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2013.09.14

「黒鷺死体宅配便スピンオフ 松岡國男妖怪退治」第3巻 そして彼ら自身の事件に

 久々に登場の「松岡國男妖怪退治」第3巻であります。「黒鷺死体宅配便」のスピンオフとは冠しているものの、内容的にはほとんど完全に独立して、松岡國男=柳田國男と田山花袋を主人公とした明治伝奇譚といった趣のユニークな作品となっております。

 松岡&田山の凸凹コンビと田山の弟子の岡田美知代、それに生臭坊主の笹山と霊能少年・やいちの五人が、各地で起きる奇怪な事件に首を突っ込んでは大騒動を繰り広げる本作ですが、作中時間も少しずつ進み、この巻で描かれるのは明治40年代初頭。
 松岡と田山の事績をご存じの方であれば、「おっ」と思われるかもしれませんが、この時期には、彼らの生涯において一種のターニングポイントとなった作品が発表されております。

 当然本作においてそれが見過ごされるはずもなく、この巻に収められたエピソードは、それらの作品と、そして松岡と田山という人間と密接に関わるものとなっているのが特色と言えるのではないでしょうか。

 まず冒頭に収められた前後編とも言うべき「鬼の子孫」「雪国の春」で描かれるのは、岩手県遠野を訪れた松岡らが、鬼の子によると思われる殺人事件の謎に挑むエピソード…と、松岡でこの舞台とくれば、当然連想されるのは「遠野物語」。
 松岡が友人の水野葉舟(既に本作には登場していますが)の紹介で遠野出身の佐々木鏡石(喜善)と出会い、彼の語る遠野の民話をまとめたものが「遠野物語」ですが、そこに殺人事件と、さらにとんでもない妖怪たちの跳梁が絡むのが、いかにも本作らしく、それが遠野物語の誕生秘話として立ち上がってくるのがなかなかに楽しいのです。

 そして松岡に対し、田山の方がこの時期に著した代表作といえば、そう「蒲団」。田山が弟子の岡田美知代に失恋した経験を踏まえた私小説であるこの作品は、国語の時間に習って皆ドン引きしたのではないでしょうか…というのはさておき、上で触れたように美知代は本作のヒロイン的扱いであり、田山のいつその辺りが本作で描かれるか、気になっていたところであります。
 その「蒲団」の前日譚というべきか、要するに田山の失恋を描いたのが「妹の力」なのですが…これがまたとんでもないお話。

 東京を騒がす若き文学者たちの奇行――人死にすらでたそれは、彼らが有栖と名乗る少女と出会い、惹かれていったことに原因がありました。美知代の恋人も有栖に取り憑かれたと知り、松岡たちは有栖を追うのですが、田山までも憑かれたようになって…
 と、田山の失恋を題材としつつ、文学者たちの心を奪う怪少女の跳梁を描く本作。その正体はなんと…! と思いきや、さらにそこにとんでもないオチ(しかも物語の登場人物と決して無縁ではない)を用意してくるのには、ただ呆れ…いや感心するばかりであります。

 しかしそんな中でも、普段は決して見せないような、田山への松岡の(ツンデレめいた)心遣い、信頼の情が描かれているのが、また心憎いといいましょうか…

 そしてラストの「幽冥談」には、ある意味二人のルーツともいえる人物、二人の師であった桂園派の歌人・松浦辰男が登場。この松浦の下で松岡と田山は出会ったのですが、死の床にあった松浦が二人に遺したものとは…
 と、ちょっと良い話のようでいて、久々に(?)豪快なオカルト伝奇三題噺といった趣のこのエピソード。まさかツングースカ大爆発に「天狗の話」、五稜郭と×××が絡んでくるとは予想もできませなんだ。
 内容的には大いに無理があるお話なのですが、その意外すぎる取り合わせと、話のまとめ方のうまさで、何となく凄いもの見た…と思わされてしまうエピソードであります。


 と、松岡と田山個人にまつわるエピソードで構成されたこの第3巻。
 既刊では、その内容のぶっとんだ取り合わせばかりが印象に残って、物語面には正直なところ不満がないわけではなかったのですが(その意味では「幽冥談」はこれまでのエピソード的なものを感じましたが)、この巻では、二人が怪異に絡む必然性をうまく導き出していたと感じます。
 さてこの先のエピソードではどうなってくるのか、今から気になるところではあります。


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