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2013.09.03

「表御番医師診療禄 2 縫合」 幕政の闇に挑む国手となれ!

 ふとしたことから堀田筑前守正俊が江戸城中で斬殺された事件を調べ始めた表御番医師・矢切良衛。事件の背後に、老中たちの策謀があることを悟った大目付・松平対馬守は、良衛を動かして真相を掴もうとする。良衛の探索の果てに浮かび上がる徳川将軍位を巡る暗闘。果たして真の黒幕とは…

 上田秀人の新シリーズ「表御番医師診療録」の第2弾「縫合」が発売されました。
 これまでも様々な幕府の役職が主人公となっている上田作品ですが、本作の主人公・矢切良衛は、タイトルにあるように表御番医師――いわば江戸城の当番医師が探偵役となって、江戸幕府最大の謎の一つに挑むこととなります。

 大老・堀田筑前守正俊が江戸城中で若年寄・稲葉石見守正休に斬殺され、その石見守も他の老中たちに斬り殺されたという大事件。に、正俊を診察したのが、外道(外科)ではなく、本道(内科)の医師であったことに疑念を抱いたことから、良衛は思わぬ事件に巻き込まれて…というのがいわば前後編の関係にある第1作「切開」と本作の物語であります。

 最初は好奇心と、外科では幕府一と密かに自負する自分が呼ばれなかったことに対する反発から事件を追い始めた良衛ですが、事件の闇はなかなかに深い。
 幾度も謎の敵の刃をくぐり抜ける羽目になりながらも、未だ事件の真相には至らず――というところで終わった前作ですが、その真相がいよいよ解き明かされるので明かされることとなるのです。

 衆目の前で行われた上、犯人もその場で殺害され、ある意味事件としては完結している正俊殺し。
 しかし、何故正俊が殺されなければならなかったのか、そして何故正休も殺されたのか――

 今なお真相不明であるこの謎に切り込むのが、本来であれば事件捜査とは無縁な、しかし人の生き死にに密接に関わる医師というのが(前作の感想にも書きましたが)実に面白い。
 正俊の死という結果は覆せずとも、その死を遅らせることはできたかもしれない。そしてそれによって明らかになる真実があったかもしれない――これは、医師を主人公にしたからこその視点でありましょう。

 そしてここで語られる「真相」も、なかなかに意外かつ、説得力十分なもの。
 この事件が起きた貞享元年がどんな時期であったか、そして幕政において堀田正俊がどんな役割を果たしたのか…その点に着目して描かれた「真相」は、ある意味実に作者らしいものではありますが、権力と向かった者たちの心の底にあるものを剔抉してみせるのは、作者自家薬籠中の物と言うべきでしょう。

 作者らしいといえば、本作の物語展開や人物配置は、あまりに作者らしい、らしすぎると感じる方も少なくないかもしれません。
 その点は確かに否めませんが、しかし、表医師という役職――幕府に仕える医師でありつつも、諸藩からの扶持を得ることも可能であり、そして市井の民の診察も行うというユニークな立場を主人公に据えたのは、やはり見事と言うべきでしょう。
(さらに言えば、医学的知識を生かした良衛の超実戦剣術描写もまたお見事)


 さて、「切開」された部分は「縫合」され、堀田正俊殺害事件の謎は解けましたが、まだまだ深い幕政の闇。これほど派手な事件はなくとも、まだまだ表医師の出番はあることでしょう。

 作中、大目付・松平対馬守(上田作品名物の口は出すは手は貸さない上司)は、良衛に「国手」――すなわち、「人」ではなく「国」を治す名医となれと諭します。この発言自体は、多分にはぐらかしというか押しつけめいたものではありますが、しかし、良衛のこれからの指針になる言葉やもしれません。
 国手の誕生を祈りつつ、シリーズの続刊にも期待しましょう。


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