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2013.09.16

「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(その一) 怪異の中の現実と虚構

 実力派作家陣による、ユニークかつ内容豊かな作品揃いのアンソロジー、「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」の最新巻は、「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」――H・P・ラヴクラフトの「宇宙からの色」の世界に、あの名探偵シャーロック・ホームズが挑むという、伝奇者にもたまらない一冊であります。

 「宇宙からの色」(もしくは「異次元の色彩」)は、1882年にマサチューセッツ州アーカム郊外に落下した隕石がもたらす恐怖を描いたラヴクラフトの短編。隕石から現れた「色」が周囲のあらゆるものを浸食し、変容させていくという静かな恐怖の様が印象的で、私も大好きな作品です。
 そしてホームズは言うまでもなくあのコナン・ドイルが生んだあの名探偵であります。「宇宙からの色」が落ちたアメリカとは海を挟んだ地で活躍していた彼ですが、その活躍はほとんど同時期。
 だとすれば、ホームズがその恐怖に挑むのも設定的に全くありえないことではない…というわけで、本書はある意味、夢の、いやある意味悪夢の取り合わせが実現した、全三作品の極めてユニークなアンソロジーであります。


 と、そこで冒頭に収録された山田正紀「宇宙からの色の研究」なのですが…これがまずとてつもない作品。あらすじを書こうとするとネタバレになり、しかしそれを見ても誰も信じてくれないであろう、一種の飛び道具的作品であります。

 何しろ本作の舞台は「現代」であり、題材となっているのも、ホームズと「宇宙からの色」に留まらず、「嵐が丘」であり「フランケンシュタイン」であり、そしてその作者たち(!)であり――いやはや、凄まじい混沌であります。
 しかしその中で描かれるのは、現実と虚構、作者と登場人物の関係性であり、そして超現実的でありつつも見事に伝奇的な手法の中で、クトゥルフ神話という概念の特殊性を少々意地悪くついてくるのは、作者ならではのひねりぶりでありましょう。

 この題材でこの作者の作品くれば、どうしても同様に現実と虚構の相剋を描いた「エイダ」を連想してしまうのですが、しかしそこに「クトゥルー」という要素を持ち込むことで構造をシェイプアップし、かつ「超越者との対峙」という、作者お馴染みの構図に持っていってくれるのも嬉しい
 そう、本作の語り手は、人間性を軽んじる「超越者」に、人間としての矜恃を持って一人対峙する、確かに山田主人公の系譜に属する者なのであります。あまりにも呪われた魂の持ち主ではありますが…

 あまりの曲者ぶりに驚かされますが、しかしこの作者ならではの、この作者でなければ描けない逸品であります。
(にしても、神様にも等しいあの方を、あんな無惨な――それでいてどこか山田作品らしい――殺し方をするのはやはりとんでもないというべきでしょうか)


 長くなってしまいましたので、次回に続きます。


「ホームズ鬼譚 異次元の色彩」(山田正紀、北原尚彦、フーゴ・ハル 創土社) Amazon
ホームズ鬼譚~異次元の色彩 (The Cthulhu Mythos Files 8)


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