ向から渡り合い、久々に(散々聡四郎にぶつけてきた)「あんた馬鹿?」も飛び出すのですから、実に痛快なのです。
女の世界なのですから、女性が活躍するのはある意味当然といえば当然なのですが、こういう形で紅が覚悟と気迫を見せて活躍してくれるというのは、全く以て嬉しい驚きであります。
正直なところ、物語展開自体はかなりスローペースで、聡四郎を狙う刺客のエピソードも、そこまで引っ張らなくても…とは感じるのですが、しかしそれでもこうして新しい展開を用意してくるのはさすがと言うべきでしょう。
本シリーズもこれで第4巻。前シリーズである「勘定吟味役異聞」が全8巻でしたから通算12巻というわけで、これで上田作品中最も長く活躍することとなった聡四郎。
本作も実に気になる形で「つづく」となっており、やはり気になるシリーズなのであります。
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