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2013.09.15

「大唐風雲記 2 始皇帝と3000人の子供たち」 二人の皇帝、二つの思想

 長安に迫る安禄山の反乱軍から民を守るための方策を探る即天皇帝の命を受けて、秦の始皇帝の地下宮殿を発見した方士見習いの履児。そこで始皇帝の亡霊と出会った履児たちは、始皇帝の依頼を受けて彼が生きていた時代に飛ぶことになる。しかし履児たちがそこで見たものは、始皇帝の邪悪な野望だった…

 唐末期の安禄山の乱を背景に、時空を超えて展開する奇想天外な活劇を描く「大唐風雲記」の第2弾であります。
 乱の中で死んだ少女の身を借りて現世に甦った即天皇帝と、彼女に振り回される形で巻き込まれた方士見習いの少年・履児と、酒場の看板娘の麗華、即天皇帝に仕えた美女で今は幽霊の上官婉児、酔いどれ詩人の李白と心身ともに逞しい楊貴妃…
 そんな個性的な面々が、謎の神器・竜導盤の力で時空を超え、長安を救うための援軍を求めることに――

 というのが前作のあらすじ。それを受けた本作では、引き続き長安を救うための冒険が繰り広げられる…はずが、事態はとんでもない方向に進んで行くことになります。
 安禄山の軍が到着した際に、長安の人々を脱出させるための方策を探しているうちに、始皇帝の地下宮殿を発見した履児たちですが、そこで伝説の金人に守られていたのは、なんと始皇帝その人の亡霊。
 魔力で動くという十万の陶器の兵士の力を貸すことの条件に、始皇帝から行方知れずの徐福の行方を捜してほしいと依頼された履児たちは、約千年の時を遡り、始皇帝の泰山封禅の儀の場を目指すのですが…

 泰山において天と地を祀り、天下太平を感謝するという封禅の儀式は、それを行うことができるのが皇帝のみである=皇帝の証であるということもさることながら、伝説の三皇五帝の時代に始まり、始皇帝の時代には既に儀式の知識が失われていたというミステリアスな存在であり、大いに興味をそそられます。
 それを本作においてどのように描いたか…それは伏せておきますが、ここでサブタイトルの「3000人の子供たち」の存在を知った則天皇帝と履児一行は、一転「当時の」始皇帝の邪悪な野望を砕くために戦いを挑むこととなるのであります。

 始皇帝の助けを借りるためにタイムスリップしながら、その始皇帝に戦いを挑むというのは目的を見失っている感もあります。
 しかし、そもそも則天皇帝が現世に現れたのが、乱によって無辜の民、それも力なき子供たちの命が奪われていくことに怒りを覚えたためであったことを考えれば、たとえ相手が誰であれ、己の目的のために子供の命を利用せんとするものを見過ごせないというのは、ある意味当然でもあります。

 すなわち本作は、ノーブレス・オブリージュを掲げた則天皇帝が、それを持たず、天下万民すら己の道具とせんとする始皇帝に挑むという、異なる思想を持った二人の皇帝の対決の物語、と言えるかもしれません。
 そして「現代の」始皇帝の姿は、その顛末を皮肉な味わいで彩ってくれるのであります。


 …が、物語としてみれば、話が横に逸れたまま終わってしまった、という印象が強いのもまた事実。結局長安の民を救うという目的はどこにいったのだろう、という気持ちはどうしても残るわけで、その辺りは、まだ先があるシリーズものとしての枠組みに寄りかかってしまったなあ、という不満は感じるのであります。


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