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2013.09.27

「悲華水滸伝」第3巻&第4巻 そして希有の世界へ

 第2巻の紹介からずいぶんと間が開いてしまいましたが、杉本苑子の「悲華水滸伝」の第3巻・第4巻であります。諸般の事情で2巻まとめて紹介いたしますが、この2巻の間に物語りは目まぐるしく変転、梁山泊とそこに集う百八人の好漢たちに、巨大な運命の変転が訪れることとなります。

 まず第3巻ですが、前巻の終盤で始まった呼延灼戦に始まり、ここで描かれるのは梁山泊の存亡をかけた戦いの数々であります。
 呼延灼戦、曾頭市戦、さらに関勝や董平と張清ら官軍の生え抜きたちとの幾度にも渡る戦い――その最中には晁蓋が命を落とし、盧俊儀が梁山泊に迎えられ、そして数々の好漢が梁山泊に加わることになります。
 そして驚くべきことに、この第3巻のラストで、梁山泊に百八星が集結することになります。

 私が何に驚いているかといえば、この百八星集結が相当に早い時点であることであります。大まかに言ってしまえば原典の100回本をベースとしている本作ですが、その原典に照らせば、この第3巻の時点で70回までを消化したということになります。
(ちなみに大まかにいえば、第1巻は原典の34回まで、第2巻は原典の55回までを消化していることを考えれば、これでも消化速度は徐々に遅くなっているのですが…)

 それでは全5巻の残る2巻で何が描かれるかと言えば、それはもちろん原典の残る30回分――朝廷の招安を受けた梁山泊の帰順と、遼国との、そして方臘との戦いが描かれることとなります。
 が、これが実は、我が国でリライトされた水滸伝においては――小説・漫画等、メディアを問わず――非常に珍しいのであります。というのも、ほとんどの水滸伝においては、百八星集結までは時間をかけて描かれるものの、それ以降の物語については大変な駆け足で描かれるものがほとんど。大抵の水滸伝では、ラスト一章程度で梁山泊の最期を描いてしまうと言っても、過言ではありますまい。
(それどころか、百八星集結の時点、あるいはそこまで行かずに終わるものも少なくないのですから…)

 それを考えれば、全体の約四割を費やしてその後の梁山泊を描く本作は、希有と言ってよいでしょう。実のところ――色々とアレンジが加わっているとはいえ――方臘戦をきっちりと描ききった水滸伝リライトは、現時点ではほとんど本作のみではありますまいか?

 以前、本作の特徴として、そのスピーディーな展開を挙げたことがあります。その点については、後半に入るにつれてスピードは落ちていくのですが(再び原典と比較すれば、この巻のラストでほぼ91回辺りであります)、それはあるいは、この後半の展開を描くためではなかったか、と私には感じられます。

 原典において、百八星集結以降は、それまでに比べて一段も二段も劣る、というのが、ある種定説となっております。それまで好漢一人一人の生き生きとした活躍が描かれていたものが、戦争の連続の中で埋没している。官に背き、自由のために集った好漢たちが、朝廷の走狗となってしまっている。そして何よりも、百八星たちの大半が命を落とし、梁山泊が滅んでしまう…
 なるほど、世の水滸伝リライトで後半部分がオミットされるのも、単純に分量の関係ではないと納得はできます。

 しかし――本作はこうした後半の内容と、それに対する批判を踏まえた上でそれを完全に己のものとして消化し、真っ正面から梁山泊の変質と百八星の最期を描こうとしていると――そして、それを描くために必要なだけのボリュームとして、全体の四割を必要としたのではないか…そう感じるのであります。

 本作で水滸伝の上に冠された言葉、悲華。梁山泊の滅びという悲しみの中に咲く華を、本作が如何に描くか――その答えを記した最終巻も、近日中に紹介したいと思います。


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